第6話 魔力

 スローライフでありながらも少し充実した日々を過ごしていくうちに、二年が過ぎ、私はようやく待ち望んだ10歳になった。

 10歳の儀式の後に、鼻息も荒く、

「魔法を教えてください!」

 と、祭司長に詰め寄ったら、

「まあ、落ち着くのじゃ。明日には教えるからの」

 と、宥められた。

 ルンルン気分で寝床に収まりながら、楽しみ過ぎて、なかなか寝付けない夜を過ごした。

 翌日、鼻歌でも歌いだしそうなぐらい上機嫌な私の対面に、祭司長が座っている。

「まずは、魔力を感じる事からじゃ」

 祭司長はそう言うと、私と両手を結んで輪のようにした。

「何か感じたら教えよ」

 目をつぶって、体の中に意識を向ける。

 しばらくすると、右手から何かが入って来るような感覚があり、それが左手から出て行くようだ。

「何かが右手から入って来て、左手から出て行くように思えます」

「それが魔力じゃ。やはりおぬしも先祖返りじゃな。里のものでも、四半日くらいはかかるものなんじゃが」

 そして、そのまましばらくすると、流れが止まった。

「流れが止まったみたいです」

「よろしい。普通は何度かこれを繰り返すのじゃが、おぬしなら大丈夫じゃろう。手のひらを合わせて、それを一人でやってみよ」

 手を合わせてやってみる。

 なんだか、すごく流れが悪いように感じるが、何とか流れているようだ。

「それで良い。後は自分でその感覚を磨き、もっと早く流れるように精進せよ。これが、魔法制御の訓練の基本じゃ」

「はい! ありがとうございます!」

 満面の笑顔で答える私を、祭司長は微笑みながら見ていた。

 これが魔石作りに繋がり、やがては外での生活の収入源になる。

 思い描いた人生設計が順調に進んでいると感じた私は、それからひたすら訓練を続けた。

 テンションが上がりっぱなしの私は、寝る時間も食事の時間も惜しんで訓練に費やし、4日目。

 最初に比べると、かなりスムーズに流れるようになった。

 ふと気付いたら、目の前に、なんだか微笑ましいものを見るような、祭司長の生暖かい視線があった。

「祭司よ。うれしいのは見て分かるが、やりすぎじゃ。今日はもう休め」

「えー。嫌です。もっとやります」

「そうか。素直に休むなら、明日は魔石に魔力を込める方法を教えようと思ったのじゃが、いらぬ世話じゃったの」

「止めます! 今すぐ止めます! 今寝ます!」

 寝床に慌てて飛び込んだ私を見た祭司長は、笑いながら、

「では、また明日の」

 と言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る