第9話戦闘準備

「国軍対魔王部隊隊長ハンネスじゃ。よろしく。」

悪魔が出るということで本気を出してきたか。リエール王国軍対魔王部隊は国外に目を向けても、様々な国の軍隊の中で五本の指に入る強さである。その隊長ともなれば、筋骨隆々とした働き盛りの男を想像していたがそれは違った。一言でいうと、こうこう爺。それも、だいぶ年がいった感じである。

「それでも大分難しいわね。」

「そうだな。」

しかし、悪魔。ランクによっては、魔王よりも強いと言われている存在。どんな人材がいようとも、不安なこと心もとない。

「アデル、もう一度聞くけど召喚しようとしている悪魔の格は?」

「だから、わからねえって言ってんじゃねえか。新参者だからな。教えてもらえなかったんだよ。」

ここまで来てる時点で、間違いなく戦いがあったら巻き込まれる位置にこいつはいる。知らないというのは嘘じゃないだろう。

ここまで、というのは当然盗賊団通称”ボロスの手”のアジトとされる場所のことである。アデルの証言、そして王国軍が秘密裏に集めていた情報によりその場所は特定された。

「元ホルツ公爵邸宅の庭とは。」

道理で見つからないわけだ。王国軍もそんなところには、隠しているとは思わ

ない。






窃盗団ボロスの手、様々な人を苦しめたことに加えて。兄がなくそうと思っていた奴隷制度の元凶ともいえる存在である。実に、違法に奴隷にされた人々の九割はこの組織を通されているそうだ。どこからか人を連れてきてまた売る。信じられない行為だ。エリザベスも決意を固めたような表情をしている。

「大丈夫?」

ふと、俺の顔を覗きこんでくる顔があるのに気づいた。

「だ、アナベルさんですか。」

最初にあった時と同じく、顔が鎧で隠れていて見えない。

「怖い顔してるよ。」

「っつ!!・・・そうですね。兄は、こんな組織をつぶしたかったのだと思って。」

「あー。そうだね。マーカスはそういう節があった。」

でもね、と彼女は少し考えて言葉をまた紡いだ。

「マーカスはいつも冷静だったよ。感情に任せてない感じ。ちょっと、今の君は危ない?感じかな。見てて怖い。」

見てて怖い。そういわれたのは初めてではない。コニーにも、エリザベスにもそういわれた気がする。

「三歳児の綱渡りを見てる感じに近いね。」

「そうですか。」

最近また、兄が生きている頃の夢を見るのもそれの影響だろうか。

「気を付けて。危なかったらすぐ頼ってね。」

「ありがとうございます。」

多分、僕は冷静だ。








 ギィィという音を立てて、古い椎の熱い扉が開いた。一気に数千人の視線がそちらに向かう。

「あれ?皆さん、なんで我が屋敷に集まっていらっしゃるのでしょうか?」

貴族らしい絹のロープに身を包み、それでていて相手に失礼な奴だという印象を与えない。手には、護衛用の剣を持っていた。顔はまあまあであるが、それを補い余りあるほどの風格。

食えない奴だ、というのが僕の先入観である。

「国王軍魔王部隊隊長ハンネスじゃ。久しぶりじゃな、ホル坊。」

「お久しぶりです。ハンネスさん。」

彼は、にこりと笑った。世間が言う目が笑ってないというやつである。

「で、ここの庭になボロスの手っていう犯罪ばっかしてるやつらのアジトがあるんだが。」

「そうですか。それは大変ですね。」

これも腹芸といったやつなのだろう。しかし、軍の中にはもうあのいけ好かない男に襲い掛からんばかりのやつもいる。

「まずアジトに潜入ってのもあるんだが、その前に事情を聞かなならん。おとなしくお縄につけ、ホル坊。悪いようにはせん。」

「そうですね。この状況はもう詰みに近い。」

その男は、おとなしく腕を差し出すようにも見えた。






「が、よく見るとそうではありません。」

ホルツ公爵、とも見える男は光速の速さで剣をハンネスに打ち込んだ。

速い。俺の目には、軌道が捉えきれなかった。

「おお、全くのノーガードからこれを防ぎきるとは。流石、人間たちから尊敬されているだけありますね。」

「・・・そうじゃな。ホル坊は儂を脳筋ジジイと呼ぶのをお前が知っていたのなら、やられていたじゃろう。」

金属のキーンという音が響き渡り、剣戟が始まった。

ハンネスが持っているのは、彼の愛刀レイラン。彼と幾度もの死線を乗り越えてきている相棒とも呼べる剣である。

「その剣たくさんの血を吸って元の魔力に加え、追加の魔力も微量にこもっているな。しかも、形も少し歪んでいるぞ。」

「うるさいわい。もうこの剣以外、この老体には合わんのじゃい。」

相対すホル坊。ではなかった、ホル坊ではない誰かは真反対に真新しい剣である。間合いはどちらも同じくらいか。

ゴクリ。誰かが、息をのむ音が聞こえた。

「はええ。」

「くそ、加勢に行きたいけどあの速さだと足手まといになっちまう。」

「見てるだけはいやだ。」

ああそうか、加勢に行かなくては。見惚れてしまって、気づかなかった。

「でも勝ちそうだね。流石隊長。」

「アナベルさん。持ち場離れて大丈夫なんですか?」

「私強いからね。強さには自由が特典としてついてくるのだよ。」

本当だろうか今市この人が戦っている姿は想像できない。






「結局、正体は教えてくださらないのですかな。もう、あと少しで私の勝ちになってしまいそうですが。」

「そうか、そうだわ。私はホルツじゃない。」

彼は少し驚いた顔をして、笑い出した。

「どうされましたかな。」

その言葉の直後、ハンネスが城壁に文字通り

「ハハハハハ。私は、魔族!!!!魔族のマーリンよ!!!!ボロスの手よ!立ち上がりなさい。」

そういうと、なんの前触れもなくホルツ公爵の身体は、魔族の象徴である青い羽根と赤い角の生えた小柄な少女の姿へと変貌を遂げた。
















 






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マークは世界を壊したい。 絶対に怯ませたいトゲキッス @yukat0703

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