第43話 戦い前の作戦会議と心の穴


 俺とトッティはこの国の悲惨な現実を目の当たりにし、どうすればいいのかと考えながら歩いていると、

後ろから不意に声が聞こえてきた。


「なぁお前、あの化け物を倒しに行くんだろ?」


「なんだよ。変人」


「ちこうよるでない。変人」 


 そう。この変人は外に出ているにもかかわらず、俺達の後ろについてきていたのだ。


「ぐはぁ!! 結構辛辣ぅ!! それって友であり、元ルームメイトにかける言葉かい!?」


 変人はそんなことを言いながら、胸を抑えた。

 元ルームメイトかなんだか知らないけど、こいつ……。


「「勝手に妄想する(な)(んじゃないのじゃ)!!」」


■□■□


「化け物を倒しに行くのはいいんですが、何か勝算があってのことですよね?」


 荷台の上。俺たちは全員揃い輪になって座っている


「それを皆の知恵を貸してもらって、今から考えるんだ」


「はっ! わかりました!」


 俺の言葉を聞いたルイサは嬉しそうに返事をしてきた。


「では私は紅茶でも……」


「いや今回はサリアも参加してくれ」


「えっ……? でも、私は戦えませんよ?」


「戦うとかそういうのはなしで。サリアのその知識を貸してくれないか?」


「は、はいっ! 喜んで!」


 サリアも俺の言葉を聞いて、にぱーっと顔を明るくしてその場に座り直した。


 俺は少し、これまでメイドだからといってサリアのことをないがしろにしてきたと思う。彼女は俺たちのことをいつも待っているばかりだ。おそらく、その時の不安は俺たちの想像のつかないものだろう。だって、死ぬかもしれないんだから。


「まず、敵の戦力から再確認します。敵のボスは大きい黒い物体。そして、そこから無数に出てくる亜種です」


 仕切ってきたのはルイサ。

 まぁルイサは、これまで俺より主人公らしい冒険をしてきたので色々死地を乗り越えてきているだろう。

 かなり役に立ちそうだ。


「う〜ん……。亜種の数がわかればなぁ〜……」


「そう。そこなんです。さすがマサル様。ギルドマスター様が言うに、亜種という呼称の生物は黒い物体から今もなお、生み出されているとのことです。そんな大量の亜種への対処が難しいしんですよ……」


 俺たちはその問題を目の前にして、口が塞がり黙り込んでしまった。


 それもそうだ。亜種が今もなお増え続けているのならばそのすべてを倒すとなると、全員で取り掛かってもかなりの時間がかかる。


 俺たちはそんなに時間をかけてられない。だが、亜種を倒さないことには黒い物体には近づけない。


「あっ……あの……」


「なんだ?」


 俺たちが黙り込んで考えていると、申し訳無さそうにサリアが手を上げてきた。

 うん。手なんか挙げなくていいと思うんだけど。


「あの……ギルドマスターさん。亜種っていうのは黒い物体から生み出されてるんですよね?」


「あぁ。この目で見たから間違いない」


「であればもしかしたら、もしかしたらの話ですよ? その大きい黒い物体を倒すと消えてなくなるのではないでしょうか?」


「?? それはどういう意味だね。サリアくん」


 サリアはルイサの呼び方が気になったのか、「くん!?」と小声でびっくりしていたが深呼吸をして「えっとですね……」と続ける。


「ギルドマスターさんはさっき、亜種は生み出されていると言いました。このことから導き出されることは、亜種という生物は母体である黒い物体の駒なんじゃないかと推測できます。そこから考えると、母体を倒すことによってその母体が操っている駒はすべて消えていくのです」


「どうして、そう断言できるんだ?」


 ルイサは顎に手を当てながら鋭い目で質問する。

 うん。俺もそう思った。なぜそれを断言できるのか。


「あっ……重要なことを言い忘れていました。あの生み出すというのは魔物であるヨズミーヤに、にているのでそう考えました」


 サリアの言葉に再び沈黙が戻ってきた。


 だが少しして、ルイサが「なるほど……」と眉をひそめ口を開いた。


「その仮説は納得がいく」


「えっと……ていうことはあの黒い物体はヨズミーヤなのじゃ?」


 俺のあぐらの中に座っているトッティがルイサに問いかけた。

 ん? 膝の上……? なんでこいつ、こんなところにいるんだ? なんか、ルイサの話を聞くときといいここがトッティの定位置になってきてる気がする……。

 まぁいいか。別に嫌じゃないし。邪魔でもないし。臭くもないし。


「いえ……仮説を真に受け入れないでください。そうですね、頭の片隅にこのことを入れておいてください」


「うむ。わかったのじゃ!」


 トッティはルイサの言葉に、大きな声で返事をした。そしてそれで力尽きたかのように、俺の体に体重を乗っけてきた。

 

