ローチマン

@t-t-t-100

第1話THE FIRST

ある日、僕は奇妙なヒーローに出会った。彼と初めて出会ったのは去年の12月のことだ。『ニュースをお伝えします。国際的に活動しているハッカー集団レッドルーフのリーダーが今朝逮捕されました。』ロイは情報番組を見ながら朝ごはんを食べていた。「捕まったんだー。いや、良かったよかった。これでパパの会社も安心だよ。」「別にハッキングされて困るものなんてないでしょ。」父さんのボケに母さんが間髪入れずに突っ込む。「ん、ロイ時間大丈夫か?こんな呑気にテレビなんて見てて。」いけないついつい見てしまった。「急がなくちゃ」口では焦っていてもなかなか行動に移せない。歯を磨いて制服に着替えてさあ、出発だ。

「いってきます!」ロイは勢いよく家の扉を開けた。外は凍える寒さだった。「さっむ。」冬の朝はとても空気が冷えている。自転車で学校まで向かう。これがまた向かい風の冷たいこと。手袋とマフラーは必需品だ。学校の門の前までたどり着き、守衛室の時計を覗いてみると朝のホームルームが始まる5分前だった。「危ないセーフ。」ロイは急いで駐輪場に自転車を置き自分のクラスの教室へと向かおうとした。その時、駐輪場の近くに人影が見えた。人影の方に向かうとそこには後輩と思われる男子生徒が倒れていた。「え!あー、どうしよう。」ロイは慌てふたいめた。「あ、あのー元気ですかー?」無意識にアントニオ猪木さんになってしまった。「まずいな。」始業までギリギリの時間帯ということもあって周りにはあまり人の姿が見当たらなかった。一旦落ち着いて保健の授業で習った、心肺蘇生法のやり方を思い出した。呼吸をしているか確認しよう。口元に耳を近づける。スーッスーと寝息のような音が聞こえてきた。「よかった息してる。」ロイは胸を撫で下ろした。「寝ちゃったのかな?」ロイは男子生徒の方にそっと2回つついた。「あれ、起きない。」男子生徒はいくら起こしても起きることはなかった。仕方なくロイはその男子生徒を背中に担ぎ保健室まで向かう事にした。するとキーンコーンカーンコーンと学校の鐘のなる音が聞こえてきた。「しまった。」ロイは遅刻の常連で、担任の先生からついこの間遅刻した時に次はないと言われたばかりだった。「まあ、しょうがないよ。人の命より大切なものなんてないから。」ロイはそう自分に言い聞かせた。保健室を後にし、自分のクラスの教室にはいると案の定担任の先生が呆れた表情でこちらを見ていた。こういう時、クラスの人気者だったら笑って済むんだろうなあなんて考えながら静かに「遅れてすいません。」と断り席についた。授業中、ロイはずっと何かが引っかかっていた。「んー、さっきの子どこかで見たことがあるような気がする」授業が終わり帰りのホームルームの時間になった。「ロイ君、呼ばれてるよ。」と担任の先生に言われた。教室の入り口に今朝の男子生徒が立っていた。「僕のことを保健室まで運んでくれてありがとう。」「あー、大丈夫だった?」ロイが男子生徒に尋ねると男子生徒はしばらく沈黙していた。「・・・はい。」これは明らかに何かあるな。ロイは男子生徒に色々聞き込む事にした。「本当に大丈夫?無理しているとまた今日の朝みたいに倒れ込んじゃうよ。」「・・・あの、実は・・」と男子生徒が言いかけたその時「はい、席についてー」帰りのホームルームが始まった。一旦ロイは自分の席につき、ホームルームが終わると同時に急いで廊下に出た。しかし、そこにはあの男子生徒の姿はなかった。ロイは家に帰る道中も何かモヤモヤしていた。家に帰り郵便受けから新聞を取り出し玄関に新聞をおこうとしたとき、ロイは引っかかっていたものの正体に気がついた。新聞の見出しにはこう書かれていた。“強盗ついに捕まる”そしてそこに乗っていた顔写真をよくよく見ると今朝の男子高校生だった。「あー!」ロイは思わず声を上げた。よくよく思い返してみると朝の情報番組に出ていたハッカーの男もこの顔だった。「どういうこと?」ロイは翌日学校に行って昨日の男子生徒を見つけ出そうとしたが一向に見つからなかった。「彼は一体何者なんだ。」するとロイのすぐ後ろから声が聞こえた。「僕を探しているの?」そこには昨日の男子生徒が立っていた。「君、人違いかもしれないけど強盗とかハッキングとかしてないよね?」自分でも何をいっているのかよくわからないが、念の為確認した。「したよ。」予想外の答えが返ってきた。「え・・・」まさか、この青年がそんなことをするはずがないロイはそう信じていた。「だって昨日学校に来てたじゃん。ハッカーなら今頃捕まっているはずだよ。」「脱走したんだ。」さらに予想外の答えが返ってきた。「ちょっと待ってね、今電話するから。」ロイは慌てて警察に連絡しようとした。「無駄だよ。僕は捕まらない。」ロイは電話をかける手を止めた「どういうこと。」

「君だけには教えてあげるよ。僕は誰かの嫌われ者に代わりになってあげることができるんだよ。」代わりに嫌われ者になる?「例えば犯罪を犯した人がいるとする。その人物は、被害者から恨まれ嫌われてしまう。そこでその犯人から依頼を受けると僕はその犯人の代わりに嫌われてあげるんだ。」と男子生徒はロイにいった。なんだその歪んだ正義は。「つまり僕はヒーローなんだ。」「違う!そんなのヒーローじゃない!」ロイは声を荒げた。「俺が君を本物のヒーローにする。」とロイは心に決めた。「せっかく凄そうな能力持っているんだから。しっかり有効活用しなくちゃ。」「え・・あ、はい。」「君名前は?」「人々に嫌われているもんでね〜。名前はコックローチ、ゴキブリという意味だ。」「お。いいねローチマンだ。」「ロ、ローチマン・・」ロイは彼のことをローチマンと名付けた。

「そういえばローチマン、こういう悪人の情報とかってどうやって手に入れてるの?」「ダークサイトと呼ばれるサイトにアクセスすると依頼がやってくる。」なるほど、だいたい理解した。あとはこのローチマンの能力をうまく活かせることができればな・・・「そうだ!いいことを思いついた。ローチマンを有名にするぞ。」まずロイとローチマンは動画配信サイトで自分たちのPRをする事にした。『どうもーR&Rのロイです!僕の相方はローチマンって言ってすごい特技を持っているんです・・・』こうして徐々にローチマンの知名度は上がっていった。そして、今はというと・・・「ローチマン今日もお願いできるかな?」「あいよ!おっちゃん今日はどう言ったご用件で。」「ウチの妻が冷たくて耐えられないんだ。ローチマン身代わりになってくれるかい?」「お任せください!」こうして地元の人に愛されるローカルヒーローローチマンが誕生した。

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