第14話後編④
見知らぬ男――デューク。
ただでさえ困惑しているマリーだったが、何とか傍に控えていた使用人に、追い返すように指示を出した。
が、誰も従わない。
それどころか、マリーの身柄を抑え、デュークの前に差し出した。
「あ、貴方達、どういうつもり――」
何がどうなっているか訳が分からないマリーに、デュークはゆっくりと顔を近づけて言った。
――彼女たちの主はもうロディではない。自分である。
ロディは新聞にも書かれていたように、詐欺を働いた。
おかげで、買い手である自分は多大なる被害を受け、その賠償の一部としてロディの身柄を抑え、加えてこの家の財産を引き取りに来たのだと。
だが、そんなことを一度に言われても、すぐに納得できるはずがない。
「……何を言ってるんですか。そんな事ロディがするはずがありません。何かの間違いです。だって彼は私に言ったんです――」
その時、マリーの脳裏にフラッシュバックしたロディとのやり取り。
彼は確かにこう言った。
――いけない事? んー贋作って聞くとさ、確かに聞こえが悪くて、そう思っちゃうかもしれないけどさ……。大丈夫さ。だって、俺は言われた注文を描いているだけで、相手も分かってて買ってくれるんだ。これは同意が得られた上で行われているんだから、違法じゃない。安心してくれ。
(……ロディは嘘をついた。……お父さんから独立するために罪を犯してまで、お金が欲しかったの?)
そして、同時に思った。
自分は確かに少なからずロディの異変に気がついていた。
あの時、彼の犯行は止めることが出来たのだ。
(私がもっと強く言ってれば……)
――マリーがそう思った時だった。
デュークは責めるように言った。
「――思いあたる節があるようだね。でも、まさかマリー。君、悪いのはロディだけだとか、勘違いしてないよね?」
そう言われるや否や、マリーはビクッと痙攣したかのように身体を一瞬震わせ、自分の両脇を掴んで離さない使用人を振り払った。
そして、そのまま腰をゆっくりと落し、両手を床につき、
「……思っていません。彼を止めることが出来なかった私にも責任があります。申し訳ありませんでした。この家もすぐに出て行きます。……本当に申し訳ございませんでした。申し訳――」
必死に何度も謝罪の言葉を口にするマリー。
心の底からの言葉だった。
だが、返ってきた言葉は無情なものだった。
「マリー。君、まだ何か勘違いしてるよ」
「ぇ」
意表を突く発言に、思わず間の抜けた声が出たマリー。
だが、そんな事お構いなしにデュークは続けて言った。
「ロディは憐れな被害者さ。今、僕の屋敷で療養してもらってる」
「――何、言って…」
「今回の件、君が黒幕なんだろ。マリー。」
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