 俺はそんなトッティのことを見て、気持ちを切り替える。

 そして、「まぁ……」と前置きをして……。

 

「仮説はいいとして、結局のところ黒い物体を倒さなければ意味がない」


「そこなんですよね……。我々には手札が少なすぎる」


 ルイサは「はぁ〜……」と大きなため息をついて顔を下に向けた。まぁたしかに、手札が少ないことは否めない。


「む? そうとは思えんのじゃが」


「なぜです?」


「あっそうじゃ! マサルが持っている神器のこと言っておらんかったわ」


 トッティは「どうじゃ? 言ってやったぞ!」とでも言いたげなな顔を俺に向けながら言ってきた。

 なんでこいつ、こんなに自慢げなんだよ。 


 神器を持ってるのはトッティじゃなくて俺な。まぁ、仲間にあれを自慢したい気持ちはよくわかるけども。


「神器ですか……? あぁ。私のネックレスのときもそんなこと言ってましたね。マサル様。神器って一体何なんですか?」


 ルイサは俺の方を向いて問いかけてきた。

 これはもう、隠しきれなくなってきたかな……。


「んまぁ……神器ってものは人間にはあまる力が備わっている7つのもの……。かな?」


「うむ! 細かい説明はないのじゃが、大体あってるのじゃ!」


 トッティは俺の問いかけに俺に体重をかけながら

 たぶん、今のトッティの姿を対面から見たらこいつは大富豪の息子なみにものすごくふんぞり返っていることだろう。


「えっと……今ってその神器はどんなものを持ってるんです?」


「そうだな……まぁまず、お前から貰った呪いのネックレス」


 俺はいま首にかけている、ネックレスを手に持ってみんなに見えるようにする。


 そしてトッティの肩をつつき、説明をしろと口パクで教える。トッティはそれを見て、「なんじゃって〜……」と言いたげな嫌そうな顔をした。俺はその顔などお構いなしにもう一度説明しろと口パクをする。

 無許可で俺のあぐらの中に座っているんだ。

 このくらいはしてもらわないとな。


「呪いのネックレスというのは、ネックレスをつけているものの基礎体力が上がる呪いがかかるのじゃ」


「次に、この今もつけてる解除の指輪」


 俺は右手の人差し指につけている指輪を前に出す。


「解除の指輪の指輪というのは、文字通り色んなものを解除できるのじゃ」


「んで、この切断の剣」

 

 俺は立てかけている大きな剣を指さす。

 おそらくこれは、みんな俺が亜種を倒したときに使っていたものなのでどういうのかわかるだろう。


「切断の剣というのは、これも同じく文字通り色んなものを切断できるのじゃ」


「それで……」


「ちょっと待つのじゃ!」


 俺が話を続けようとするとトッティらかんぱいれずに止めてきた。

 それも、バッと勢いよく俺の方を振り返りながら。


「ん? どうかしたか?」


 俺とトッティの顔が今までにないほど、息がかかるぐらい至近距離にまで近づく。


 俺は目の前にまで近づいた顔を見て不覚にも、本当に不覚にも少しだけかわいいと思ってしまった。俺にはロリコン趣味はない。女性経験ゼロの俺にはこの距離はダメなんだよ……。


「お主、まさかこのままずっとわしに解説をさせる気でいるわけじゃあるまいな?」


 トッティは「むぅ……」と、うなりながら聞いてきた。だが、今の俺にはこいつが何を聞いてきたのかなど耳に入ってきていなかった。ただただ目の前の顔に目がいっていた。


「それで、この防御の服」


 俺は冷静さを保つためにも、トッティの体を元の方向に戻して肩を持ち固定する。


 するとトッティは「はぁ〜……。わかったのじゃわかったのじゃ」と勝手に解釈した。もちろん、俺にはなんのことを言っているのかわからなかったので何も言えなかった。


 俺がそうしているとトッティは面倒くさそうに「はいはい。説明すればいいんじゃろ」と投げなりに言い、


「防御の服は、これも文字通りなんでも防御できる服なのじゃ」


 先程までの解説ポジョンに戻っていった。

 俺は何がなんだかわからなかったけど、まぁもとに戻ったのならなんにも問題ないでしょと思い神器の紹介を続ける。


「そして、このイヤリング」


 このイヤリングはトッザがつけていたもの。

 今もなお少しだけ、血の匂いが残っている。さしてしかもこの神器は一番使いどころのない神器だ。


「これは相手の考えていることを読み取ることができるのじゃ」


 相手の考えていることを読み取る。その力はものすごく便利なのだがこの神器は使うにあたって必要な条件みたいのがある。なんでも好きなように片っ端から考えていることを読み取ることなんてできない。


 その条件はまず一つに読み取る相手が自分のことを恐怖していること。2つ目は一対一の状態ではないといけないこと。まぁ簡単に言うと周りに誰もいない状況じゃないといけないってわけだ。

