エピローグ

  *


 目を覚ますと、アネットの顔があった。

 いや、顔しかなかった。

「アネット?」

 僕が声をかけると、アネットはとても嬉しそうに笑った。

 アネットのうしろには、桜の花が咲いている。

 ここは、アネットの家なのだろう。

「おはよう、リョウ。そして、ごめんなさい。君との約束、破っちゃった」

 ――そうか、僕はアネットに殺してくれるよう頼んだのだった。……そういう約束を、僕とアネットはしていたんだ。

「ハナちゃんにも申し訳ないや」

 僕はハナと一緒に死ぬと決めた。

 もう二度と、離れないと誓ったんだった。

「勝手に生き返らせちゃって、本当にごめんね」

 僕は、アネットに食べられてゾンビになったのか。

 そういえば、触れているはずの地面が、少しも感じられない。

「でも、君とまた会えるかもって思ったら、自分を止められなかったんだ」

 僕は、ハナともう一度会うために生きた。

 アネットの気持ちは、痛いほど分かる。

「サクラは死んじゃった。私は、サクラも食べてしまったよ」

 アネットはたった一人で、僕ともう一度会うために、一緒にいてくれたんだ。

「それにね? リョウを生き返らせるために、ゾンビはみんな食べちゃったんだ。だから、せっかく生き返ったのに、リョウには食べられるものがないかも。世界はね、ゾンビのいない平和な世界になっちゃったんだよ?」

 首だけになったのに、アネットはずっと僕のだけを心配してくれている。

「いや、私たちが最後のゾンビかな? だからね、お腹が空いたら私を食べ……」



 アネットの口を塞いだ。

「リョウ、君の唇の感触がする」

 口づけを止めると、アネットは両目から涙を流してそう言った。既に枯れてしまったはずの両目から、雫が零れては地面に落ちていく。

 僕は、泣きながらキスを続けた。

「アネット、アネット!」

 こんな世界だけれど、僕は最期まで、アネットとこの世界で生きようと思う。

「リョウ、リョウ!」

 アネットが、僕の手の中で泣きじゃくっている。


 ハナ、ごめん。

 いつになるか分からないけれど、どうかもう少しだけ待っていて。



 僕はもう、死にたいなんて思わない。



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生きる屍と希死念慮 ーなぜかゾンビを食べられるゾンビとなった私が、家族を失い死を望む少年を助け、終わった世界でともに生きる話ー 朝離夜会 @Clam_Night-party

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