スキル「ピーマン変成」ではじまる、おれの異世界無双

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スキル「ピーマン変成」ではじまる、おれの異世界無双

 おれはピーマンに殺され、ピーマン神から呪いをかけられて異世界に転生した。

 何を言っているかわからないと思うが、事実なんだから仕方がない。


 前世というか、転生前はスーパーで青果担当をしていた。

 発注時に桁を間違え、ピーマンを千ケース頼んでしまったのがすべての元凶である。


 大量の在庫を前に頭を抱えたおれは、SNSを頼ろうと思った。


【拡散希望】助けてください!誤発注でピーマンの山に潰されそうです!みんな買って!! #拡散希望


「拡散希望」が重複しているところが必死さがにじみ出てていいな、と思いながら、千ケースのピーマンに潰されてる写真を自撮りしようとして……ガチで圧死した。


 そして、お約束の異世界転生前の神様面談タイムになったのだが、真っ白な空間に浮かんでいるのは巨大なピーマンである。手足も顔もない、当然美少女などではないピーマンである。


 巨大なピーマンは言った。


 ――汝はピーマンを雑に扱った報いを受ける。汝が今後食するものは、すべてピーマンとなろう……――


 そこは女神様が出てこないと読者に切られるだろとか、ピーマン単体に神性ってジャンル細けぇなとか、色々ツッコみたいポイントは多かったのだが、転生の間的なものへの滞在は結局十秒程度だったので、脳が状況を受け入れる前にに転生してしまった。


 現世ではどこぞのリッチなお貴族様の八男に生まれついたようなのだが、ピーマン神から受けた呪いがどんなものなのか、転生当日にすぐ理解できた。


 母乳がピーマンに変化するのである。


 ピーマン味の母乳とかではなく、ピーマンそのもの。ノーカット、丸のままのピーマンになるのだ。


 これ、餓死待ったなしだよね? 新生児はピーマンを咀嚼吸収できないよね?


 なんて思っていたら、そこはご都合的に問題なくピーマンを摂取できる身体になっていたようだ。当初は「乳房からピーマンが出る奇病」にかかったと疑われた母が皇都の大病院に入院することになったり、生後直後からピーマンをガリガリかじる不気味な新生児に奇異の視線が集まったりしたが、まあ十数年も生きたら周囲はみんな慣れた。


 頭おかしいと思うかもしれないが、奇跡も魔法もあるファンタジー異世界に転生していたので「まぁそういうこともあるよね」という反応だったのが幸いであった。幸いだったのか?


 そして十五歳。我が家では元服の歳、扶養される子どもから、一人前の大人として扱いが切り替わる年齢である。そしておれは八男。当然、実家は継げず、三食ピーマンばかりかじっているおれを婿として受け入れてくれる他家もなく、おれは冒険者として自立することとなった。


 説明もなしに「冒険者」と書いても通じるのが昨今の創作界隈のよいところであるが、さすがにそれは描写をサボり過ぎだと思うので現世における冒険者の扱いを極々端的に紹介しよう。


 読んでの字のごとく、「危険を冒す者」である。


 要するに、死んでも後腐れがないような人間が、魔物退治やら瘴気領域探索やらの危険な業務に従事させられているのだ。一応、成功を収めれば英雄扱いという売り文句はあるが、成功した冒険者の大部分は軍閥の上級貴族の子弟であって、派手な魔物退治を箔付けに利用するためのものである。下手すると本人は街から出ず、部下の私兵が見栄えのする魔物を狩って成果としてしまったりするのだ。


 そしておれは「死んでも後腐れがない」側の人間である。もちろん、簡単に死んでやるつもりはないが。


 せっかく僻地を探索し、世界の隅々まで放浪する冒険者になるのだ。現世にて未だ出会えぬピーマン以外の食い物を探すことを冒険者としての目標に掲げることにした。


 おっと、遅くなったがおれの能力……呪い? スキル? の説明をしておこう。極めてシンプルで長々とした説明はないので安心してほしい。最近の異能力バトルものは説明がくどくて辟易するものな。


 おれの能力は、「食べ物として認識しているものに近づくと、すべてピーマンに変える」というものだ。


 この能力のせいで、おれは生ピーマンと焼きピーマン以外を今生で口にしていない。調味料だろうが揚げ油だろうがピーマンに変えてしまうためだ。たとえば、ピーマンに塩胡椒をかけて食べようとすればピーマンのピーマンピーマンかけになるし、ピーマンを揚げて食べようとするとたっぷりの熱したピーマンの中にピーマンを入れることになるのだ。バカヤロウ。


 もう体臭がピーマンになるくらいピーマン漬けの異世界ライフを堪能してきたが、なんといってもここは奇跡も魔法もある異世界なのだ。おれの能力が通じない食材くらいはあるだろう?


 というわけで、まずは定番のゴブリン退治だ。現世におけるゴブリンはニホンザルからすべての毛を抜いてラッカーを塗ったようなテラテラした皮膚を持つ気持ちの悪い生き物で、時々眼球や手足の数が多い亜種もいる。食材として供されることはないが、おれからしてみれば、もしもそのまま食べられるのなら今生で初めての肉となる。多少臭かろうが硬かろうが喰らってみせようではないか。


 そんなぎらぎらした思いを抱えてゴブリンに近づいたら、ピーマンになりました。はい。わかってたよ。


 その後もオーク(ブタ顔の二足歩行の生物。ブタと一緒に飼われていることも。人語を解す)、ケンタウロス(専門の馬刺し店が皇都で大人気。人語を解す)、ハーピー(両腕が翼になった美女っぽい生物。人語を解す。幼体の手羽を揚げたものが下町の露天でよく売られている)……などにチャレンジしたが、ぜんぶ近づいた時点でピーマンになりました。バカジャネーノ。


 魔力の高い魔物であればピーマン神の呪いも通じないかと思い、バジリスクやら、フェニックスやら、ヒュドラやらドラゴンやらの討伐にも挑んだけれど、案の定すべてピーマンになった。バカジャネーノ。


 思いつく限りの高難度クエストに挑み続け、そのすべてを易々と達成したおれは、気がつけば「万象一切青椒肉絲ゴッドオブピーマン」の二つ名をいただき、その功績を以って皇女の婿になった。いや、青椒ピーマンはわかるけど、肉絲お肉成分がないんだよ。そこなんとかしてくれよ。というかこの世界中華料理あるのかよ。


 皇族の一員となり、世界中のありとあらゆる食材を集めてみたが、おれが近づくとすべてピーマンに変わることに違いはなかった。もう三十年ピーマンだけ食ってる。こんな偏食の生物ユーカリしか食わないコアラくらいしか知らない。


 おれが皇都を守っている限り、エンシェント・ドラゴンやら狂った上位精霊やらが来ても何の脅威でもない。「やべーやつがいる」って危機感で魔王が大軍を送り込んできたこともあるが、おれが練り歩くだけでピーマンの山に変わるだけだ。戦っている実感すらない。もうつらい。


 二年ほど前に生まれた娘がおれの唯一の癒やしだ。よちよちと歩いてかわいい。全身の肉がふよふよとして、とてもやわらかそうだ。前世で食べた上等な角煮を思い出す。箸で触れただけで切れるやわらかさだった。死ぬ前に、あれがもう一度食べたいな。


 娘がピーマンに変わった。


 数日して、皇都はピーマンだらけになった。


 おれはまだ、ピーマン以外を口にできていない。


 了

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