瑠璃色の瞳に

フジ タカシ

瑠璃色の瞳に

「詐欺に遭った敏子おばあちゃんが自分で命を...

 一命は取り留めたけど...、もう恐らく目を覚ますことはないと...

 敏子おばあちゃんが一番つらかったのに...酷いことを言ってしまって...

 おじいちゃんはそのショックで亡くなりました。

 犯人を絶対許さない!...」


SNSで噂になってこれまで幾度か“お願い”に対してできる限りのことをしてきたが、まさか知り合いがここに願掛けに来るなんて。

それも泣きながら、話す言葉は途切れ途切れ。


SNSで囁かれている噂というのはこういうものだ。

「東京郊外にある湖の近くの三十三観音霊場を回って祈願を続けると、青い鳥が現れる。

その鳥に願いを伝えなさい。

そうすれば、あなたの悔しさや悲しさを晴らしてくれるかもしれない。

但し、青い鳥はそう簡単には現れてくれない」


このSNSの噂を聞いた時にはかなり驚いた。自分のおせっかいでそんな噂になるようなことになるとは考えてもいなかったからだ。

そして、この噂の所為でこれまで何人も願掛けをしに来た。そして、その殆どが続けることが出来ずにやめていった。


だが、そんなことは今はどうでもいい。

今願掛けをしているのは僕の知っている人、それも以前入院している時にお世話になった看護師の中村香苗お姉さん。そして、今目を覚まさずにいるのはその人の祖母である武田敏子さんなのだから。

敏子おばあちゃんには入院しているときにやさしくしてもらい、お世話にもなった。それにその敏子さんの夫である義男さんもとてもやさしい人で、偶に来ては僕を励ましてくれた。その義男さんが、その所為で亡くなったなんて。


以前調べたことがある。

詐欺罪に死刑はなく、長くても数年の刑期らしい。

その犯罪の被害者に死者が出たとしても。

被害者側からしたらどう考えたとしても到底納得できるものではない。


香苗さんは既に観音霊場を願いを唱えながら十回以上も回っている。本人の意志が固いことは充分わかった。もう“噂の青い鳥”を出してもいいだろう。


彼女の目の前にSNSで噂の青い鳥を出現させた。

このような鳥などの小動物を魔力で創造するという魔法を僕は神様から授かった。

僕は元異世界者だ。

死にそうになっていたときに、此方の神様に魂だけ呼んでもらってこの世界の男の子の体に入れてもらい、魔力を体力のように使うことで命を落とさずに済んだ。その後、魔力で動物、虫や鳥などを少しだけ創造する能力を頂いた。

一日に作り出せる小動物は蜜蜂程の大きさのものならば、二十数匹程が限度。雀ほどの小鳥ならば、三羽前後が限度だ。それよりも大きなものになると大きさに応じて数日魔力を溜めて創り出す。それでも創り出せる大きさには限度があり、いくら魔力を溜めても柴犬のような小型犬でさえ創り出せなかった。

更にこの能力で創り出した小動物にはある程度の寿命があり、出来ることも非常に限られる。

創り出した鳥などの小動物を飛び回らせてその個体の能力に応じて周囲の様子を観察したり音を拾ったり、他人や他の動物に乗り移らせることでその対象に声や幻聴を聞かせたり、幻覚を見せたり、反対にその人の聴覚や視覚を自己と共有することぐらいしかできない。

それ以上のこと、例えば体を操るような特殊な能力を使うこともできなくはないが、数日分の魔力で創り出したり幾日も掛けて苦労して育てたりした個体を使い、対象となるものに乗り移らなければならない。その上、そのようなことをした場合には、その個体は能力を使った時点で寿命を迎えてしまう。

だが、僕にとってはそうやって創り出した“彼ら”は友達であり、仲間であり、子供でもある。まあ、子供が持てる歳にはまだほど遠いが。でも、そんな彼らを簡単には失いたくないので、今までこの能力を使ったことはテスト以外では殆どない。

そして、神様にこの能力を頂くときに少しだけ注意された。『あまりにこのチカラを使いすぎると代償を払うことになる』と。つまり、限度を越えてチカラを使った場合、体力や精神力、体の抵抗力までも魔力に代えて消費してしまう恐れがある。そうなると『激しい疲労感に襲われたり医療を必要とするような状態に陥ったりすることになるだろう。君はムキになることがあるから注意するように』と。確かにそうだけど、神様にまで注意されるほどだろうか?




