第19話 お礼

今日は、洋子さんがお礼がてら来るとお店に連絡があった。

そのせいか、翔也は見た目にも落ち着かない。マスコミのせいもあって連日、若い娘が店に来るのに本人はいたってうぶだ。まあ、幼いころからこの世のものではないものが見える性分なんだから、色恋沙汰は後回しになるのも無理はないかも…。

就業時間が終わっても、洋子さんが来るまではいてほしいといっていたが。

よそ様の色恋ざたには、あまり興味がないので時間きっかりに帰らせてもらう。

「では、お先に失礼しまーす」美空の声に、翔也はうらめしげな目で訴えていたが。


♡♡ーーーー♡♡♡ーーー♡♡


自動ドアが開いて中に入っていく。ピピピーーと、音がすると中から翔也が出てきた。

他のスタッフは帰ったのだろうか。

「もっと、おちついてからでよかったのに怖い思いしたんだから」私を見ると、やさしく翔也は声をかける。

テーブルの向かい席に通されながら

「いえ。できればもっと早く来たかったのですが、皆さんには本当にお世話になりました。これはお菓子とあと、こういう時の相場がわからなくて…」とテーブルに紙袋と、封筒を置く。

「警察署で事情調書の後にすぐに私のお金は戻ってきました。凜たちも事件のあらましを証言してくれて、そのせいもあって。でも、凜のしたことは許せないけど…。」彼女の温和な顔に怒りの表情が浮かぶ。

テーブルの上に置かれた封筒は、かなり厚みがある。

「今回の場合は依頼されて動いたわけじゃないから。自分たちで勝手にしたことだし、だからお金は受け取れないな」

「いえ、あのままだったら私、監禁されて乱暴されて死ぬまで客とらされてたかもしれないんです。今、考えてもおぞましいことです。こんなことは、テレビや映画の世界だけだと思っていたのですから。だから、お金は受け取ってくれないと困ります。封筒の中には50万入っています。少なかったらまた請求してください。それと、おばあ様にもぜひ会ってお礼がいいたいんです」

「実は、俺に占いをついでから勝手に引っ越していって家族にも住所は教えてくれないんでわからないんだ。2,3ケ月に1回はふらっと家に寄るんだけどね。今回のようなことは俺ともう一人の美空さんの能力を合わせても到底できなかった。思念だけで、居場所を探し当てるなんて…」

「なんとか、おばあさまに連絡をとる方法はありませんか?あなた方は、命の恩人なんですよ‼」


「…じゃあ、5回デートすると約束してくれたら婆ちゃんに電話してもいいよ」

「えっ⁈」

(なんか、急にキャラちがわない?こんな時に何ふざけてるんだか。話にならない。とにかくお金だけ置いて帰ろう。)

「俺、いたって真剣なんだけど。君にしかこんなこと言わないから」

(この間喫茶店で会った時といい、この人ってただのナンバ男なのかしら…)


「すみませんが、私は今だれともつきあう心の余裕ありませんので」と言って、椅子から立ち上がり帰ろうとする


すると、前に座っていた翔也が引き留めようと私の腕をつかんで引き寄せようとした時に二人の足がもつれて、二人とも床に倒れ落ちた。


「つっ!大丈夫⁈ ごめん、痛くなかった?」


「痛ーい。何するんですか? えっ⁈」次の瞬間。洋子はいっとき空を見る目をしていた。


「‼」


「もしかして、君にもみえた⁈」私の様子が不自然に感じたのか、翔也の口から言葉が漏れる。


「これって‼私たちの…未来?」頭の中では少し大人びた私と翔也が中睦まじく料理店でテーブルをはさんで食事をしていた。私の横には、翔也に似た女の子のかわいい笑顔と翔也の隣には、私によく似た男の子が楽しそうに食事をしている光景が鮮明に見えていた。


「…だと思う。まえに婆ちゃんに話した時に、婆ちゃんは笑いながら言ってたんだ。自分の未来はみれないのがこの仕事の定めだけど、神様も時々は粋なはからいをするもんだってさ。ってかごめんだけど、この姿勢かなり重たい」仰向けの俺の身体に斜めに重なるように彼女の身体が乗っかっている。

「えっ、きゃあ。ごめんなさい」慌てて身体を離そうとするが、手がすべってまた俺の身体の上に戻る。

「うっ」彼女の身体が再度、加速をつけて乗っかかる。

「まあ、もうこのままでいいんじゃない? んっとに、助かってよかった…」


彼の手が私の身体を引き寄せ、床で抱き合う形になっている。

さっきの映像がまだ、頭の中に残っていて身体じゅうがボッと熱い。まして、かっ、顔がかなり近くて彼の心臓の規則正しい音が伝わってくる。そして、彼の顔は私の顔に被さってくる。私は、自然に目を閉じていた。唇に感じるやわらかな感触と体温。細かな息づかい。(神様も時々は粋なはからいをするもんだってさ)さっき、聞いたばかりの言葉が脳裏に浮かんでいた。




















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