第6話 異形
先ほどの音に対する好奇心には勝てず、慎重に様子を見に行くことにした。
他にあてもないし、事態が打開できる何かがあるかもしれない。
かなり危険そうだが覚悟を決めた。
Tシャツを脱ぎ、腰に巻き付け、下半身を隠すことにした。
かなり酷い恰好だが、仕方がない。
下流に向かって歩いていると、ふと気づいた。
ごつごつした石や木の枝を踏んでも足が痛くないのだ。
痩せて体重が軽くなったからというわけではなさそうだ。
見れば数日前、血だらけになった足裏の皮は傷が癒え、
足の皮が厚くなっている気がした。
空腹を感じるものの体の調子は悪くなく、むしろ力が漲っている。
しばらく下流に向かって歩くと遠くの河川敷に複数の人影が見えてきた。
目を凝らしてみると、馬と人が人間の子供くらいの体格をした何かに襲われている。
足早に近くの大岩の陰に隠れて、様子をうかがう。
それにしても気になるのは子供ほどの体格をした謎の生き物である。
頭髪は無く、耳は小さく尖り、肌は浅黒い。
異形。
この生き物がなんであるのか。
それを形容するにふさわしい言葉があるのだが、
常識と理性が拒絶しようとする。
「まさかゴブリンとか……。ゲームじゃあるまいし」
身体には、粗末な服を着て、靴のようなものも履いていることから知能はありそうだ。
襲われているのは女性だった。
長い白銀の髪に、白い肌。
耳の形が少し特徴的だった。
普通の人間の耳と比べると細く長い。
引き締まった体には、皮でできた鎧のようなものを着ていた。
女性は馬をかばいながら、剣を振り回し、小鬼たちを近づけないようにしている。
馬の背には荷物と弓が見える。
小鬼たちの数は六匹。
その動きは連携が取れており、入れ代わり立ち代わり、隙を突いてくる。
多勢に無勢。
馬をかばいながらでは消耗戦になってしまう。
それにしても、この状況をどう理解すればいいのだろうか。
あの妙な生物さえいなければ、外国人女優やコスプレイヤーが、中世風の何かの撮影中であるとか説明のつけようはある。
しかし、自分が考えられる推測をこの奇妙な生物がぶち壊しにしてしまうのだ。
自分がいま置かれている状況を考えると頭がぐるぐるする。
俺がいるこの森は、日本じゃないのか?
そして、この鎧が撮影の小道具でないなら、今は西暦何年だ?
そもそも、ここはどこなんだ?
落ち着け、落ち着け。
自分に言い聞かせる。
その時、風邪を切る音が聞こえ、肩に軽い痛みが走った。
周囲を見渡すと黒い影が四つ。囲まれていた。
ゴブリンだった。
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