「噂は本当だったんだ。...

 どうか私の願いを叶えて!」


目の前に瑠璃色に輝くような鳥が突然現れた。

噂では“青い鳥”ということだったけれど。

鳩ほどの大きさで考えていたよりも大きい。

私がSNSの噂を目にした時には嘘だろうと思った。


敏子おばあちゃんが騙されたことを悔やんであんなことをして、未遂で終わって命は取り留めたけど、ずっと目を覚まさないかもしれない。それにそのショックでおじいちゃんは亡くなってしまった。


「敏子おばあちゃんが詐欺に遭った時、なぜあんなことを言ってしまったのか。あれからずっと後悔しているんです。だからあの噂の青い鳥に遇うまでどんなことがあってもお参りを続けると心に誓いました。

どうか犯人たちに応分の報いをお願いします」


目の前の鳥と目が合ったように感じた。

すると、合わせていた私の手に向かって音もなく飛んで来た。

驚いて開いた掌に舞い降りて、もう一度私の目を見つめると、輪郭がぼやけたかと思ったら、掌に吸い込まれるようにスッと姿が消えてしまった。


『まずは、犯人が取り調べを受けている多摩中央署に行って、捜査の進行状況を問いただしなさい』


「え?誰?」


『私はあなたが望んだ青い鳥。

 願いはわかりました』


頭の中に今まで聞いたことがないような響くような声が響いたので驚いてしまった。


どうやら、あの鳥の声らしい。


翌日。

私は祖母のお金を取りに来た、“受け子”、その容疑者が取り調べられている多摩中央署の受付に来た。


「その後、かけ子や出し子については何かわかりましたか?受け子だけ罰せられても納得できません」


カウンターの向こうに座っている中年と言うにはまだ少しだけ足りない男の警察官は、私が問いかけると一瞬私に視線を向けただけですぐに下を向いて答えた。


「またアンタか。

 何度来ても捜査について教えることはできないと言ったはずだが?」


事件が早く解決するのであれば、私は何度でも来るつもりだ。


「わかっています。でも、今回の事件に関わった者たち全員を捕まえてくれるんですよね?」


「ああ、我々もそのつもりで今捜査している。今回だけでなくな。そして、貴女がこのようにここに来ても来なくても我々のやることは変わらない。だから、もう帰りなさい。

 もう一回言うけど、貴女が来ても来なくても同じだから」


やはり前回来た時と、同じことをまた言われてしまった。

イライラした雰囲気は今回の方が強かったかもしれないけれど。

だけど、それでも一刻も早く容疑者全員が捕まるまで、何度でも来る。出来るならば、全員に罪を償ってもらいたい。それに今回はあの青い鳥にそうするように言われたのだから。


「とにかく今日は帰ります。よろしくお願いします!」


頭を下げて出口に向かった。

背を向けたカウンターからは、「何度来ても言うことは変わらないぞ」という声が聞こえた。




昨日香苗さんにラピスと名付けた青い鳥を取り憑かせたが、同時に予め創り出してあの寺の周辺に潜ませておいた十数匹のスズメバチも付けておいた。


魔力で創り出した鳥や虫などの小動物にはいくつかの能力がある。


半透明で創り出した後、姿を極端に殆ど見えないように薄くすることもできる。その場合は少しうす暗い場所では注意しても見つけ出すようなことはできないだろう。反対に実際にそこに存在するかのような姿に見せることもできる。ただし、その場合でも姿は見えるけれども、触ろうとしても触ることができない。このような状態では、壁などを簡単に素通りすることができるし、人などの動物を含めていろいろなものに入り込むことができる。香苗さんに警察署に行くように指示したのもこの状態で、彼女の中に入り込んで言葉を伝えた。


