敬 虔

 ドアを開けると、時おりキャッキャッと小娘のようにはしゃぎ声を立てて笑い、それに合わせてギィギィと揺り椅子をゆする音がれ聴こえてきた。電話でのやりとりで、どうやら翼の母は、はじけているようだった。

 ……実の母と息子が面と向かって話すことを避け、電話の力で仲直りの一歩を踏み出していることは真美まみにも分かる。それをとやかく詮索するのはよそうとおもった。

 やはり、つばさといっぱい話をしよう、したい……という気持ちが湧いてきた。

 それにしても、と真美まみはおもう。


(やっぱり、翼は変人へんじんだぁ)


 でも、それは真美まみにとっては減点対象ではなかった。

 なんだか急に腹の底から笑いが込み上げてきて、真美まみは慌てて両手で口を覆った。それを見たあやは不思議そうに首をかしげた。

 見上げた空には雲ひとつなかった。 

 けれど、散り雲ぐらいはあったほうが、なんだかがある、と真美まみには思えてきた。

 ……ゆっくりと深呼吸をしてから、あやの耳元に唇を近づけると、つやっぽいかすれ声でぼそりと囁いた。


「さて、じっくり聴いてあげようか……アヤンの初恋の話!」


               ( 了 )

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くもりのちときどき晴れマーク 嵯峨嶋 掌 @yume2aliens

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