第5話 水面

川だ。


川があった。


木々や茂みをかき分け、視界に飛び込んできたのは、向こう岸までなんとか歩いて渡ることができそうなくらいの川だった。

水位は深いところでも腰の高さぐらいであろうか。

川幅がそこそこあるので、流れは緩やかだった。

川に近づくと、我慢できず水をたらふく飲んだ。


身体に生気が宿るのを感じた。

今まで生きてきて、一番うまい水だと感じた。

飲める水だったのか、寄生虫はいなかっただろうか、後で心配になったが

飲んでしまった今となっては、もうどうしようもない。

それほどに、この水が必要だったのだ。


手や口にこびりついた血を川に入って洗う。

川の水流れは、緩やかで、その冷たさが心地良い。


河川敷には、ところどころ水が溜まっている場所があったので、雨が降るともっと大きな川になるのかもしれない。

水たまりに近づき、水面に映った自分の顔を見てみた。

そこには日常、鏡で見ていたものと違う顔があった。

深く落ちくぼんだ眼窩、瘦せこけた頬、青く浮き出た血管。


具合が悪くなり、気を失ってからそんなに経っていないはずなのに、この変貌はどうしたことだろう。


何カ月も何も食べてないかのようだった。


しばらく自身の姿に愕然としていると、少し離れたところで、馬のいななき、金属のこすれる音、争う物音が聞こえた。

何かラッパのような音も聞こえる。


今いるところから、もっと下流。


水の音にかき消されず、かすかにではあるが確かに聞こえた。

どう考えても、ただ事ではない。

誰かが襲われている。

犯罪か。

しかし、馬など競馬場や乗馬体験くらいでしか見たことはない。

なぜこんなところに馬がいるのか。


行ったところで何ができるのか。


無事、森を出られたら警察に相談に行くことぐらいしかできない。

何よりこの風貌で現れたら、こっちが警察に通報されてしまう。


何せTシャツに下半身露出した状態なのだ。

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