他には、あまり利点がないので一度試しただけだが、完全に物質化してしまって殆ど生きている鳥や蜂などと同じ状態にすることもできる。だが、そうしてしまうと元に戻すこともできず、またあっという間に寿命が尽きて“死んで”しまう。

そして、取り憑いたものを操る能力。取り憑かせた個体を対象と同化させて対象を操るが、その能力を使うことが出来る時間は取り憑かせた個体が保有している魔力の量による。ただ、どんなに大きな個体を使ったとしても、あまり長く続かない。この能力を使ってしまうと、やはり程なく消滅してしまう。

最後の能力が元の魔力に戻す能力。元の魔力に戻してしまうと、再度小動物にすることもできず、すぐに消えてしまう。但し、人などの動物の中で魔力に戻した場合は、その生き物の体力や自己治癒能力などを元の魔力量に応じてかさ上げすることができる。僕が神様からこの能力を与えてもらって暫くして林で翼を怪我した雀で試した。その雀は瞬く間に元気を取り戻して勢いよく羽ばたいてどこかへ飛んで行ってしまった。


香苗さんは言われた通りにしてくれた。

彼女が警察署のカウンターで話している間に、周囲の様子を窺うために取り憑かせておいた蜂を彼女の体から放ち、すぐに室内のうす暗い影に潜ませた。


「何度来ても言うことは変わらないぞ」


香苗さんへかけた言葉を潜ませた蜂が拾った。


「渡辺さん。また彼女来たんですか?」

「ああ。こちらとしてもやることはやる。何度来てもらっても同じなんだが。

 そうだろう?岡崎。

 油売っている暇あるのか?」

「酷いな、渡辺さん。油なんか売ってませんよ。

 さんざ歩き回って今帰ってきたところですよ。

 喉が渇いたんで、そこの自販機で麦茶を買ってきたんです」

「そうか。じゃあこれから課長に報告か?」

「はい。彼女にお願いされなくてもやることはやってますから。

 じゃあ、報告に行きます」

「ああ、しっかりな」


受付のカウンターに座っていた年配の警察官は渡辺、その渡辺に声を掛けてきたのは岡崎というらしい。三十歳にはなっていないようだけど、僕にはあまり人の歳は分からない。

その岡崎は今回の対象である特殊詐欺を捜査している部署に属してそうなので、たった今警察署に放ったスズメバチのうち約半数を張り付かせた。




「徳山課長、ただいま戻りました。

 また彼女、下に来てましたよ」

「そうか。来るなと言ってもどうしても来てしまうのだろう。

 詐欺に遭った上に被害者の御祖母さんは入院、御祖父さんはさらにそのショックで亡くなってしまったのだからな。

 何としても犯人を残らず逮捕せねばな!

