第45話 再戦、そして最悪



 なんだ? なんなんだ?

 私は困惑した。もういるはずのないこの場所に、人間の姿が見えたからだ。見たのは自分の生み出した子供の目。この場所には生きているものはもういないはず。なら自主的にテリトリーに入ってきた人間だな。


 まさか、生物を惨殺している私のことを殺しに来たのか? いや、この者たちは私に救いを求めてきたのだのだ。私に殺されることによって世界の秩序をもとにもどすのだ。


 ん? いや待て。この人間見たことがあるきがする。姿は変わっているが、あのちび人間と普通の人間は見たことがある。そうあれは一度私の弱点を壊し、私のことを殺した人間だ。


 なぜここにきた? なぜそんなにも堂々と私の前に立ちはだかろうとする? まさか、私がここに蘇ったことを知りもう一度殺すために来たのか?


「#%ーー+<<\(=;’!!!!」


 私はあの人間に対して大きな声を出す。

 今度は私が殺す。生物を殺す人間など、救うに値しない。その四肢をもぎ取り私の体に吸収してやろう。そして、世界にいる生物のことを救うことは絶対に邪魔はさせない。


 神よりたまいしこの力を使い、全力で受けて立とうではないか。世界を救うのはこの私だ。


■□■□


「#%ーー+<<\(=;’!!!!」


「おい! なんか怒ってるぞ!!」


 俺たちが門から国の中に入った瞬間。奥にある、母体らしき大きな黒い物体から咆哮のようなものが聞こえてきた。


 流石にこんな大きな音、偶然とは思えない。こいつ、俺たちが入ってきたことがわかっているんじゃないか……。いやまさかこいつ、亜種を通して姿が見えているんじゃないか……? 

 だって、生み出しているんだろ?


「そんなこと言われなくともわしらにも耳があるんじゃから聞こえとるわい!!」


「なぁ! 作戦、考え直さないか!?」


「いえ! もう手遅れです!! 作戦通りに!!」


 作戦というのは、神器をたくさん持っている俺が母体のところまで行って倒すとか言うバカみたいな作戦。


 その途中で邪魔をしてくる亜種をここにいるルイサ、あと戦力外通告を渡したのについてきたトッティが始末する。


「なんであのときの俺、こんな脳筋作戦に賛成したんだよ」


「そんなの知らないのじゃ! わっ! お主の横から亜種が来たのじゃ!」


「え!?」


 俺はトッティの言葉を聞いて、慌てて横を見る。するとそこにはものすごいスピードで近づいてくる亜種。

 これ、間に合わ……。


「よっと……」


 男の声と同時に俺の目の前に剣が現れた。そしてその剣は、近づいてきていた亜種のことを弾いた。俺は誰かと思い後ろを振り返ると……。


「ここは、マサルさんと命の盃を交わしたこの友人である俺に任せろ!」


 その男は、胸を張りながら言ってきた。そう文字通り、上半身裸の男が。

 こいつって……。


「変人……」

 

 俺の代わりにトッティが当てた。

 そうこいつは勝手に俺のことを友人だといった変質者である変人くんだ。だがなぜここにいる? 俺が疑問に思っているとルイサが口を開いた。


「何をデタラメ言ってる!! 私はマサル様のことはすべて知りつくしている!! お前など知らん! というかマサル様には友人などという下等な関係の人物はいない!!」


 こいつ、友人がいないとか俺のことをバカにしてるのか……? いや友人がいないのは事実なんだけどさぁ〜……。なんでルイサがそんなこと知ってんだよ! 

 

 ていうかすべて知りつくしてるとか怖すぎだろ。なんか俺よりも俺のこと、詳しそう。


「ルイサ! あんなやつ構う必要ない! 行くぞ!」


「今行きま……」


 ルイサがそう言い足を動かそうとしたとき。


「#〜,>>’!!」


 声にならない咆哮と同時に、亜種がルイサの体に被さった。


「「ルイサ!?」」


 俺とトッティの声が同時に出た。


「だ……大丈夫でっす!!」


 ルイサはそう言いながら体に被さっている亜種を思いっきり地面に叩きつけた。


 ふ、ふぅ〜……。ルイサって結構力あったんだな……。これ怒らせたらやばいやつだな。うん。絶対に怒らせないぞ……。


「私はここで亜種を食い止めておきます。さぁ今のうちに!!」


 ルイサは槍を手に持ち、矛先を亜種へと向け言ってきた。

 うん。それ、なぜかすごく死亡フラグに聞こえてくるんだけど……。大丈夫だよな。


「絶対死ぬなよ」


 って、俺も何いってんだよ。

 めちゃくちゃ死亡フラグはってんじゃん。


「ふふふ……あなた様をおいて死にませぬ」


 これもまた死亡フラグに聞こえるのだが。

 こいつら、死んだなこれ。うん。まぁ運があれば死なねぇだろ。大丈夫。大丈夫。たぶん。


■□■□


「あやつら大丈夫かのぉ……」


 トッティは後ろを見ながら心配そうに呟いた。そんな心配そうなら、あいつらに頑張れとか言ってやればよかったのに……。というか、現実を考えると俺とトッティはただの引きこもりとのじゃ口調のポンコツ神。うん。やばいなコレ。


