第19話 始末

翌日、オルフィリアは父親の消息についての情報収集に出るとのことだったので、別行動をすることになった。

クロードは仕立て屋に寄り、頼んでいた服を受け取ると、冒険者ギルドに向かった。


冒険者ギルドを訪れるとクロードはちょっとした有名人になっていた。

ゴルツを返り討ちにした驚異の新人。凄腕の剣士。

ゴルツがギルド内で嫌われていたせいか、すれ違う冒険者たちからはおおむね好意的な声をかけられた。

中には、スカッとしたぜといった喜びの声まであった。

ゴルツという男は、恐れられていたと同時にかなり嫌われていたみたいだ。


「あっ、クロードさん。ちょうどいいところに来た」


小太りの男性職員が小走りに近づいてきた。

昨日の揉め事の後始末について話があるそうだ。

ギルド内の個室に案内され、そこで話を聞くことになった。


「昨日はなんというか、大変でしたね。正直、あのゴルツにはギルドも手を焼いていたのです。実力はあるのですが、粗暴で問題ばかり起こしていました」  


男性職員は満面の笑みで、温かい飲み物を入れてくれた。

冒険者登録に来た時よりずいぶんと愛想が良くなったのは気のせいだろうか。


「クロードさんたちは当然、お咎め無しです。証人もたくさんいましたし、何よりゴルツが自分で持ちかけた訓練で怪我をしたわけですから。いや、それにしてもクロードさんは本当にお強い。昨日の一件でクロードさんをパーティに引き入れたいという申し出がいくつもありましたよ。あっ、申し遅れておりました私の名前はエッボです。どうですか、連れのエルフのお嬢さんも一緒にどこかの求人受けてみませんか」


このエッボというギルド職員、裏で斡旋料とかとって小遣い稼ぎでもしてるんじゃないだろうか。そう疑わせる熱心ぶりである。興奮し、まくしたてる男性職員を落ち着かせ、ゴルツの安否について尋ねた。


エッボの話によると、その後ゴルツは応急手当てを受け、町の医術院で療養中とのこと。彼がパーティを組んでいた仲間たちからは、パーティ解散の申請を受けたので受理したそうだ。あの両腕では冒険者は続けられないだろうし、頭に少し血が上っていたとはいえ、少しやりすぎてしまったとクロードは反省した。


「そうそう、そのパーティメンバーの一人から和解金を預かっております。どうぞお受け取りください。同じ界隈で仕事をする冒険者同士、今後の禍根を残したくないとのことで、ゴルツのした横暴を許してほしいとのことです」


「和解金ですか?」


「つまり、迷惑料払うから恨みっこなしにしてくれっていう申し出です。ゴルツの仲間の一人がやじ馬の中に混じって見物していたそうなんですが、クロードさんのあの凄まじい剣技を見たらね。こんな奴に恨まれて、仕返しされたらヤバいって思ったらしいんですよ。こういう仲裁もギルドの仕事の一つです。和解金を受け取り、水に流しますと書面に残しておくんですよ。ここに署名もらえますか」



署名をするとエッボは革袋を渡してくれた。

中には銀貨三十枚が入っていた。

銀貨三十枚の価値はわからないが、なにせ無一文の身の上、ありがたく受け取っておく。


出された飲み物に口をつけながら、彼の話の続きを聞く。

ハーブを入れた紅茶に近かったが、独特の苦みがあり体には良さそうだ。


前に彼が話していた魔法が使えるメンバーを募集していたのはやはりゴルツのことだった。ゴルツは金獅子クラスの昇格が目前の銀狼ランクだった。メンバーの一人と仲違いし、受注していた仕事が中断している状況だったのだという。仕事の中身については依頼主の関係があるので明かせないが、魔法を使える人材が必須の仕事だったらしい。昇格がかかった大事な仕事だったこともあり、余計に焦りを募らせてしまったのだろうとのことだ。


話のキリがいいところで男性職員の出してくれた飲み物を飲み干すと、以前彼が勧めてくれた資料室の利用の許可を切り出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る