最終話 俺にぴったりの仕事ってここですか?

「黒木、カッコよく映ってるじゃないか!」


 桃瀬さんのキラッキラなアイドルウィンクに黒木くんは無言でうなずくだけ。

 でも――。


「……」


「青柳さん、ありがとうございます!」


 青柳さんに背中をぽんと叩かれると背筋を伸ばしてうなずいた。そんな黒木くんを見て桃瀬さんと赤間さんたち、それから俺も肩をすくめて苦笑いした。


「紫村さんの取材記事もいいですね。文字になっても紫村さんらしさが出てる」


「自分で読んでもわからないけど……そう? だってさ、佐藤くん。よかったね」


 ドテマのお父さん、お兄さんと言える紫村さんと茶山さんに褒められて、俺は照れ笑いした。


「赤間さんは……」


「赤間って感じだね」


「俺って感じ?」


 きょとんと首をかしげる赤間さんに、黄倉くんと緑川さんは顔を見合わせて苦笑いした。


 ここは妖精災害対策課魔法室のホテルみたいに広いエントランス。白瀧さんと銀さんをのぞいた童貞な魔法使いと魔法使い見習いがそろってる。

 それぞれに男性ファッション誌・M.F.エムエフの最新号を眺めていたのだけど、


「それにしても……」


 紫村さんが顔をあげるのにつられてみんなも顔をあげた。


「雑誌を届けるためにわざわざ来てくれたのかい?」


「いえ、皆さんにご報告したいことがあって来たんです」


 首を横に振った俺はゴホンと咳払いを一つ。


「〝緊急連絡〟」


 そう唱えると半透明の電子看板が宙に出現した。そこに表示された連絡事項を見て、ドテマたちはワッと歓声をあげた。


「佐藤くん、魔法が使えるようになったんですね」


 緑川さんはメガネのブリッジを押し上げて言った。


「必要な情報を必要な人に伝える魔法。望んでいた魔法が使えるようになったんだね」


「よかったね、佐藤くん」


 茶山さんと紫村さんは目を細めて微笑んだ。


「仲間が増えるのはうれしいけど、それが佐藤くんならもっとうれしいよ。な、拓也」


「……」


 キラッキラなアイドルスマイルの桃瀬さんに同意するように、青柳さんは王子様スマイルで黙ってうなずいた。


「歓迎するぞ、心の友よ! 今度はゆっくりすらっと美脚の素晴らしさを……」


「何言ってるんですか、口を開かないでもらえますか、黄倉先輩」


「言い方!」


 黒木くんに塩対応されて半泣きになっている黄倉くんに笑っていると――。


「聞いたよー! 聞いたよ、聞いたよ、佐藤くーん! うちに入るんだって!? うれしいなぁ~、どんな実験をしようかなぁ~!」


「やめろ、信長。佐藤くんが怯える」


 自動ドアをくぐって銀さんと白瀧さんがエントランスに現れた。


「お帰り、直人、信長」


「ただいま、誠!」


「佐藤くんがね、できあがった雑誌を持ってきてくれたんだよ」


 そう言って紫村さんが差し出したページを銀さんと白瀧さんがのぞきこんだ。

 開いて見せたのは赤間さんの笑顔の写真が大きく配置されたページだ。写真の両脇には、


 ――なんで魔法使いになろうと思ったんですか?

 ――そんなの世界を守るために決まってんだろ!


 と、俺の質問と赤間さんの答えがこれまた大きく配置されている。


「世界を守るため、か」


 白瀧さんはぽつりと言って熱でも計るように俺の額に手を押し当てた。


「白瀧さん?」


 白瀧さんの涼やかだけど凄みを感じさせる目に見つめられて、俺はヘラヘラと愛想笑いを浮かべようとして……ふと首をかしげた。

 何か大切なことを忘れている気がする。何か、大切な。


 だけど――。


「〝音声通話〟を使えるようにしておいた」


「え、あ……はい!」


 白瀧さんの声に反射的に背筋を伸ばすと漠然とした感覚はあっという間に彼方かなたに消えてしまった。

 長くつややかな白髪をひるがえして白瀧さんが歩き出す。


「妖精災害対策課魔法室へようこそ。これからよろしく、佐藤くん」


 室長室へと戻るのだろう白瀧さんの口元には満足げな微笑みが浮かんでいた……気がした。それから白瀧さんのあとを追い掛ける銀さんの口元にも。

 二人の微笑みの意味がわからずに首をかしげていた俺だったけど、


「佐藤くん、佐藤くん!」


 エントランスに響いた赤間さんの声にビクーッ! と肩を震わせた。


「赤間、もう少し声量に気を付けろ」


「最後に聞いてもいいですか」


 緑川さんに呆れ顔で注意されても少しも気にしてない。赤間さんは意地の悪い笑みを浮かべて俺の目をのぞきこんだ。

 その言葉は取材の最後に俺が赤間さんと緑川さんに言った言葉。なら、続く質問はわかってる。


 案の定――。


「なんで魔法使いになったんですか?」


 赤間さんはそう尋ねた。

 その答えはまだ赤間さんと緑川さんの猿真似でしかない。でも、近いうちに〝猿真似だった〟と過去形にしてみせると心の中で誓って――。


「そんなの世界を守るために決まってるじゃないですか!」


 俺はニヒッと歯を見せて笑ったのだった。

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ドテマ! 夕藤さわな @sawana

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