「正直、あいつらは俺らより強そうだし大丈夫だろ。そんなことよりっ」


 目の前に来た亜種を避けて、


「自分たちの心配をしたほうがいいのじゃな」


「あぁ」


 トッティがようやく、自分たちののおかれている状況を理解したようだ。 

 そうして俺とトッティは二人で気合を入れ直して足を早める。その行き先は、亜種を生み出している母体。

 その時だった。


「危ない!」


 俺は視界の端にいた亜種がトッティのことを襲おうとしているのを見て、とっさにトッティを押し倒した。

 トッティは「なんなのじゃ!?」と叫ぼうとしたので慌てて口を塞ぐ。その顔からは理解できていないようだ。だがトッティは俺が「しー……」と口の前に人差し指を置くと理解したのか、首を縦に振った。


 俺はそんなトッティのことを見て、周りを見渡す。近くには俺たちのことを見失っている亜種。ここで倒してもいいのだが、倒したら他の亜種がシロアリみたいにわんさかと湧いてくることが予想できる。なので俺たちは亜種がこの場を通り過ぎるまで動かずに待っていた。


 亜種はずっとキョロキョロしていたのだが、さすがに瓦礫の下に隠れている俺たちのことを見つけることはせずどこかに行った。俺たちは遠のいていく足音を聞いてホッとし瓦礫からでる。


 瓦礫から出たトッティは「ふがー!!」と体の骨をポキポキと鳴らし、体の固まりをほぐしていた。もちろん俺も同じように体を伸ばす。まぁ、変な掛け声はないけど。


 俺は一通り体を伸ばし終えたのでトッティに「そろそろ行くぞ」と声をかけようとしたのだがトッティは、瓦礫の上に座っていた。その顔は、刑事ドラマに出てくる助っ人が難事件を前にした名探偵そのものである。うん。俺って結構、比喩うまいんじゃないか?


 俺がそんな感じに自画自賛をしているとトッティは「のじゃ〜……」とため息をつき、


「わし、ルイサにいいところを見せようとして無理してついて来なければ良かったのじゃ」


 言い投げるように言った。

 まぁたしかにずっと、なんでこいつがついて来ているのか謎だったので合点がいった。俺も、ルイサにいいように見られたいのはわかるんだけど……。


「そんなこと言っても手遅れだわ」


 トッティは俺の言葉に「そうなんじゃよな〜……」とため息つきながら立ち上がった。


「よしいくのじゃ!」


 さっきまでの面倒くさそうな雰囲気はどこいったんだよ。


■□■□


 そうしてこうして気持ちを入れ直した俺たちは亜種の軍団から逃げたり、瓦礫の中に埋もれていた人を助けたりして、数々の困難を乗り越えて目的の場所にたどり着いたのだ!


「ふぉー!! 何じゃあれぇ〜!!」

 

 トッティは、首の限界まで見上げ口をボケーっといつか見たことのあるようなバカな顔をしながら言った。

 こいつ、これを無意識でやってたらまじでバカを通り越してアホに昇格するぞ。まぁこいつはもともとアホでバカだから、昇格とかないか。


「あれが母体か……」


 俺はそんなことを思いつつも無意識にトッティと同じように見上げ、口をボケーっとあけながら呟いていた。

 俺は何をしているのだと思い、ハッと首を元に戻す。


「そうみたいじゃの……っていうか意外と、母体の周りには亜種が少ないんじゃな」


 トッティは周りをキョロキョロと見渡しながらいってきた。 


 まぁたしかに母体の周りには亜種がいない。まるで、俺たちのことを歓迎しているかのようだ。

 ん? いや、待て。少ないというよりかはこの場所には一体も亜種がいない。俺たちはここに来るまで、何百もの亜種とすれ違ってきたのでこんな光景ありえない。


「これ、母体が生み出してないな……」


「#ー.〜`’<<\’!!!」


 俺がそう言うと再び母体から咆哮が聞こえてきた。


「怒ってるようじゃな」


 トッティは俺の方を見て言ってきた。

 うん。そんなこと、この国の門をくぐったときからわかってたわ。……ていうよりかはこいつ、俺に向かって怒っていないか? それはさすがに勘違いか……? むむ? いや怒っているのは間違いない。ならばなぜ、怒っているのか。


