後編 結局アレに敗北

 キーくんは、麻袋を被せられ、椅子に縛り付けられていた。何者かが袋を剥ぎ取る。


「う、まぶし。こ、ここは?」


「アンタとあたしの愛の巣よ」


「えっ、ノアちゃん?」


 ツンデレ金髪のノアだ。頭のカウントが2に減った。


「ちょっとした勝負をしててね。三番目に会った女子がアンタと結ばれるっていうものなんだけど、途中で必勝法を思い付いたのよ。他の女に会わせなければ何番目だろうと関係ないってね」


「な、何を言って——」


「アンタは何も心配しなくていいの。もう学校に行く必要も、働く必要もない。未来に不安を抱く必要はないの。あたしが一生養ってあげる。お金なら心配ないわ、ウチ金持ちだから。この部屋から出すことはできないけど、衣服、食事、寝具、何でも揃えてあげる。他にもアンタの好きな漫画やゲームも遊び放題よ。オンラインはダメだけど」


「そ、そんなのおかしいだろ!」


「これが究極の愛なのよ。大丈夫、すぐに分かるわ。将来に怯えることもなく、快楽をむさぼるだけの素晴らしさをね」


「い、いやだ! 誰か助けてくれぇ!」


「無駄よ。ここは完全防音の地下室。あたし以外誰も来ないわ。さぁまずは恋人同士がすることといったらアレよね。子供は何人欲しい? 野球チームが出来るくらい? サッカーでもいいわね。うふふ。じゃあシャワーを浴びてくるわね」


 そう言って目の虚ろなノアは、外に出て行った。だが、ほどなくして無数の足音が響いたと思うと、騒がしくなった。


「ちょっと、なんでアンタが!? えっ……他にもどうなって——きゃああああ!」


 ノアの叫び声が聞こえた後、外が静まり返った。


 直後、壁が破壊され、巨大な球体の何かが突っ込んできた。一部に切れ込みが入り、開いていく。


「やっと、やっと会えた……!」


「えっ、ヘビコさん?」


 ギャルのヘビコだった。キーくんの頭上のカウントが1になった。


「……よく聞いてくれ。信じられないと思うけど、あーしは今からおよそ六十五年後の未来から来たんだ。……あーしはこの時代で一度ヒロインレースに負けた。というよりお前は世間では行方不明になっていてしばらく発見できずにいた。数十年後、偶然、ノアがお前に首輪を掛けて散歩させているのを見かけたんだ。助け出そうとしたけど、お前は虚ろな目をしながら『ノア様ばんざい!』と言ってノアの側から離れなかった」


「え、俺そんなことになるの? 怖い怖い」


「だけどあーしは、諦めきれなくてどうにか出来ないかと考えた。そんな時、タイムマシンを題材にした漫画を見てこれだと思った。もう一度ヒロインレースをやり直し、今度こそ三番目にお前と出会う。そう決心したんだ。そしてあーしは、ノリと勢いでタイムマシンを作ることに成功した」


「え、の、ノリ? のり?」


「そう、ノリノリで作った。でも、年月をかけ過ぎたせいであーしは、ギャルババアになっていた。こんな姿じゃお前に好きになって貰えないと思ったから、不老不死といわれるベニクラゲを体内に取り込み若返りに成功した」


「は、え? そんなサラッと流して良いことなのか?」


 そういえば体がクラゲのようにスケスケである。ヤバすぎである。


「そこまではよかったけど、本当の地獄はここからだった。最大の障壁“二番目に出会うヒロイン”を埋めることが極めて難しかったんだ。まず、あらゆる格闘技に精通しているお前の幼馴染みカツユを倒せなかった」


「カツユそんな強かったのか。初耳なんですけど」


「ノアも厄介で、誘拐したお前を取り戻せなかった。財力を駆使して実銃やロケットランチャー、果ては戦車を持ち出してきた時は焦ったね」


「最近の女子高生怖すぎだろ」


「それでもくじけなかったあーしは、最終手段“あーし量産化計画”を立案した。あーしのクローンを作ることで二番目を自分で埋めると共に、カツユとノアを倒すことにしたんだ。そしておよそ五千体のあーしを使ってようやく二人をボコれた」


「その頭脳を他に使えよ」


 キーくん正論。たまに鋭い。


「ば、バカ! 全てはお前への愛がそうさせたんだからな! せ、責任取れよっ!」


 ヘビコが顔を赤らめて目を背ける。キーくんはその隙におっぱいを盗み見ていた。そういうお年頃&現実逃避である。


 その時、タイムマシンの中からヘビコそっくりの少女が現れた。


「お、おい。5963号、中で待っとけって言ったろ?」


 ヘビコオリジナルの忠告も聞かず、5963号はキーくんの目の前にきた。


「すごい、本当にヘビコさんそっくり——」


 5963号が人差し指でキーくんの口を押さえた。そして、お面でも脱ぐように自身の“顔”を剥がしていく。中から出てきたのは、白髪で巨乳のお姉さんだった。


「え、誰?」


「——ワシは、神じゃ」


「か、神、さま?」


「そう、このヒロインレースの主催者じゃ。まさかこんな壮大な戦いになるとは思わなんだ。ヒロイン異常者達がワシの想定を遥かに超える働きぶりでの、何百年分も映画を眺める感覚で見届けるハメになったんじゃ。おかげで世界中のポップコーンを制覇した。一周まわって塩味が一番美味かったな」


「ポップコーン情報いる?」


「このようにワシは退屈を極めておった訳じゃが、何度繰り返しても変わらぬ優しい心の持ち主に、いつしか目を奪われるようになったんじゃ。……それがキーくんじゃよ。気付いたらワシは——お主に惚れておった」


 キーくんをたわわな胸に抱き寄せる。


「ああ、柔らかい。それに安心する」


「そうじゃろう? これがおっぱいの力じゃ」


「そうか、これが究極のおっぱいなんだ」


 超展開の連続で疲れ果てていたキーくんは、目の前のおっぱい楽園に身を委ねることにした。


 もし、神様のどこを好きになったか聞かれたら、『そこにおっぱいがあったから』と答えるだろう。登山家に謝れ。


 そして、頭上のカウントが0に変わる。敗北した無数のヘビコ達は、ショックで泡を吹きドミノ倒しのように倒壊していった。


 こうしてキーくんは、変な語尾で人外のおっぱいキャラに完全に落とされたとさ。めでたしめでたし。

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【短編】三番目に出てくるヒロインが絶対に勝つラブコメ 一終一(にのまえしゅういち) @ninomaesyuuichi

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