第20.5話 神様のいたずら?

 あれから、どれくらいここにいるんだろう。


 地球の周りをゆらゆらしながら、ぼーっとしているだけという。


 なんとも贅沢な時間なことだ。


『綺麗だねー』

「…………」

『? ハナちゃん?』

「あぁ、そうだな……」


 テレビとかでしか見たことないから、ほんとに圧巻だな。いつまでも見ていられる。


 どこから見ても、丸い。ただただ丸い。


 あそこに何億って数の人たちが暮らしているんだよな。


「神様……ありがとう……」

『ふふっ、どういたしまして。あっ、ハナちゃん』

「うん? ……っ!」


 突然、地球の後ろから溢れ出す眩しい光。


 言葉が出ないほどの美しさとは、まさにこのことだ。


『地球の夜明け、だね』


 夜明けってことは、もう朝になるのか。


 地球には、時間を忘れさせる力があるのかもしれない。


「…………」


 でも、宇宙旅行も十分楽しんだことだし、そろそろ帰るか。


 名残惜しいけど、学生なんでね。


「じゃ、帰るぞー…――」


 ……あれ? 体が……ピクリとも動かないぞ……?


 口も固まっているから、声が出せない。


(まさかの、宇宙で金縛りになっちゃった……?)




 ――そして次の瞬間。




(神様? ――っ!?)


 突然、体が地球に向かって進みだしたのだ。


 というか、これ……落ちてない?


 ………………………………………………………………。


 やっぱり落ちてるよね……!? てか、あつッ!!?


 体は大の字のまま、真っすぐ地球へと落ちていく。


(おいおいおい……っ!!?)


 地面に向かって落下していくこの状況を、なんとかしなければならない。


 しかし、パジャマ姿でなにも持っていない自分にはすべもない。




あちっ、あち~~~~~~~~~~~~っっっ!!?)




 燃えてるっ、燃えてるって……!!!


 すると、赤く染まっていた視界が一変して真っ白に変わった。


(これは……雲の中か……???)


 普通なら、一瞬にして体が燃え尽きていただろう。


 だが、神様のバリアーのおかげなのか、なんとか地球に戻ってくることができた。


(なんとか死なずに――おっと……?)


 雲を抜けると、建物の形がはっきりと見えるようになっていた。


「かっ、神様ーーーっ!!! いい加減にしてくれぇぇぇぇえええええええええええーっ!!!!!」


 叫んでいる間も返事はなく、体は落ち続けている。


 うまく呼吸が……っ。


(……って、いつの間にか、声を出せるようになってるじゃん!!! 体も動くしっ!!)


 ……だからなにぃぃぃいいいいいーッ!?!?!?!?!?


 平泳ぎスタイルで手足をバタつかせても、重力には逆らえない。


(てか、寒っ!?)


 熱いからの寒いのコンボ攻撃っ。


 神様のいたずらも、ここまでくると笑えないぞっ!? 地面が見えてきたし……。


「これもう……死ん…――死にたくなぁぁぁああああああああああ――――――」




 ………………………………………………………………………………………………。




「んっ……んん……」


 ぎゅっと閉じた目をゆっくり開けると、視界一面には地面が広がっていた。


「はぁ…………っ。はぁ…………っ。はぁ…………っ」


 鼻先が地面に付くか付かないかの、まさにギリギリのライン。


 心臓がいくつあっても……足りないって……。


 ――バタンッ。


いてっ」


 急に力解くの、止めてくれない?




 それから部屋に戻ってきた俺はというと、


「どういうことなんだよ、神様っ!!」


 地面にぶつけた鼻を擦りながら、どこにいるのかわからない神様に抗議の視線を向けた。


「あのとき、もし地面にぶつかっていたら、百パーセント死んでたぞっ!?」

『申し訳ない、このとお~りっ』

「この通りもなにも、こっちからじゃなにも見えねぇよ!!!」


 神様のことだから、どうせ胡坐あぐらをかきながら謝っているに違いない。


『あははははっ』

「笑いごとじゃねぇ!」


 まったく……。


『……それにしても、さっきのあれは、一体……』

「なにか言ったか?」

『え? なっ、なんでもないのデース!』

「うん?」


 ホーホケキョ、ホーホケキョ。


 枕元に置いていたスマホから、すっかりお馴染みの目覚ましのアラームが鳴った。


 こんなに疲れたのに、これから一日が始まるのか。


「はぁ……」


 兎にも角にも、まぁ良し……としよう。楽しませてもらったし。


 でも、ちょっとだけ寝る。おやすみっ。


 …………Zzz。




『………………』

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