3rd story エンジェフォーム脱出と奴隷になったお姫様

「ばれちゃったか」

そういったマーガレットの身体から黒色の影が飛び出した。

「そんな簡単に逃がす訳無いじゃん」

黒色の影はその姿を、10年前ぐらい(='00年代初頭)のギャルJKのような見た目に変え、僕らの前に立った。

マーガレットも同時に戦線復帰する。

彼女?の首には銀色の輪が見える。

「アタシはレイチェルだ。あんたらを殺しに来たわよ」

「奴隷か?」

「奴隷だわ」「奴隷だな」

「……奴隷、奴隷って五月蝿いわ」

「面倒臭さ。高等解呪ハイ・ディスペル

銀色の首輪が割れる。

「要一って詠唱を省略出来るのね」

そうクリスタルが言った。

彼女の首輪が割れた瞬間に人の姿のままその場に倒れ込んだ。

生きてはいるようなので、先程戦線復帰したばかりのマーガレットに抱えさせる。


その時だ。ぞろぞろと音を立てて、エンジェフォームから大群がやって来る。

あれに突っ込まれても大変なので、「連鎖麻痺チェイン・パラライズ」と大群を麻痺させて、更に遠くに逃げる。


30分ぐらい逃げつづけただろうか?

マーガレットの魔力反応が弱くなってきたので、減速して止まる。

いくらスリップストリームがあっても、身体強化で魔力を消費しているため、魔力が無くなれば最悪死にかねない。


途中でレイチェルも起きて自分も危険だと気がつき、魔力を共有していたようだ。


とりあえずクリスタルに結界を張ってもらい、アンスールに電話する。


§アンスールとの通話


― ― ・ ― ―・ prr……

(SkyBank呼び出し音みたいだな)

「要一君か。大変じゃの」

「人事みたいに言わないでくださいよ。あなたが召喚した勇者ですよ!」

「あーすまんの。つい面白くてな」

こんなお気楽な神を相手にするのが馬鹿らしく、ついつい(はぁ)と溜息が出る。

「溜息をつくと幸せが逃げるぞ?」

「あんたのせいだよ」

「そうじゃな。今の状況なら家屋生成ジェネレートホームとか巨大格納ヒュージスペースとかが今役に立つのではないか? 家屋生成ジェネレートホームなら簡単に家を作れるし、巨大格納ヒュージスペースは家も入るぐらいに大きな収納スペースを作り出すのじゃ」

「なるほど。ありがとうございます」

「それじゃーの」

ガチャン。ツーツーツー。


§通話終了:30秒


「少し離れてくれ」

そういうとみんなしっかり離れてくれた。

家屋生成ジェネレートホーム

目の前に煉瓦作りの家が生成される。

そして家に入る。

家の中は、広くて見た目以上に現代的…いや近未来的な家だった。

テレビ。UTurbineのボタンがあったりと、先取りしたような、そんな家だった。

スマートホームなる便利なやつらしい。神が書いたであろうメモによると「2020年以降のスタンダード」らしい。

音声操作が出来るという画期的なシステムだった。


それから一通り全員が部屋をみた後、外に出た。

結界の外に誰かが倒れていた。

それは首輪のついた女の子のようだった。


クリスタルがそれを見たと同時に彼女のもとへ走っていく。

「クリスタル様?ここは天国なの?ルビー死んじゃったの?」

か細い声でそういった。

流石に治療するのに、首輪に治癒無効が仕組まれていたら面倒なので、素早く高等解呪ハイ・ディスペルをかけて回復をする。

横からレイチェルも治癒魔法をかけていた。


傷が治り、首輪も外れたルビーと名乗る王族らしからぬ少女は、クリスタルとマーガレットと三人で会話をしていた。

向こうの事に首を突っ込むのは大事に至だろうから、こっちはレイチェルと話している。

「レイチェルってどんな存在なんだ?」

「アタシ?アタシはね精霊よ」

精霊か。

「アタシはまだ誰とも契約してないのよ」

「精霊って契約できるのか!?」

「出来るわよ。私が認めたら、成立するわ」

「なるほど(だから隷属の首輪だったのか)」

「それにアタシにとってもメリットなの。魔力が共有になるから容量が二人分になるの」

「デメリットは?」

「特殊な存在じゃない限り、契約を解除するまで他の魔術を新く契約できないわ」

「勇者は十分に特殊だな」

「あなたは勇者でもあるし、わね。」

神の眷族?人間辞めてたのか。

特殊な存在にも程があるだろう。

「それで契約ってどうするのさ」

「……キス」

「んえ?」

「精霊契約は基本的にキスで行うの!わざわざ言わせないでよ!」

…………は?

