第4話

 暗闇と雑木林が覆う枝葉に浴衣が何度も裂けてきた。

 サンダルも片方どこかへと蹴飛ばした。

 私は無我夢中で走っていたのかも知れない。

 気が付くと、大勢の人だかりの真ん中へ。学生服の男子たちを掻き分けボロボロの恰好で駆け込んでいた。

 アスファルトの上の聖次の体を庇うかのように、覆い被さると、学生服の男子たちは角棒を振り上げた。

 青い痣ででこぼこの聖次の顔を覗くと、聖次はへらへらと笑っていた。

 私も背中に痣ができるほどの衝撃を受けた。


「ああ、キミか。来てくれたんだ。俺と結婚してくれるよな?」


「なんで?」


 救急車のサイレンが鳴り響いて。次第に人だかりが皆、道路へと顔が向きだした。

 一通り角棒の打撃がおさまると、学生服の男子たちは静かに帰って行った。


「なあ、名前なんて言うの?」


「志津子……よ」


 私のクシャクシャな泣き顔に向かって、いまだに聖次は笑っていた。


 へらへらと……。





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夏と花火と白雲と 主道 学 @etoo

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