2nd story 街へ行こう

あのあとバッグの中から携帯食糧を取り出し二人で食べた。

中身や味については、皆さんのご想像にお任せする。ちなみに同時に取り出した緑茶は普通に美味しかった。緑茶「は」「普通に」美味しかった。

だが、あの会話の後にクリスタルが「だーいすき」といいながら抱きつくものだから、距離を掴みそこねている。


その後、道中で何度か話すことはあったが、会話は続かなかった。


朝の事件から体感3〜4時間ぐらいで、エンジェフォーム王国王都「シャイニングラダー」に到着した。

輝く天使の梯子。そんな名前だ。

街に到着した訳だが、通行料や門番がいる訳でもなく、誰でも通ることが出来る。そんな街だ。

クリスタルには魔導通話システムでの通信番号を教えてもらった後、王家の紋章をもらった。

ただ、彼女は「私がいると人さらいと思われるから。またあとでね」といって、王宮の方へ素早く走って行った。


僕は街に入り、ちょうど腹が減ってくる頃で、入口近くにあった、レストランに入る。

ピークタイムにはちょっと早いのか、客が少なく注文した料理がメニューの目安待ち時間より早く来た。

いわゆる焼き鮭だが、焼き加減がミディアムレアぐらいでホクッとしており、味付けが塩だけのシンプルな料理だったにもかかわらず、満足できるほどであった。


「お会計は300mになります。硬貨でお支払いになりますか?」

「いいえ。カードでお願いします」

「ではここにカードをタッチしてください」

決済端末のようなものを出されて、思わずDePyと同じ感覚でケータイを触れさせた。

「お支払いありがとうござ…………何ですかこの残高は!?」

「あー。勇者への祝福だとしても、やはりに加減ってものを知って欲しいですよ」

「ア、アンスールだって……」(ばたっ)

えー!? そんなに?

