第13話後編③
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「それが君の答えか、ロディ。……残念だ。君はもっと利口な奴だと思っていたんだけどな」
「……申し訳ありません」
長い沈黙の後、ロディは自分の意思を貫き通した。
ロディも馬鹿ではない。
その決断が、自分に多大なる利益を与えてくれたデュークとの関係が拗れてしまうことぐらいは分かっていた。
ただ、それでも、マりーを自分以外の男性に引き合わせることなど……耐えられない。
――デュークは、まさかロディが自分に逆らうなど夢にも思っていなかったのだろう。
自身の首を二、三度捻って、「本当にそれでいいんだね?」と既に意を固めたロディに念を押した。
「……私の意思は変わりません。姉は極度の男嫌いで……例え公爵様でも会わせるわけには……」
嘘を織り交ぜつつ、ロディは何とかデュークの説得を試みた。
正直、この程度でデュークが納得してくれるなんて、ロディも思っていなかったが――。
デュークは、ため息をついて、
「そっか。残念だけど、そういう事なら仕方がないね」
そう言うや、帰り支度を始めるデューク。
「え……? あ、は、はい……仕方がない……ですね……」
あまりのデュークの物わかりの良さに、理解が一瞬追いつかなくなったロディ。
しかし、早々と帰ろうとするデュークを見て、「これで姉とデュークを引き合わせなくて済む」といった安堵の方が勝り、すぐにそんな気持ちは失せ、彼を見送った。
――デュークはロディが思っていたように、これしきの事でマリーを諦めるような男ではなかった。
デュークは、どんなものでも自分が欲しいと思うものはすべて手に入れてきた。
手段を選ばず。
今回だって例外ではない。
デュークは、まだ見ぬ
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あの日からひと月も経たぬ頃。
その日は豪雨で、雷鳴が朝から鳴り響いていた。
(……憂鬱だわ)
天気に流されやすいマリー。
すっかりナイーブな気持ちになり、どこか気分が沈んでいた。
そんなマリーだったが、やけに屋敷の中がガヤガヤと騒がしい事に気がついた。
(……何かあったのかしら?)
気になったが、自分はロディの言いつけで部屋の外に出ることが出来ない。
だから、ベルを鳴らして、使用人の一人に訊ねてみた。
――すると、見る見るうちに使用人の顔が曇って、中々最初は言おうとしなかったが、
「……旦那様には言わないでください、お願いします」
何故か、屋敷の主人であるロディには秘密にしてくれと言う。
不思議に思ったが、
「分かったわ。ロディには黙っておいてあげる。……それで? 一体何なの?」
「……どうぞ」
そう言うと、使用人はこっそりと丁寧に八つ降りに畳み込んであった新聞を手渡してきた。
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新聞紙を広げ、記事をサッと流しながら読んでいく。
どれもこれも、気に留めるような記事は一つだってない。
――そう思った瞬間だった。
とある一つの記事が目に留まった。
記事の内容は、数多の贋作が世に蔓延っているという事。
また、その贋作の内の大半が、一人の画家によって描かれていたという事。
そして、その画家の名前は――
「……ロディ」
その名をマリーは今にも消え入りそうな声で呟いた。
そして、思うより先に足が動いていた。
☆★☆
だが、時は既に遅かった。
マリーがロディのアトリエに足を踏み入れた時、ロディの姿はそこには既になかった。
代わりに居たのは――
「やっと会えたな。魔女」
そこには不敵な笑みを浮かべるデュークの姿があり、二人の出会いの始まりだった。
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