第2話 夢境

気が付くと白一色の眩い光の中にいた。

温かさに包まれて心地良い。

身体の感覚は無く、手も足も動かすことはできない。

たぶん、これは夢の中だな。

漠然とそう思うことにした。

夢だと思えば気楽なものだ。

水中の中にいるような浮遊感と全身を包む光の心地よさに、恍惚としてしまう。


しばらくすると、どこからか誰かの話し声が聞こえてきた。


「それでは話が違います。代償は払ったのです。せめて、この先は私に委ねてください」


凛とした女の声だ。何か切迫した様子で、語気を強める。


人がせっかくリラックスしているのに騒がしいことこの上ない。

話し声がする方向を見ようとするが、身体が動かない。


「代償か。愚かなお前の、愚かな信奉者どもが愚かな方法で集めた命。最悪な事態と混沌を生み出しておきながら、その言い様」


もう一人は低音で威厳を感じさせる男の声に聞こえた。


「ならぬ」


一際大きく、雷鳴のように男の拒絶が辺りに響き渡る。


「最後の希望なのです。不確かな偶然に委ねるなどできません。何か加護のようなものをつけてやりとうございます。それでなければ、せめて話だけでもさせてください」


「愚かで不出来な我が愛娘よ。これでも最大限の温情と思え。見限られ滅びを待つばかりのお前が卑劣な手段で我を巻き込んだことを忘れたか。盗人のように、我の物を掠め取ったお前が我が娘ではなかったなら塵と化してくれるところだ。いいか、よく聞け。これ以上、我らは介入してはならぬ。はるか高位高次元体たる我が創りし世界とそなたが創りし世界では次元が違い過ぎる。次元が大きく違う二つの世界間で、同価値に釣り合うようになされた歪な質量交換。何が起きるのか我にもわからんのだ。これは理の外だ。我らのこれ以上の干渉は、滅びを早めることになろう」


「世界の消滅、信徒の滅亡は、それを糧に存在する私の消滅。私が消えても、父は悲しくないのですか」


「話はこれでおしまいだ。事はすでに為された。あとは我らやさらに高位の方々を創りし、唯一無二のあのお方の思し召しのままに」


男がそう告げると、光は一層強く輝き、全身が光の中に飲み込まれる。


指先から光の粒となって、身体の形が崩れていく。

光の粒は浮かび上がり、天に吸い込まれていく。

言いようのない快感を感じながら、自分の身体が無くなっていくのを眺めていた。

不思議と恐怖感は無い。

だって夢だもの。

そのうち目が覚めて、気が付けばベッドの中さ。


言い聞かせていると少しずつ意識が遠のいていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る