もう理性ありきでは多分羞恥心で死ぬので、僕の部屋に連れ込んでキスをした。

連れ込んだとは言ったが、精霊の純潔を散らすなどという馬鹿な事はしていない。

(これで契約成立よ。よろしくね、要一)

(これは念話か?)

(そうよ。声に出さず伝える意志と内容を思うだけで良いから、マーガレットのように地獄耳スキルを持っていても聞き取れないわ。)

便利だな。

(でしょ。あとアタシはあんたの記憶を見れるし、あんたもアタシの記憶を見れるわ。視界だって共有出来るのよ。)

なるほど。


気になったのでレイチェルの記憶を見る。

レイチェルの前世…え?

(あんたの事知っているなと思ったら、兄さんだったなんて。)

上里 氷花莉。妹。歳は変わらないが、実妹ではない。

というか、氷花莉も死んでいたなんて。

(兄さんが死んでしばらくしてから、ルールを守って横断歩道を渡っていたら暴走したトラックに…)

(大変だったな。)

(もいなくなるし。)

(そりゃにいるからな。)

氷花莉の姿ってもっとだった気がするけど。

そう思った瞬間に強く、それでいて優しい光に包まれた。

(なんだ!?)

視界が戻った時には、レイチェルではなく氷花莉の姿があった。

(兄さん。私を着せ替え人形にしないでよ。)

(氷花莉と同じ姿の着せ替え人形を何に使うのさ。)

(星蘭の服を仕立てる時とか?)

(着せ替え人形にするなと言いつつ使い道を提案されてもな)

(私の妹星蘭のためなら。例外…全裸とか半裸にしないでよ。)

……うわ。

(今「うわ」とか思ったでしょ。辱めるなら恋仲の相手にしなさい。)

(辱めるってなんだよ。Hは健全な行為なんだぞ。)

(そんな事言ってるからいつまで経っても童貞なんだよ!)

(お前も処女のくせに生意気言うな!)


(上りチャイム音)

消防本部からお知らせします。

先ほど発生しました。上里家。義兄妹の不毛な争いは只今、鎮火しました。

先ほど発生しました。上里家。義兄妹の不毛な争いは只今、鎮火しました。

(下りチャイム音)


説明しに行くか。と思いリビングへ。

(私を呼び出してくれると、嬉しいな。氷花莉と呼べば出てくるわ。)

向こうも終っていたようで、テーブルを囲う様に座っていた。


「レイチェルは?」

「ちょっと待ってね。『氷花莉』」

氷花莉を呼んでみる。

「はい。兄さん」

「レイチェルなんだよね?」

クリスタルが困惑している。

「そうなのよ。アタシ。前世の名前が上里 氷花莉。要一の義理の妹で星蘭からしたら双子の姉」

「セイラン?」

さっきの女の子が疑問の目でこちらを見ている。

「星蘭はこの男の本命の相手よ」

「兄さん……一人暮らしし始めたから、なにかと思えば、妹と付き合っていたの?」

「いいじゃん。向こうは幼馴染の兄妹と思っている訳だから。記憶は見るなよ」

「義妹となら結婚できるのよね」

「初耳なんだけど」

「……私とだったら、誤解からの嫉妬で刺されることも無かったのにね。私、妹みたいにヤンデレラじゃないから」

「……記憶を見るなよ。というか姉がツンデレっぽいギャルで妹が清楚っぽいヤンデレってどんな家庭だよ」

「どうだって良いじゃない。それに誤解からの嫉妬っていつ聞いても笑えるわ」

「氷花莉の帰還」

「あーれー」

うざいので強制帰還してもらった。

「氷花莉と契約したのよね?」

「あぁ。義妹と契約するのは予想外だったが、メリットもあるし良いだろう」

「私の紹介をさせてください……」

「ごめん。丁度知りたかったし。氷花莉を呼び出すから、ちょっと待ってね。『氷花莉』」

「はーい。自己紹介を聞くよ。」

準備が整った事を確認し女の子が丁寧に挨拶する。

「私は『ルビー=フレイム=エンジェブレイク』といいます。エンジェブレイク王国の第二王女。」

でした。つまり過去形。王家から追放された女の子。

「要一。私は良いけど、ルビーにだけは手を出さないでね。婚約者が怒り狂うから」

「婚約者ね、どんなやつ」

「アイクっていう鼻につくようなイケメンよ。詠唱省略もできるし、魔法なら大得意だわ。契約魔術も精霊魔術も使っていないから、そこは要一のほうも凄いかも。私の兄さんと違ってエロい事も大丈夫みたいよ。」

「はぁ。どうせしばらくしたら来るだろう。追いかけてね。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新約・正しき路に光は現る 秋雪 こおり @Kori-Syusetu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る