第3話 転移

目が覚めるとそこは、薄暗い森の中だった。


木々の間から光がところどころ差し込んでいるので、夜ではないのであろう。

山の植物に詳しいわけではなかったが、このあたりに生えている草花は、市街地や実家の周辺の山に生えているものとは違う。

草花だけではない。

周りの木々も、葉の形、樹皮の様相からしても記憶にない。

あえていうなればスギやマツのような針葉樹だった。


なぜ自分は、このような知らない場所にいるのか。

体調不良を感じ、ベッドで寝込んでいたはずだ。


Tシャツと下着しかつけていないので、肌寒い。


体調は、昨日よりは幾分ましだったが、万全には程遠い。


「このままじゃ、本当に風邪ひくぞ」


本当はまだ夢の中で、目が覚めたら自分の部屋というのを期待したかったが、五感で感じるこの状況はリアルすぎる。

樹齢何年かわからないが太い大きな木の幹に寄りかかり、これからどうすべきか考えた。


現在地がわからず、この体調では動き回るのは危険だが、ここでじっとしていて、本当に誰か救助に来てくれるなんてことがあるのだろうか。

大学や両親が異変に気付いて捜索願を出すのに何日かかるのだろう。

現実的に考えて、食料と水の確保は必要だと思われたので、辺りを捜索してみることにした。


原因不明の体調不良といい、今自分の置かれている状況といい、なんで自分がこんな目に合わなくてはいけないのか。


心細さと所在のなさに、叫びだしたくなるが、そんなことをしても何も解決しないのはわかりきっているので、我慢した。


しばらく歩いていると足裏が痛み出し、血が滲んだ。


水音がすれば川が見つかるのではないかと期待したが、時折、正体不明の獣や鳥の鳴き声が聞こえるだけで、そのたびに身震いした。

熊よけににでもなればいいと木の棒を拾い、歩きながら木の幹などを打ち付けて、音を出しながら歩くことにした。

そうやってしばらく歩き続けたが、食料はおろか水も見つけることはできなかった。


残ったのは足の痛みと途方もない疲労感だった。


朽ちた巨木の根元の洞に落ち葉を集め、その中で夜を過ごすことにした。


夜になって、熱が上がりだした。

寒気とともに吐き気と眩暈がして、自分の死が現実のものに感じられた。

具合の悪さのせいか、空腹感は不思議と無かった。

なかなか眠れなかったが、目を閉じて少しでも身体を休めるように努めた。


しばらくたって、今まで経験したことのない熱にうなされ、目が覚めた。


身体が燃えるように熱い。


じっとしていることができなくて、木の洞を出る。

夜の冷気が気にならないほどの熱と全身の関節の痛みに苦悶した。

これはやはり普通ではない。

なにか深刻な病気に侵されているのではないか。

重労働した後のように、全身の筋肉が悲鳴を上げ、骨がきしみだした。


あまりの苦しさに、楽になりたい、誰でもいいから助けてくれと心の中で呟いた。


自然に目から涙がこぼれ、地面を転げまわった。


一晩中、のたうち回り、そして気を失った。

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