異世界漂流備忘録 かつての全てを忘れる前に

高村 樹

第一章 異世界漂流

第1話 異変

突然、酷い眩暈を感じ、床に倒れ込んだ。

呼吸が乱れ、息を吸っても吸っても苦しさが消えない。

胃の中身をすべて吐いても、吐き気は収まらず、

手足がしびれ、力が入らない。

目からは涙がこぼれ、視界が滲んだ。


だんだん眩暈が酷くなっていって、起き上がることができない。

自分が天井だと思っていたものが、ぐるぐると回っている。

手足が冷たくなってきた。

自分はどうしてしまったのだろう。

思考がまとまらない。

視界がだんだん狭まってきて、死ぬのかもしれないという根源的な恐怖が全身を覆っていく。


ベッドに横たわり、体調が悪くなった原因を考えたが、なにも思い当たらない。


就職も決まった大学四年生ということもあり、遅く起きて布団にくるまったまま、昼過ぎまで、ゲームで遊んでいた。同じ姿勢で長いこといたせいか体中が凝っている感じがしてきた。ゲームも区切りのいいところまで進んだので、どこかで適当に遅い昼飯を食べて、大学に顔を出す予定だった。

我ながら自堕落な生活ぶりだ。

大学に行けば、同じように暇してる友人や後輩がいるだろう。

そいつらを誘って暇つぶししようと考えていた。

飲みにするか、張り切って合コンしちゃうか。

今後の予定をあれこれ考えながら、シャワーを浴びて身支度を終え、1Kのアパートを出ようと思っていたところだった。


それがなぜ?

今年の健康診断ではどこも異常がなかったはずだ。


一、二時間経っただろうか。

苦しさや手足の痺れがかなり落ち着いてきた。

吐き気も、胃の中身が空になったおかげか、今はおさまっている。

原因が気になるので病院には行くが、この様子なら明日でいいだろう。


少し熱っぽくなってきたような気がしたので、熱を測ってみたかったが、体温計がない。

子供の時から身体だけは丈夫で、風邪ひとつひいたことがなかった。

大学入学が決まり、上京するとき、母が買っておいた方がいい物のリストを作って渡してくれたが、その中にあったような気がする。

素直にアドバイスを聞いておくべきだった。


母に電話で体調不良であることを伝えた方がいいかと思い、スマートフォンを取り出したが、余計な心配をかけるだけだと思い直した。

年明けには妹の受験があるし、父も仕事で忙しくしていることだろう。


大学に顔を出すのはやめた。

大した用事があったわけでもない。

目が覚めたら、体調が良くなっていることを祈って朝までひたすら眠ろう。


外出用の服を脱ぎ、Tシャツとトランクスになるとベッドに潜りこんだ。

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