 岡崎、借りてきた防犯カメラのディスクやSDカードはもう梅さんがいつものようにコピーしているから、お前も梅さんと一緒に映像を確認するように。

 コピーし終わったものは出来るだけ早く持ち主に返すようにな」

「了解しました、課長。

 これで、捕まえた受け子の真川が出入りした特殊詐欺のグループの拠点が大方目星がつきますね。

 市内であることはこれまで借りてきた防犯カメラの映像から判明しましたから、今借りてきた物で判明するといいですね」

「ああ、そうだな。だがアジトが分かったとしてもそれからだ」

「そうですね。じゃあ、映像を確認しに梅さんのところにいきます」


徳山という課長と岡崎が話している最中に岡崎に貼り付けた蜂を一匹をそのままにして残りをそっと部屋に放ち、部屋の隅などの目立たないところに潜ませた。

テレビで香苗さんの御祖母さんの事件の受け子が逮捕されたという報道があったが、もうすこしで特殊詐欺の拠点が判明するところまで捜査が進んでいるらしい。

話の様子だと犯人共の拠点は○○市内らしい。

○○市には、以前米軍の基地があって広大ともいえる飛行場があった。今は返還されて一部は○○市と××市に跨った記念公園として整備された。

多摩中央署はその記念公園のすぐ傍にある。


話の様子だと未だ犯人の拠点は確定されていないようだ。


翌日の夕方。

部屋に潜ませた蜂に“部屋の雰囲気が変わったら知らせるように”命令しておいたのだが、その知らせを受け取ったので僕自身で彼らの目を借りて部屋の様子を窺うことにした。

問題の事件の捜査をしている刑事たちが部屋のホワイトボードがある一角に集まって、防犯カメラなどで記録された映像から得られた情報を確認し出した。


『こいつらが今回特殊詐欺グループの拠点に出入りしたり、その者と接触したりした者達か?』


徳山がプリントアウトされた紙の束を右手の指で弾いてから捲って確認している。

ホワイトボードには顔のアップが印刷された紙が十一枚ほど貼られている。

一枚が最上部に、さらにその下には“かけ子”、“受け子”、“出し子”という文字の右側にきれいに並べられている。

貼られている者ですべてではないだろうが、あの借りてきた動画から割り出した詐欺グループを構成している者共のようだ。

徳山に取り憑かせた蜂に見させているが、プリントアウトされた資料に記載されている容疑者の住所などの情報は、判明しているものはあまり多くない。

これによると、香苗さんのおばあさんからお金を騙し取っていった受け子の情報もある。名前は“真川浩二”、住所は同じ市内らしい。市内だからなのか住所まで調べられている。年齢は二十歳で親と同居。大学生。


「はい、おそらくこの他にもまだ関係している者がいるかもしれませんが、ほぼこれで全員でしょう」

「まあ、そうだろうな。岡崎達の借りてきた物も含めてかなり借りてきたからな。

 じゃあ、明日からはこれまで借りてきた映像にこいつらが映ってないか。再度確認してくれ。映っていたら、その防犯カメラの周辺のカメラについても記録媒体を集めよう。

 かなり大変な作業だが、がんばってくれ」




さて、香苗さんのおばあさんを騙したグループを構成している者共の顔は見張りの蜂の目を通してすべて確認した。その容疑者らの情報は、これまでに僕が創り出した“子供達”すべてに伝達した。今回は全員だ。

とりあえず○○市内で情報収集にあたらせていたスズメバチをニ十匹程度容疑者グループの活動拠点があると思われる地域に集結させた。とにかく飛行速度もそれなりに速く小さい割に寿命もかなり長いスズメバチが一番扱いやすいから最も多く創り出したし利用もしている。

あの噂が広まったこと、そしてその噂に縋るように願掛けをする人が現れるようになって、それ以来出来る限り彼らを創り出して出来るだけ広範囲に放った。あるものは県境をはるかに越えて、数は少ないけれども関東全域をその活動範囲としている。種類もハヤブサ、カラス、鳩、燕、雀、ミミズクなどの鳥類、蜂や蝶などの飛ぶことの出来る昆虫から蛇やねずみなどいろいろ。


香苗さんにラピスを取り憑かせた直後から燕を可能な限り創り出した。

一日三羽が限度だが、一週間で二十羽程創り出すことができた。創り出した燕達は創り出したその日のうちに容疑者グループの活動拠点近くに移動させて待機させた。


香苗さんのおばあさんの事件に関わって一か月程が経った。

この一か月ほどは大変だった。自分自身が夏休みになったのでハヤブサやミミズク、蜂の“子供達”からよせられる多量の情報を確認して最初に拠点を特定した。この拠点の特定までが最も大変だった。

