第19話 国境へ

「ルシファーが感じている気配。その方角は偶然かもしれないけど……ルミナス王国と商業連合の国境の方角だ」


 そう、都合のいいことにルシファーの羽根がある方角と、僕らの目的地がある方角は一致している。ここまで来ると偶然ではなく、何かの必然性を感じてしまう。


「不幸続きかと思っていたけど、やっと運が回ってきたみたいね」

「そうだといいけど……羽根はすぐ見つかる物なのかい?」


 ルシファーは気配を感じるみたいだけど、僕には気配を感じることは出来ない。


 羽根を探すとなると、ルシファーが唯一の頼りだ。


「羽根まで距離があるせいでハッキリ言えないわね。封印とかされていない限り、近付けばすぐに見つかると思うわ」


「封印とかされていない限り……か。こう聞いたのは、ルミナス王国側の国境に長居出来ないからだ」


 国境沿いというのはどの国も警備が厳重だ。ルミナス王国側の国境沿いでは、教会が運営している教会騎士団が警備をしている。


 なるべく教会騎士団とは関わらず、国境を抜けたい。国境沿いに長居すればするほど、騎士団と遭遇もしくは僕らの存在がバレてしまう可能性が高くなってしまう。羽根をすぐに見つけて、国境を早く抜けたい。


「お前様を生贄にした教会の連中と会いたくないんでしょう? でもお前様はそいつらに一矢報いたいと思っているんじゃないのかしら? 見つかったら見つかったで正面突破するのも手じゃないかしら?

 私とお前様なら大抵の敵は倒せると思うけれど」


 ルシファーの言う通り、いずれ衝突するかもしれない相手にコソコソする必要はないかもしれない。それにAランクオーバーの魔物を倒した僕達なら大抵の敵には苦戦することはないが……。


「ルシファーの力も完全ではなくて、僕も魔神化の力を使いこなせている訳ではない。

 その状態で教会騎士団、それとエンデュミオン家に正面から敵対するのは無謀だ。恐らくだけど、今のルシファーでは勝てない存在が教会にはいる」


「私でも勝てない存在、ね。どんな存在か気になるわね」


 運がいいことにそいつは今王国にも商業連合にもいない。帰ってくる前にルシファーの羽根を集めて、魔神化の理解を深めて、そのレベルと戦えるだけの力を身に着ける。


「どの時代にも私の脅威になりうる存在がいるのね。退屈しないわね」


 楽しそうに微笑むルシファー。彼女が生きていた時代に、彼女の脅威足りえる存在がどんな物か想像つかないけど、彼女と関わっている内にわかるだろうか?


「話が終わったのです。……ってルシファーが笑っているみたいだけど何か話したのですか?」


「カエデなら知っていると思うんだけど、王国の英雄の話をちょろっと」


 冒険者との話し合いを終えたカエデに、僕はそう言う。カエデは何か察したみたいな表情を浮かべる。


「もしかして王国の英雄、【勇者】ルキウスのことですか?」


「そう。今のルシファーとルキウス。二人が戦ったらどっちが勝つと思う?」


 カエデは顎に手を当ててうーんと考えた後。


「勇者ルキウスを直に見たことあるわけじゃないけど、噂通りの強さなら今のルシファーでは絶対に勝てません」


 カエデが言い切ったのを聞いて、更に楽しそうに口元を歪めるルシファー。


 【勇者】ルキウス。チートと同じ、勇者のスキルを授かり、王国の英雄と呼ばれているルミナス王国最強の存在。


 王国一の魔力出力を誇り、数多の聖剣に愛された人間。人類の天敵である魔王を単独で三体撃破したらしい。


 魔王はAランクオーバーの魔物とは比べ物にならないほどの力を持っている。魔王は国単位の戦力を持ち出してトントンだ。それを単独で倒した人間は歴史でも数えるほどしかいない。


「ルシファーが魔神だったとしても、封印された今の状態では魔王には届かないと思うのです」


「魔王に届かないって、私が言われるなんてね。その昔はちり芥と変わらなかったのにね」


 全盛のルシファーがどれだけ強いのか、もう想像するのも難しい。


 と話がズレてしまった。


「どうやら国境にルシファーの羽根があるみたいなんだ。羽根の回収は最優先だけど、国境で長居するのはリスクになるから、それについて話をしていたんだ」


「なるほど。そういうことだったのですか。国境で活動する必要が出てきたら、国境沿いの街ではなくて、近隣の小さな町か村で宿を取りましょう。国境の警備は厳重ですが、近隣になると警備が緩くなりますので」


 国境沿いの街は教会騎士団で警備は厳重だけど、近隣になると警備は緩くなる。恐らく、有事の際には、国境沿いの街から教会騎士団をすぐに手配できるからだろう。


「それで行こう。取りあえずは最善は羽根がすぐに見つかることなんだけど」

「何とかなるわよ。気配は感じれるから、見つけるにはそれほど手間かからないと思うわ」


 封印されておらず、すぐに羽根が見つかって国境を超えられると思いたい。そう思いながら、僕らは国境へと向かうのであった。

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魔神の契約者~「呪われたスキルを授かった忌み子のお前は魔神の生贄にしてやる!」と言われた僕は、奈落の底で魔神と契約し、【魔神化】の力で無双する。国と実家が刺客を送り込んできたので徹底的に潰します!~ 路紬 @bakazuma

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