 …………はっ! まさか、こいつはこの国が自分の部屋だとか勘違いしてるんじゃないか? そう。この怒り方は見覚えがある。いや見覚えというか自分が怒っている側だ。


 あれはそう……俺が引きこもりを初めたての頃。俺がお風呂に行ってるいるとき、部屋の中を母親が掃除して……って回想なんてしなくていいか。俺はそこまで考えて、「まぁな」と怒り狂っているような母体を見てトッティに向かって続ける。


「勝手に自分の部屋を荒されると怒りたくなる気持ちはわかるな……」


「お主。なに母体の気持ちがわかっているのじゃ」


 俺が昔を思い出してしみじみとしていると、トッティはそんなことを無視して俺のことをジト目で見てきた。


 なんだよこいつ。俺があいつの気持ちがわかったらいけないのかよ。俺はそう思い、トッティの頭をチョップする。もちろん加減は考えたよ。だがトッティは、まるで刑事ドラマにでてくる数分の回想で終わる殺された被害者のように「のじゃん!」と名演技をし、痛そうにしゃがみ頭を抱え込んだ。


 あ、あれ? そんなに強く打ってないよな?

 俺はこれから戦いが始まるというのに、なにも母体から攻撃を受けていないのに、早くもダウンしたトッティを不安に思った。   

 

 だがそんな不安は消えた。なぜならトッティはすぐに何もなかったかのように立ち上がったからだ。俺はほっとしたが、まさかこいつ普段からこうやって大げさにリアクションしていたのかと疑問に思った。


 俺はトッティのことがわからず、考えているとトッティは目の前の母体を「むむむ?」と眉を寄せながら何かを考えている。 


 母体についてなにか気づいたことでもあるのだろうか?


「そんなことどうでもいいのじゃ。ほら、目の前に母体がいるんじゃよ? 早く倒すのじゃ!」


「はいはい……そうしますとも」


 俺はトッティの相変わらずな期待を裏切った言葉を聞いて、目の前にいる母体に目を向ける。


「はっ!」


 俺は背中に抱えていた切断の剣を勢いよく振り下ろす。亜種を倒したときのように真っ二つにまではいかなかったものの、半分以上は切ることに成功した。


 俺はそんな傷跡を見て誇らしげに、「これはもう死んだだろう」と確信していたのだが……。


「――シュゥ……」


 俺が与えた傷跡は、奇妙な音を立てながらもとに戻っていった。そう、もとに戻っていったのだ。


 傷跡は決して浅くはなった。俺は目の前で起きている現象が理解できなかった。だってそりゃあそうだろ。こんな、攻撃がきかない相手をどうやって倒せばいいんだ。


「再生したみたいじゃな」

 

 俺がその場に仁王立になり、呆然としているとトッティは何事もなかったかのように今起きたことを言ってきた。

 まぁたしかに、見れば再生しているのはわかるんだけど……。どうすれば……。


 俺は疑問に思っていても仕方ないと思い次なる攻撃をかます。次は右手人差し指にはめている解除の指輪の力を発動させる。すると母体から「――バン!」というような爆発音が聞こえてきた。うん。予想通り。


「――シュゥ……」

 

 すると母体からは再び気持ちの悪い音がなり、もとに戻った。

 一体どうなっているんだ。


「また再生したみたいじゃな」


 こちらも再び、冷静なトッティの声が聞こえてきた。俺はどんな顔でいっているのか気になり後ろを振り返る。するとそこにいたのは、腕を組みその場に堂々と仁王立しているロリだった。