拠点を特定した後は、まず出入りするグループのリーダーは警察の情報から判明していたので、創り出す個体の中ではかなり大きいカラスとスズメバチをその男に取り憑かせた。

取り憑かせたカラスは、リーダーの情報が得られた日から数日を掛けて魔力を溜めて創り出した個体で、詐欺の拠点を突き止めた直後に拠点に向かわせたものだ。

カラスをイメージして溜めた魔力を合わせた掌から放出していくと、徐々にカラスの輪郭が浮かび上がり、半透明ながら黒く色が付く。創り上がったカラスの黒い瞳が僕を捉え、すぐに飛び立っていった。

溜めた魔力で創り出したカラスが合わせた手の掌に載っているのは半透明であってももかなり迫力がある。


その後、そのリーダーに接触する者を容疑者グループのリストに上がっていた人物らと照合していき、一人を除く殆どを特定して、創り出した燕とスズメバチを一体ずつ取り憑かせることが出来た。

スズメバチも取り憑かせたのは、その人物がさらに他の容疑者と接触したときの追跡などのためだ。

それから一か月。最初に逮捕された香苗さんの御祖母さんから現金を受け取りに来た受け子が詐欺罪で起訴され、すぐに保釈金を納めて保釈されたという報道がされた。

結局そのニュースが流れるまでグループ全員を特定することはできなかったようだ。

どうも潜ませている蜂から得られた情報から推測すると、捜査を担当している部署も特殊詐欺グループ全員を特定することを諦めたわけではないが、先に特定した者だけでも起訴することにしたらしい。それでまず既に逮捕した真川を起訴した後は、出来る限り早く容疑者らを逮捕するつもりのようだ。




捜査員達が容疑者全員を逮捕するのを待つ積もりは微塵もない。逮捕までの間に彼らには被害者の方々に対して応分の償いをしてもらおうと思う。

償いは詐欺の被害者をサポートしているNPO団体が、被害者のために寄付を募っている口座があるので、その口座にカネを振り込ませるという方法で行うことは、この事件に関わった後に色々調べて予め決めておいた。


まず、詐欺グループの主犯の男だ。

以前、男は拠点から離れたある銀行のATMで自身が代表を務める工務店の口座からある建設会社の口座に資金を移した。男にカラスを取り憑かせた直後にカラスの目を通して確認した。そして、その通帳の記録から今日か明日にはまたその会社に振り込みに行くと見込んだ。そこで、カラスの力を使って、男が資金を移す時には被害者のサポートNPO団体に振り込むように記憶を改竄した。今後男が資金を振り込むときには全く不審がらずに全てそのNPO団体の口座に振り込むようになる。だが、当然この操作の代償として折角数日掛けて創り出したカラスも消えてしまった。

次に、香苗さんの祖父母にあのようなことをした真川だ。

真川には特別にカラスを二羽とスズメバチを数匹取り憑つかせておいた。

取り憑かせて判明したことだが、彼は自分のほしい物でも少額のものは自分の口座から支払うが、ある程度高額の商品になると、高額所得者である親の口座からその親のクレジットカードで決済している。

今も趣味のエアガンを物色している。

カラス二羽を真川に同化させ、彼名義のクレジットカードを使ってNPO団体に五百万の寄付を振り込んだ。さらに彼がいつも使っている親のクレジットカードを使って複数回に分けて合計千五百万円を同じようにNPO団体に寄付した。そして、最後にこの一連の操作をした彼の記憶を封印した。

今回彼が敏子さんから二千万円を騙し取ったので、それと同額を寄付させたのだ。彼についてはこれで終わりにする。念のため取り憑かせた蜂からこれからも出来る限り様子は窺うが。

それから容疑者グループのリストに上がっていた被害金額を参考に容疑者らの口座からそれぞれ同じようにしてNPO団体にクレジットカードを使ったり、銀行口座から直に振り込ませたりした。当然、その前には自ら犯罪の証拠を確認をした。

