EP.06――怪異――
一
「はあ?」
セオドアは間の抜けた呆けた声を挙げて、自分の腕があった捻じれた空間を見た。関節から先の腕が無くなっていた。血が噴き出るわけでも無い、痛みがあるわけではない。まるで最初から自分の腕が無かったように錯覚する。黒ずんだ切断面を眺めながら、いつのまにか横に現れた
「……ぉ」
鋭い衝撃が胸に走り、下を見つめた。鋭い針のような黒い突起物に胸が貫かれ、どす黒い血の照りが見えた。そこに痛みを理解した瞬間にはセオドアの身体は空中を跳び、視界が漆黒の空一色に映った時にはセオドアと呼ばれた存在は砕け散っていた。
巨大な怪物は軽く振り払った尻尾を揺らし、汚れた血液を払った。肥大した口は咀嚼を止めて目玉の無い黒い顔を
「
誰かが怪物の名を叫んだが、怪物が尻尾を振り回した瞬間には後方にいた全ての生命は空中に弾け飛び黒い血肉が雨となり、大地に降り注いだ。
ニ
光司の顔を「雨」が濡らす、それが雨で無いと気づかない光司は赤黒い視界の中で顔を拭おうと黒い断面を残した存在しない腕を動かした。存在しない腕は顔を拭う事はできない。
不気味な咀嚼を続けながら肥大な三本指の脚部で近づき、最後に残った
もう、生物という機能を失いつつある光司が人間として最後に見た光景は地獄そのものだった。
ゆっくりと生にしがみつく時間を溶かされゆく光司の意識は漆黒の闇に墜ちた。
漆黒の中で光司は誰かに呼ばれた気がした。なぜそれが声と感じるのかはわからない。声とも呼べぬ声が頭に響き続けていると失いつつある感覚が教えてくれた。頭に一瞬だけ過ぎった大切な笑顔と別れたくないと、千代乃に会いたいと光司は純粋に願い、声とも呼べぬ声の応えに呼応した。
漆黒の世界に突然、自分を見つめる存在を感じて光司は意識を集中した。どこまでも深く吸い込まれてゆく千代乃に似たアイスブルーの瞳の少女が現れる。僅かに動く唇の響きは声ではなく頭に響いてくる。
光司の心は響く言葉を口にした。
―――コンセプト―――
瞬間、アイスブルーの瞳の少女は黒い腕を光司に突き立て、彼という「存在」を漆黒の空間と共に引き裂いた。
新たな光司の生命が白く輝いた。
光司だったものはそこにはなく
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