 まったくこいつ……。

 俺はトッティを見て、戦わないのならどこかに隠れていたほうがいいんじゃないかと思った。

 あんなに威張りながら見ているのに悪いんだけども……。


「……もう手がない」


 俺がそう言うとトッティは「……はぇ?」という間抜けな声を出してその後、「まだ神器があるじゃろ」と冷静に繋げてきた。

 まぁ神器はあるにはあるんだけど……。

 俺はそう思い、「いや」と続ける。


「神器はあるけど、ほかはすべて攻撃なんてできないんだ」


 俺がそう言うとトッティは固まった。いや固まっているのではなく、今俺が言ったことが理解できていなかったような顔になった。

 そして、


「な、な、な、な……なんじゃってぇ〜!!」


 トッティはその場で思いっきり叫んだ。

 まさかこいつ、俺に任せっきりで勝つつもりだったんじゃないよな……。


 俺がそう思っているとトッティは慌てて俺が立っている場所まで走ってきた。どうしたのかと思っていると、


「じゃあわしらはどうするのじゃ!?」


 涙ぐんだ声でそう言ってきた。

 どうする……。どうするのかと聞かれると、答えようがない。だってそうだ。俺たちの頼みの綱である神器が効かないのだから。だが、神器は使えないが俺には手がある。


 俺はそう思い、「それは……」と口を開こうとすると……。急に目の前に黒い物体が視界に入ってきた。


「あぶ!!」


 俺はトッティを抱えて、なんとかその場から逃げることに成功した。黒い物体が落ちてきた場所を見ると、地面は溶けていきその場所に落とし穴のようなものができた。


「なっ、なっなんなのじゃ!?」


 トッティは俺の腕の中で震えながら言ってきた。


 俺はそんなトッティに気づき、安心させるように腕に力を入れて口を開く。


「母体から直接の攻撃だ……こいつ、今の完全に俺たちのことを殺すつもりだったな。」


「助かったのじゃ」


「まぁな……」


 俺がそう言い、立ち上がろうとしたが力が入らなかった。もう一度やはり力が入らずその場に尻餅をついてしまった。一体どうなってるんだ? 思うように力が入らない。少し耳鳴りがする。そんなことを思っていると背中から、地面に倒れ込んでしまった。


 固く冷たい土が俺のことを歓迎しているかのように思えた。トッティはそんな俺のことに疑問に思ったのか「む?」と俺のことを不思議そうに見てきて……。


「なんじゃその傷!! お主まさかさっきの攻撃で……」


 トッティは俺の足を見てそう言ってきた。 


 傷……? そうか。俺が力が入らないのってそういうことだったか……。そうかそうか……。


「ぁ……。別にこんなの大したことないさ……」


「いやこの怪我で大したことないのはおかし、」


 トッティはそこまでいいかけてやめた。

 俺の視界には、黒い物体が降りかかりそうにまでなっている。その理由は俺でもわかった。


「――――!!」


 トッティは急いで俺が来ていた防御の服を脱がせ自分たちのことを覆い隠すように隠した。


「#‘ー,./(;―’!!!」


 再び母体から咆哮が聞こえてきた。


 そしてそれと同時にトッティは俺の体の上でモゾモゾとし、「はぁはぁ」と息を整えながら降りた。

 そして、


「生きてるのじゃ……」


 と自分が効かせた起点がうまくいったことに喜んでいた。

 

「…………」


「む? マサル?」


「〜,.(\=<<<!!!」


 今度の攻撃は、風だった。

 もちろん地面に倒れ込んでいる俺はなんの抵抗もできず、風に乗り少し離れた瓦礫にまで飛ばされた。


「っく……。どこじゃマサル!!」


 トッティはキョロキョロとあたりを見渡しながら叫んでいる。


 ここだよ。ここにいるよ。

 そう大声で伝えたいけど、声が出ない。なんでだ……? 頭の中はこんなにも動いているというのに。なんで、口は動かないんだ!


「はぁはぁ……こんなところにいた……」


 俺がそう嘆いていると、いつの間にか目の前にトッティの顔があった。その顔は今まで見てきたことないほどに悲しんでいた。両目からは涙をながしていた。 いつの間に来たんだ? 今はそんな疑問どうでも良かった。


「と……てぃ……」


 俺は文字通り最後の力を振り絞り名前を読んだ。

 喉が切れるような痛みが走る。そして口の中は大嫌いな血の味がする。


「だ、大丈夫じゃ。お主はまだ生きるのじゃ。ほらこうやって、傷口を抑えて血の流れを少しでも遅くするのじゃ」


「ーー\’\‘‘:‘)!!!!!!」


 どうやら母体は俺たちのことを待ってくれないようだ。

 母体の咆哮に答えるように、トッティは俺に小さな声で「少し待っておるんじゃ」と言い立ち上がった。


「マサルはこの上位神の娘、トッティが絶対に死なせないのじゃ!!」


 その威勢のいい声を聞いて、俺の視界が暗転した。

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のじゃ口調のポンコツ神と行く異世界救済!〜死んだら意味がわからないままバカと一緒に異世界に飛ばされました。願いを叶えてもらうため神からもらった【盗賊】スキルで異世界を無双(予定)して旅をする!!〜 でずな @Dezuna

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