これで一旦様子を見ることにする。というよりも、そうせざるを得なくなってしまった。

今回の件であまりにチカラを使いすぎて体全体に重しを載せられているような疲労感に襲われ、しかも昨日あたりから風邪を拗らせてしまって咳が止まらなくなってしまう状態もかなり増えてきた。明日は“運悪く”二か月に一度の以前からお世話になっている病院での定期検診なのだが、下手をすると「入院しなさい」と言われかねない。良くて点滴ということになるだろう。この世界に来て初めて注射や点滴というものを経験し、すでに幾度もされてきたが未だにあの痛さには慣れない。神様に注意されたのに、どうしても今回だけはチカラを使うことを抑制することができなかった。そのための代償だ。

翌日、案の定担当の小林先生から「点滴をしていきなさい」と言われて午前中はあれ程避けたかった点滴を打たれた。




「課長、一課の鈴木さんからまたあの詐欺グループの容疑者の一人が事件を起こしたという知らせをもらいました」

「またか?つい先日主犯格の佐々木が刃物で何ケ所か刺されて死亡しただろ?今度は何だ?」

「はい。この前保釈された真川が父親を包丁で刺して殺し、止めに入った母親に突き飛ばされた勢いで階段から転げ落ちて病院に入院したそうです。医者の話では頸椎損傷で首から下は動かないらしいです。

 どうも、親のクレジットカードで多額のカネをNPOに振り込んだことで喧嘩になったらしいです。

 本人にその覚えはないらしいのですが」

「ホントか?

 今度の事件の詐欺グループの他のメンバーでも同じようなことがあったよな?

 結局本人たちも『どうしてそんなことしてしまったのか分からない』と同じようなことを言っていただろ?

 どうなっているんだ?

 もしかしたら殆ど全員か?...」

「はい、たぶん...」

「これまでもかなり調べたが結局はっきりしなかったのだが。

我々としては判明した事実だけで殆どの者が起訴できることはできるはずだ。

 とにかくそのNPOの件についてはマスコミには絶対に知られるわけにはいかないな」

「まあ、知られても説明できないんですけどね」

「だからだよ!とにかくこの件についての話はこれで終わりだ。まだ、捜査は終わっていないんだぞ、しっかり続けてくれ」

「了解しました!」


どうやら課長と岡崎の話は終わったようだ。

僕は判明している被害金額とほぼ同額をNPOに寄付させただけだが、その所為で容疑者らが不幸に見舞われたらしい。




テレビから敏子おばあちゃんを騙してお金を奪い取った、先日保釈されたあの真川が親を殺害して自身も入院したというニュースが流れた。


敏子おばあちゃんに報告に行こう。

今は目を覚まさなくても、どうしても知らせておきたかった。


テレビのニュースを見て家を出て務めている病院に来た。

敏子おばあちゃんは私の勤めている病院に入院している。


「香苗さん、どうしたの?

 今日非番でしょ?」


受付の幸子さんに吃驚されてしまった。


「はい、こんにちは幸子さん。

 祖母にどうしても知らせておきたいことが出来て」


そう言って会釈をしながら面会の手続きをして急いで近くの階段を上がり、敏子おばあちゃんの病室へ急いだ。

もう面会時間の終了時間が迫っている。


「敏子おばあちゃん。来たよ。調子はどう?」


返事は返ってこないことは分かってはいるが、つい問いかけてしまう。


『敏子おばあちゃんは直に目を覚ます。そうしたら、あらためて声を掛けてあげなさい』


「え?おばあちゃんが目を覚ます?

 でも、もう“敏子おばあちゃん”と言うのは私とあの子だけ...」


驚いて頭が混乱した。わたしと以前ずっと入院していたあの子だけがおばあちゃんを「敏子おばあちゃん」と呼ぶ。なぜ、同じ呼び方をしたのか。偶然かもしれないけど...。

気を取り直して敏子おばあちゃんを見ると、枕元にあの青い鳥が寄り添うように立っていた。

私が気が付いた直後、青い鳥は敏子おばあさんに吸い込まれるように消えていった。


消える直前、あの瑠璃色の瞳に私の姿がはっきりと映っていた。


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