 この2つでも結構状況が狭まるのだが3つ目が一番えぐい。3つ目はなんと、相手のことを心の奥底から憎まないといけない。俺はこの人生の中で人を心の奥底からなんて憎んだこと一度もない。

 なのでそれが一体どんなことなのかも見当がつかないのだ。なので、使えないのだ。


「最後はブレスレット」


「これはまだどんなものなのか見当がついていないのじゃ。じゃから、どんな力があるのかはわからないのじゃ」


 このブレスレットは俺が初めて人を殺して奪ったもの。その人物はショウタ。今でもどうやって殺したのか、ナイフを突き刺した感覚が残っている。もう今はスキルをコントロールできているので、あの時みたいに心が墜ちることはないと思う。


「どうだ? 今持っている神器をすべて言ってみたけど……なにかアイデアが浮かんできたか?」


 俺はすべて紹介しきったので、神器のことを聞いてきたルイサに向かって問いかける。問いかけたのだがルイサは何も返事をしなかった。いや、数秒固まっていた。


「すいません。持っている神器の数が多すぎて呆然としていました……。まさか、7つのうちの6つを持っているとは……さすが私が敬愛してやまないマサル様です!」


「あぁ……それはどうも」


 俺は急にルイサが目をキラキラしながら言ってきたので返事に困った。


「それで、黒い物体を倒すアイデアはうかんだのか?」


 ルイサは俺の言葉に「そうですね……」と顎を触りながら考え、


「こういったものがあるのならば……」


 計画を話し始めた。


■□■□


 わしは今、近くの茂みでマサルのことを探していた。


 まったく! 今から戦いにいくっていうのにあの引きこもり、ビビってどこかに隠れたんじゃな……。 わしが活を入れなければ!


 そう思って、茂みを分けていくと何もない空間にたどり着いた。なにもないというわけではない。もちろん地面には目の前に大樹が生えている。てっぺんが見ようとすると体制を崩しそうになるほど大きな大樹が。


 そしてその大樹の土の上に盛り上がった根っこの部分に座っている人影が見えた。わしはこんな場所に人がいたことにびっくりして、その人影を目を凝らしてみてみる。


「マサル……?」


 そう、根っこの上にいたのはマサルだった。

 わしは、怪しい人とかじゃないことを確認したので

この周りの神秘的な光景にボケーッと見ながら少しづつ近づく。


「……こんなところにおったのか! これから黒い物体を倒しに行くんじゃぞ? なにしてるのじゃ」


 わしが怒りながら言ったのにマサルはその場所から動こうとしなかった。

 ムキーっと怒り、


「ほれー! いくのじゃ!!」


 服を引っ張ったがわしの力では動かすことができなかった。


 わしは「はぁはぁ……」と息を整えながら、「むむむ……」とどうやってこやつのことを動かすのか考える。力ずくでむりだったら……。うむ。わし何にもできないのじゃ!


「お主、何してるのじゃ。早く立つのじゃ! 皆が待っておるぞ」


「これが未来の俺が言ってた大きな戦いなんじゃないか?」


 わしの言葉に返してきたマサルの声はどこか力の抜けた声だった。わしはその声を聞いて、この前マサルが言っていた未来の自分からの声を思い出す。


「うーむ……。たしかにその可能性が高いのじゃ」


「なら俺は今日これから、大切な選択を間違えてお前たちのことを失うかもしれない……」


 マサルはそう言って顔を下に向けてしまった。


 わしはどうすればいいんじゃ……。こやつがどれほどわさらのことを大事に思っているのかは、よく知ってる。じゃけど、今こやつの苦悩は同じ立場じゃないから、それがどんなものかなんて想像もつかない。


 もしわしが自分の間違った選択のせいで、周りのみなを失ったら立ち直れないと思う。それだけ、わしもこやつらのことが大事になっておるというと。


 じゃから……。


「選択を間違わなければいいのじゃ」


 そう。未来からの声が間違ったと言っておるのなら、間違わなければいい。未来のマサルはそういうことを教えたかったんじゃないのか?


 こんなこと、いつもマサルならすぐ気づくと思っておったが、それほどこやつは追いこまれ、周りが見えていなかったことになる。


「そもそもお主は、いつも悪いことばっかり想像して成功したときのことを考えていないのじゃ」


「成功か……」


 マサルはわしの言葉に反応して呟いた。

 わしはその言葉を聞いて、「そうじゃ。成功じゃ」と言い


「ほれ。行くぞ」


 手のひらをマサルの前に差し出す。


「あぁ。ありがとう。助かった」


 マサルはわしに感謝をしながら、手を握り返してきた。

 

 なんかこやつに感謝されるなんて慣れてないから少し恥ずかしいのじゃ。

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