第42話 パンイチ変人vsメスガキ



 ここはもともと俺たちが収監されていた場所のようだ。


 黒い物体が突然現れ、過半数以上の住民たちは皆死亡。そしてなんとか逃げれたごく少数の人たちはこの地下室で隠れているらしい。


「……これが今、シャリア王国の現状です」


 すべてを話し終えたここの代表の女性は暗い声でそういった。


「なるほど……」


「のじゃん……」


 俺とトッティは、同じような反応だ。

 だってそれもそうだ。あのポンコツそうなギルドマスターにはこんなこと教えてもらっていなかったから。だが、俺はこの話を聞く前にある程度の暗い話なのだと思っていた。だが案の定その想像を遥かに超えた。


 俺はあたりを見渡す。


「そしてここにいる人たちは心が折れていると」

 

 そうこの地下室で彼女以外は全員、頭を下にさげて微動だにしない。中には、なにか小声で呟いている人もいる。ここにいる人たちは彼女を除いて皆心が折れている。


 本当は生気がないという言い回しをしようと思ったのだが、流石にやめておいた。

 彼女はこんな中で唯一正気を保って生きているのだ。そんなこと、言えない。


「はい……。なにせあんな化け物に敵いませんから」


 俺とトッティと彼女の間にはしんみりとした空気が走る。

 その時だった。

 肩にバシンとなにかに勢いよく殴られたような感触があった。俺は何事なのかと疑問に思い、後ろを振り返る。すると……。


「はっはっはっ! 久しぶりじゃないか我が友よ!」


 パンイチの男がいた。

 さらにそいつは俺のことを友人かのようにいってきた。


「誰だお前」


「ん? 俺のことを忘れちまったか? ん? ん? そんな冷たいことは言わないよな?」

 

 変人は、俺の肩にもたれかかろうとしてきた。

 俺はそれを素早くよける。


「知らん」


 変人は俺の見捨てるような言葉を聞いて、肩から力が抜けた。

 その姿はまるで「がーん」という効果音がつきそうなほどに。というか、聞こえてる気がする。いやさすがにそれは気のせいか。


「のじゃ? もしかしてお主、元るーむめいとではないか?」


 俺の後ろからトッティの声が聞こえてきた。俺はいつの間に後ろにいったのかと思い、声がしたほうを向く。

 するとトッティがいたのは俺の真後ろ。

 こいつはちゃっかり俺のことを盾にしていたのだ。色々言いたいことはあるけど、さておいて。


 変人はトッティの言葉を聞いて、「にぱぁ〜」という効果音が聞こえそうなほど明るい顔になった。


「覚えていてくれたのかい!?」


「ん? 別にただの当てずっぽうじゃ」


「え?」


 変人はトッティの言葉に素の声で聞き返した。

 まぁ、そりゃあそうだろう。自分のことを覚えている人にあったのに、それはただの当てずっぽうだったんだから。


 もし俺が変人の立場だったら、こんな生意気そうなメスガキすぐしば……。おっと、言葉が荒くなってしまった。


「本当はお主が誰かなんて知らないのじゃ」


 変人はトッティの言葉をきいてまたもや、「がーん」という効果音が聞こえそうな悲しそうな顔になった。


 こいつ、表情豊かだな。

 あれだな。こういうやつって、近くにいたらその場が盛り上がるけど、いつも周りにいられるとうるさがられるやつだ。

 うん。こういうやつ……俺、元不登校で引きこもりだからいるかどうかはわかんないや。で、でもネットにはそんなこと書いてあったきがする。


 俺はそこまで考えて、何を考えているのだとバカバカしくなり「はぁ……」というため息をつく。

 そして、今もなお誰かが話しかけてくることを待っているパンイチでカマチョな変人のことなど無視してこの場の代表である彼女に問いかける。


「俺たちはあの化け物を倒しに来たんだ。今の現状を嘆くのも別に構わないんだが、なにか情報をくれないか?」


「なっ!? あれに戦いを挑むつもりですか!?」

  

 彼女は俺の言葉を聞いて顔が真っ青になった。

 俺が黒い物体のことを話に出したことによって、なにか思い出してしまったのだろうか。申し訳ないことをしてしまった。


 だが、それは仕方ない。だってここでまともに話せる人間は彼女しかいないんだから。もちろん横にいるカマチョの変人なんてカウントしない。


「なにか情報はないのか?」


 彼女は覚悟を決めたような顔をして「え、えぇ」と口を開く。


「なにせ、我々はあの化け物から逃げることが精一杯でしたので……。とくにこれと言った情報などないです……」


「なにもないのか?」


「はい」

 

 俺はてっきり彼女が覚悟を決めたような顔になったので、なにか教えてくれるのかと思っていた。

 だが、何も知らない。ということを教えるということさえも覚悟を決めなければならないほど彼女は追い込まれているということなるだろう。


 俺は彼女の言葉を聞いてすぐこの場を立ち去ろうと思ったのだが、その足は一歩目で止まった。そう、俺の心のなかでむりやり嫌なことを思い出してしまったという罪悪感が残っていたからだ。


「そ……うか」


 俺の言葉は途切れて少し変になったが彼女の目を見て、続ける。


「今、辛いだろうけどいろんなことを教えてくれてありがとう。あと、むりやり聞いて悪かった」


 俺の言葉を聞いた彼女は「いえいえ……」と手の平をこちらに向け、


「なにも役に立てなくて申し訳ないです」


 頭を下げてきた。

 俺はそんなことをしてきた彼女が理解できなかった。だって、今回悪いのは絶対に俺なんだ。思い出したくないようなことをむりやり聞いた。


 俺は「こちらこそ申し訳ないです」と謝ろうとしたのだがよくないと思い、やめる。なぜなら彼女は絶対に優しい。なので謝ると、謝り合戦が始まってしまう。そんなことをしている暇はない。

 

 俺は、これがすべて終わったら今度彼女には個人的に謝ろうと思う。そんなことを思いながら彼女に背中を向け、再び歩きだす。

 まだ外にある馬車で待っている仲間の元に。



 いや別に好みだったから、後でゆっくり色々話してみたいなとかそういうのじゃないから!!


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