第20話 特技

資料室は狭くこじんまりとしていた。

あまり利用者がいないのか室内はカビ臭く、空気は淀んでいた。

エッボがスキルに関する蔵書を二

クロードは閲覧用の机に本を置くと、椅子に腰かけ、静かにページをめくり始めた。

本はどれも手書きで書かれており、印刷技術のようなものがこの世界にはまだないことが伺えた。本自体が貴重品だとすると、この資料室にある蔵書数でも恵まれている方かもしれない。


書かれている文字は≪多種族言語理解LV5≫のおかげか、理解できる。


一冊目については、スキルとは何かという根源的なテーマで様々な考察と記録が書かれていた。

スキルとは何であるかということについては、前にエッボから聞いた説明の通りだった。

この世界の共通認識なのであろう。どこか宗教的な色彩が強く、これらの恩恵は、全て神々の加護のたまものであると決まり文句のように書かれている。

スキルはその強さに段階があり、同じスキルでもレベルが高いほど効果が高く、LV5が最高なのだという。

スキルの使用方法については、スキル名を口にするか、心の中で発動しようと念じることで効果が生じるものと常時あるいは特定の条件下で自動発動するものが存在すると書かれていた。


もう一冊の本には歴史上所持が確認されたスキル名と効果が詳細に記されていた。


≪頑健≫は、身体が丈夫で、非常に健康な状態を維持することができる。常時発動する恩恵で、このスキルを授かったものは寿命が長く、病気にもなりにくいのだという。


≪五感強化≫は、五感が常人より鋭く、優れている状態になることができる。意識的に遠くを見ようと思ったり、聞き耳を立てようとしたときに自動的に発動する恩恵。

このスキルを授かったものは、狩人や斥候で名人と呼ばれる人が多かったという。


≪多種族言語理解≫は希少なスキルで、これを持つ者は少ないため謎が多いのだという。光の神々に生み出された種族の言語を広く理解できるようになる。主な種族としては人族、エルフ族、ドワーフ族等。その他の善良なる少数種族の言葉もわかる。


≪危機察知≫は、言葉通り自分の身に危険が迫っていることを人より早く気が付くことができるというスキルである。他人が自分に向けている悪意や投擲物などを察知しやすくなるのだそうだ。


この本には、剣術、精霊魔法、各種属性魔法(火、水、風、土など)、魔物使役などファンタジー大好きな人間であれば聞いたことがあるようなスキルがたくさん記載されていたが、肝心の≪異世界間不等価変換≫については一切記載がなかった。


一番調べたかったことがわからなかったので、クロードは落胆した。

しかし、得られたものも多かったのは事実だ。

少しずつではあるが、この世界の流儀のようなものがわかってきた。

エルフやドワーフが存在し、スキルや魔法があって、レベルアップさえする。

まるでファンタジー物のロールプレイングゲームだ。

どんなスキルがあるのか記録しているこの本などは、まさにゲームの説明書のようである。

ゲームのような世界ではあるが、腹が減ったり、痛い思いもする。

人と触れ合えば、やはり血の通った温かさがある。

このような不思議な世界になぜ自分は来ることになったのか。

元の世界に帰る方法はないのか。

これらの疑問を解く鍵は≪異世界間不等価変換≫というノトンの蔵書にも記載のない謎のスキルにあるような気がする。


王都のギルドには、ここよりも蔵書が多いということだったので、疑問を解決できるような詳しい書物があるのかもしれない。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る