第20話 ハナ、空を飛ぶ

「……またここか」


 真っ暗な空間、もうここにも慣れたものだ。


『一真君~っ♪』

「現れたな、スーパー変人」

『超変人っ! 言うようになったね~。明日が楽しみ~♪』

「あっ、ごめんなさい。つい調子に乗りました」

『ふむっ。よろしい~』


 ここまではいつもの流れだ。さて、今回は一体なにがあるのやら。


「はぁ……。それで、俺になんの用だ?」

『よくぞ聞いてくれましたっ!』


 このノリ、やはりなにかあるな。


「なぁ神様」

『うん? なんだい?』

「……下着屋に寄ったとき、天霧さんが俺をフィッティングルームに連れ込むように誘導したの、神様だろ? 聞こえてたぞ?」

『へ、へぇ~、聞こえてたんだー』


 このわかりやすい動揺ぶり。犯人はお前だっ!


「そうだけど、じゃあどうして彼女を止めなかったの~?』

「ッ!?」

『ふふふっ。図星だね』

「…………」


 勘が鋭い神様は嫌いだ。


『ハナちゃんの察しがいいところ、好きだな~♪』

「ふんっ」

『あっ、可愛い~』

「…………っ」


 くそ~~~っ!


『ふっふっふ~ん』

「そ、そんなことを話すために俺をここに呼んだのか?」

『違うよ~』

「じゃあなんだよ?」


 と尋ねると、神様はテンションの高い声で言った。


『ハナちゃんっ! ミッションクリア、おめでとう~っ♪♪♪』

「……ミッション?」

『忘れたとは言わせないゼッ♪』


 はて? なんのことだっけ?


『ご褒美だよっ、ご褒美っ♪』

「ああぁー、そんなこと言ってたっけ……」


 デートが楽しすぎてすっかり忘れていた。


「ご褒美、かぁ……」


 なんだろう、少しだけ気になる。


「確か、なんでも一つだけ叶えてくれるんだろ?」

『そうだよっ。ぐふふっ』

「怪しい……」

『この世界を創ったのはどこの誰かな?』

「……神様」

『ということは?』

「……この世界の中ならどんなことでも叶えられる」

『その通りっ! 私の手にかかればなんでも……ねっ♪』


 なんでも……なんでも……。


 癖があり過ぎるところはあるけれど、一応この世界を創ったのが神様だ。


 ということはっ! あんなことやこんなことを……ダメだダメだっ!


 ふぅ。欲望に素直過ぎるのはよくない。


 落ち着け……落ち着いて考えるんだ。こんなチャンス、そう滅多めったにないんだぞ?


「うーん………………………………じゃあ、自由に空を飛んでみたい」


 子供の頃は、誰でも一度は考えたことがあるのではないだろうか。


『え、それでいいの? 望めば、どんなことでも叶うのに?』

「お、俺を誰だと思ってるんだ……?」

『……その顔で言われても、説得力がないね』

「…………」


 顔に出るタイプだから、ほんとに……。


 べっ、別に、「キャ〜♡」とか、「一真くんのエッチ~♡」みたいなことを望んでいたわけでは……。


『じゃあ、パパッと飛んじゃおっか』

「ちょいちょい、人の話を……って、『飛んじゃおっか』とか言うけど、どうやって飛ぶんだ?」

『おおぉ~、いい質問だねぇ』

「あ、あざすっ」

『飛ぶなんて簡単だよ? 目を瞑って、ただ頭の中で空を飛ぶイメージをすればいいだけだから』

「イメージ? それだけでほんとに空を飛べるのか?」

『物は試しだよ♪ ほらっ、やってみようーっ」

「お、おう」


 俺は言われるがまま、目を瞑った。


(イメージ……イメージ……イメージ…………Zzzz…………ハァッ!)


 ダメだ。集中すればするほど眠たくなってきた。


『はぁ、しょうがないなぁ。ハナちゃん、ちょっと目を瞑っててもらえる?』


 と言われてもう一度目を瞑ると、身体にある変化が起こった。


(うん? ……っ!!?)


 フワフワと体が浮き始めたのだ。


『もう開けていいよ』

「んっ……んん――――――えっ」


 俺が見たのは、自室の床ではなく…――無数の光の集合体だった。


 そして、見上げれば一面真っ暗闇。


 てことは、つまり……。


「あの小さな光の一つ一つが、建物ってことか……?」

『イエスッ!』

「!? すっ……すげぇぇぇえええええーーーーーっ!!!!!」


 自分が暮らしている町がミニチュアみたいに小さい。


 なんかもうーあれだ、えっとー……。パッと言葉が浮かばないけど、とにかくすごいっ!


 それに、風が気持ちぃいいい~♪


「あ、俺って他の人から見えてたりしないのか?」

『見えないようにちゃんとバリアーを張っているから、誰もハナちゃんには気付かないよ』「ふーん……バリアーッ!? ほえぇ……」


 もうここまで来ると、なんでもありだな。


『そんなことよりっ、さあ行こうーっ!』


 ……。


 …………。


 ………………。


「俺、空を飛んでるぞ!!」


 それからというと、俺は鳥のように空を飛び回っていた。


 上から見る夜景はとても綺麗で、ただただ魅了された。


『この景色を見ていると、人間の持つ力は本当に素晴らしいと思うよ』


 神様に言われると、なんだか嬉しい。認められている感じがして。


『ふふふっ。私の力は、まだまだこんなものではないよ? 次は、もっと高いところへ行ってみよう~っ』

「え、ここより?」


 俺はふと上を見上げた。


 空より高い場所、それは――


「!! 宇宙か!」

『正解っ』


 マジかっ!?


 生きている間に行けるとは思っていなかったけど。


 行けるんだ……。


『準備はいいかな?♪』

「……っ。もちろんっ!」

『よしっ。じゃあ、行くよ~っ』


 ――パチンッ。




 ――――――――――――――――――――――――――――――。




「んっ。ここは……さっきの……」


 神様と会うときと同じ、真っ暗の空間。


 戻ってきた、というわけではない。なぜなら、


「あっ…………」


 目の前に、息を吞むほど綺麗な青い星があったからだ。




 地球。




「すげぇ…………」


 海の星とは言うけれど。俺からすれば、地球は…――――――




「光の星だ」

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