「大声が聞こえたと思えば、またこれか」

「日常茶飯事なんですか?」

「そうだな。支払いは済んでいるから、店から出ても良いよ」

この場合の「店から出ても良いよ」は「今は店から出ていけ」って意味なんだよなぁ。

複雑ではあるが、いたずらに居る訳にもいかない。

「分かりました。ご迷惑をおかけしました」


店から出たものの、何もすることがなく、服に王家の紋章を付けて貴族街の方に行く。

貴族街の店を見て回ったが、平民がいる一般街より実用的な店が少なく、それに服屋の展示品に至っては派手な服など、いつの時代の欧州だよ!と言いたくなるぐらいだった。

それに比べると王女の服は決して派手ではなく、バランスが取れたデザインだったので、オーダーメイドなのだろう。

どことなく前世の女子制服に近かった気がするが気のせいだろう。


結局やることがなくなり、王宮へ向かった。

王宮の入口で王家の紋章を付けているにも関わらず、止められた。

「すみませんが、王家の紋章では王宮には入れません」

「内側から開けてもらえるように、頼み込めるならそれでもいい」

やっぱり、二人の門番はしっかりしている。

どこかの一次設定か二次設定かでサボり癖がついた某「中国」さんとは(ry

ともかくケータイでクリスタルに掛ける。


……

「ダーリン?」

「その呼び方をするなよ、王女様?」

「むぅー。つれないわね。それで、用件は何かしら?」

「王宮に入れてもらえないか?」

そう言うと、少し間が空いて、「了解よ」と彼女はいった。


それから体感5分。

「待たせたわね」

と言って出てきたのは、先程以上にかわいい服を着たクリスタルだった。

「クリスタル王女殿下、彼は…」

「婚約者よ」「僕の命の恩人です」

「…と、通って良し」

なんか門番に誤解されているようだが、これ以上は面倒なので追及しないことにした。


「それで王宮で何をするのかしら?」

「見て回るものが無くなってな。この世界について、教えてくれるか?」

「私が?」

「頼めるのはクリスタルしかいない」

「良いわよ。資料をメイドに集めさせるわ。その代わり、今夜は私の部屋で寝なさい」

…とんだ交換条件だ。僕の貞操が危うい。

だが、彼女に従う以外に情報を集める事は出来ないだろう。


その後、二人で互いのことを話してまともに眠れ無かったのは言うまでも無いだろう。

なんだか、聞きなれない言葉が出ていた気がする。

と言うか僕の過去を知っているかのようだった。


〔コンコンコン〕

「王女殿下、資料集めが終わりました。入室してもよろしいですか?」

「了解よ、入りなさい」

そういって入ってきたメイドは机の上に資料を置くと、ソファーに寝そべった。

主従関係を疑うような状況である。

「お疲れ、マーガレット」

「おう。お疲れ、クリスタル」

呼び捨てだし……って「僕は!?」

「……っ?!」

マーガレットと呼ばれたメイドはこっちに気がつくと、さっきまでタメ口で話していた事を思い出し、あせりだした。

「マーガレット。大丈夫よ。彼は私と同じ接し方で良いわ」

「それなら良かったぜ」

「彼は私の婚約者なの。勇者だけど、身分は平民相当だからお父様が許してくれるかはわからないわ」

「なるほどな。よろしくだぜ、勇者様」

そんなこんなで今日は資料調べで終った。


翌日。

「お父様に婚約の事を知らせてきますわ。またお見合いされても困りますし」

「「おう。いってらっしゃい」」


§クリスタルと国王


〔トントントン〕

「お父様。今は大丈夫ですか?」

「クリスタルか?入れ」

「失礼します」


「お父様。私に婚約者が出来ました」

「婚約者……まさかあの青年か?」

「はい。彼は勇者で――」

「馬鹿め。なぜ勝手に決めた?」

「だから彼が勇者だからだと――」

「国務を放棄して、揚句の果てに死ぬつもりか?」

「人はいつか死ぬ。私の死も遅いか早いかです」

「……それはそうだが、生き返る事は出来ないんだぞ」

「解っています。それに勇者と賢者が揃えば蘇生なんて簡単に出来ます。だって自分の夢でみたんですもの」

「分かった」

流石に反論するのも馬鹿らしくなり、少しだけ期待させる。


「ご検討よろしくお願いします。失礼しました」

そういってクリスタルは国王の部屋から出る。


§要一とマーガレット


「マーガレットってクリスタルとどんな関係?」

「俺か? 俺は、クリスタルに助けられたんだ。王宮から抜け出したクリスタルは、口減らしとして捨てられた俺に専属メイドとしての仕事を与えた」

「そんな過去が」

「ああ。そん時は捨てられて2ヶ月ぐらい経った頃だったな。一人で生活するには、やっぱり男っぽい方が便利だったから、口調から仕草まで、全てを男っぽくした。名前も一時期「エリア」と名乗った。もうあれから5年が経つが、まだ抜けねーんだよな。」

「男っぽいのが抜けないから、谷間も何もない。まな板もびっくりするスタイルなのか?」

「うっさい。俺が気にしている事を言いやがって。」

しっかりと乗ってくれた。

でも大変だったんだ。過去を乗り越えている。

「でも。俺はクリスタルに助けられた。だから今度はクリスタルを助けるって決めてんだ。あんた程じゃないが、それなりにスペックは高いから死なずに、あんたらを逃がせる」

「え?」

なんのことか理解できなかった。

「俺は地獄耳ってスキルを持っていてな、クリスタルと国王の会話もしっかり聞き取れた。だがな、夕方にこの部屋に攻め込むって話も聞いたんだよ」

攻め込む。婚約阻止か。

「僕は勇者だけど、まだ戦い慣れていない。そこでお願いが――」

「いいぜ。護衛術だけど、簡単に相手を戦闘不能に出来るぜ」

「それなら。よろしくお願いします! 師匠」


「ただいまー……!?」

クリスタルが硬直する。

というのも、部屋が悲惨な状況になっていたからだ。

「クリスタルか。悪いな僕がマーガレットに訓練相手を頼んだら大変な事になった」

「クリスタル。こっちに来い」

「マーガレット?」

「要一。お前もだ」

わざわざ呼び寄せて何だろうと思っていると、

(もうすぐ、この部屋に特殊部隊が突入する。二人とも逃げる準備をしておけ)

(特殊部隊って?)

要一はともかくクリスタルは何も知らない訳だ。

(婚約を阻止するためだろうな。マーガレットのおかげでレベルが上がったから、クリスタルと一緒に逃げれる)

(それならマーガレットは?)

(二人が逃げたあとに、ハイディングエクスプロージョンで部屋を爆破して逃げる。俺も同じ方向に行く)

〔ドンドンドン…〕と何度もドアを叩く音がする。

(今だ!)

マーガレットの合図に従い、クリスタルをお姫様だっこの様な感じで抱き上げて、窓を魔力波動で割った後、そこから脱出した。

魔法を使わず、魔力だけで衝撃を無効化して、マッハ数3ぐらいで走った。

街は5秒も経たずに、抜けた。街も見えない様な広い草原でようやく着地。

2分ぐらいして、マーガレットもやってきた。

「お前ら速過ぎだろ。2分もかかっ

普段のマーガレットならエリアの頃の癖が抜けておらず、いつもなら

(お前ら速過ぎだろ。2分もかかっ

要一は違和感に気がつきマーガレットを押し倒す。

「お前は誰だ?」

「ばれちゃったか。」

そういったマーガレットの身体から黒色の影が飛び出した。

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