ある朝の風景

柚緒駆

ある朝の風景

 ある朝、彼女の家の軒先に火星人が死んでいた。夏の陽に干からびて。のたくった七本の腕は大きなミミズに思える。不気味だ。まったく不気味だ。

 ガラリと玄関の引き戸が開いた。リュックサックを背に彼女が飛び出してくる。

「行って来まーす」

 いつものように明るく元気な声。どこかに遊びに行くのだろう。だがその目が丸く見開かれ、駆け出した足は止まった。

「あっ」

 彼女はそれに駆け寄り、しゃがんでじっと見つめる。そして家の中に聞こえるように大きな声でこう言った。

「お母さーん! セミが死んでるー!」

 そして楽しそうに笑うと、また駆け出した。どうやら俺のプレゼントを気に入ってくれたみたいだ。

 23世紀、友好的なシリウス星系人の到来によって地球は宇宙に開国し、数多の知的生命体が来訪した。そんな中、もはや地球環境に適応できない火星人の死体など珍しくもない。現代の地球人の子供にとっては、今年初のセミの死体の方が興味を引かれるのである。

 だが、セミばかり持ってきても仕方ない。彼女もそうそう喜ばないだろう。

 明日はカブトムシでも持ってこようか。クワガタでもいいかな。そんなことを思いながら、俺は空に羽ばたいた。

 カア、と鳴きながら。

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ある朝の風景 柚緒駆 @yuzuo

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