1st story 異世界にGO

「ここは一体?」

美しい草原に立っていた。

自宅周辺では決してあり得ないほどの綺麗な草原。

ゲームでよくある異常に平坦かつ綺麗な草原と大差なかった。


天気も日本晴れといった感じで晴れの中の晴れでありながら適度な風が心地よい。

なんとも眠気を催す気候である。

(……あれ? 本当に眠い?)

そう思った時には睡魔に抵抗することも出来ず、そのまま転がって寝てしまったのである。


§夢


【要一君】

……

【無視をするでない】

……

【我輩を無視するでない】

(あなたは誰ですか?)

【我輩は「アンスール」という。この世界の太陽神に位置する存在じゃ】

(太陽神……ああ。あの天照大御神と同じような存在ですか)

【そうじゃ。それに「天照」は我輩の教え子じゃ】

(なるほど。それで僕になにか用ですか?)

【勇者としてこの世界を救ってはくれぬか?】

(勇者……はい! 何をすれば良いですか?)

【追ってケータイにメールする】

(分かりました)

【それならば起きるが良い。そなたの安否を心配している、美女がいるのでな】

(確かに。他人に心配をかけるのは良くないですね)


§覚醒


神との対話が終わり、無事に起きる。

ゆっくりと瞼を開けて最初に見えたのは、モデルと言っても過言ではないほどの綺麗で可愛い女性の顔だった。

もちろん彼女と目が合った。

「よかった!大丈夫ですか」

「ああ。睡魔が襲ってくるような良い天気だったから、つい。迷惑だったか?」

「迷惑だなんて……むしろ心配したんですよ!」

「悪いな」

やはり優しい人だった。

そう思いつつ彼女の服を見たときだ。

装飾というか、もしファンタジーなRPGのような世界観であれば一平民が着ることの叶わない高級な服を着ていた。

自分の服はこの世界のものからしたら最上級品だろうが、それは文化レベルチートなので言わないお約束だ。

「いい服だな」

「良いでしょ? これ高いのよ。って貴族なら普通でしょ?」

「僕は貴族ではないよ」

「……私、貴族以外とは一度も話したことがなくて。こんな感じなのね」

箱入りお嬢様と思った。

「それと、普通の話し方で良いわよ。貴族より話しやすいし」

本当に優しい人だ。

「しばらく歩くと街があるけど、あなたも一緒に来るわよね?」

「ああ。案内があるなら嬉しいかぎりだ」


もっとも日が暮れはじめており、今日中には到着しないだろうから、道中で枝を拾っていった。


「今日はここで野宿するわ」

「Ok分かった」

「めけ かけいちつけいちくあくちたへやあ とあつけこへこへねへせらねちみたへいらえちみたへいたこへ いちかちねらいけくへこあつけやち(精霊達よ、我の望む状況の礎となれ)

めら いまけぬぬおあいえちひす おもけあえけ あもけあ ろあぬぬ ぬけるけぬ か けひきおあいえ(Spellcasting Create Area Wall Level 1 Endcast)」

突然のことで驚くが、ここは別世界だ。魔法だってあるだろう。

「今のは何?」

「魔法の詠唱よ。こうしておかないと、魔物や盗賊に襲われるの」

「なるほど」

「今時、平民や奴隷ですら魔法が使えるのに、珍しいわ」

(奴隷でも使えるのは珍しい気もするけど、主人が許可した場合だけだよね)

と思ったが声に出さず、「へー」とだけ言った。


夕食などと、そんなものが野宿である訳もなく、少しだけ当たり障りの無いことで雑談をし、早めに寝た。


§夢


(またか)

【『また』とはなんじゃ?】

(頭は休めていますよね?)

【大丈夫じゃ。最後に回復掛けているのでな】

(まぁ。それで何か用か?)

【ケータイにメールすると言ったのじゃが、渡すのを忘れておった】

(はぁ……)

【ケータイと一緒に食糧他諸々を渡すので、それで許してもらえんかの?】

(了解です)

【それにしてもじゃ。高貴なものと一緒に寝ているのは凄いのう】

(高貴? 彼女が? 貴族だとは思うけど……)

【自己紹介を聞くことじゃな。もっとも、その時に婚約していないか心配じゃが】

(おう?)

【あと星蘭じゃがな、転移させたのじゃが、少し遠くてのう】

(少し?具体的にはどのぐらいの?)

【連続している隣の世界じゃな】

(え?)

【この世界は三つの小さな世界で構成されているのじゃが、君がいるのは『エーテルエンジェル』で、彼女は『マナマイグレーター』にいる。もうひとつは『ワンダーサイエンス』じゃな。大陸のようなものと思えば分かり易かろう】

(はぁ)

【君が勇者。星蘭が賢者。君の隣にいる彼女が魔術師じゃ】

(なるほど。)

【それはそうと。荷物を確認するために起きるのじゃ】


§起床


彼女はまだ寝たままだが、寝床代わりにした草むらの横にバッグが置いてあった。

バッグを開くと確かに自分のケータイがあり、神が用意した物であることをうかがえる。

ケータイを開き暗証番号で操作ロックを解除するとまずISNアプリを確認した。

Tガイド番組表

コミックナビゲーター

Navidate

電子マネー「DePy」

Money Card

My Passport

World Guide

Rosetta ReadText

いくつか見慣れないアプリがある。

なんだよ「Money Card」って、直球すぎだろ。

とはいえ、この世界は電子マネーのようなシステムで決済しているのだろうか?

だとするなら、使わない場合は生活が詰む。

My Passportは市民権や人権などに影響しそう。

Rosetta……あぁロゼッタストーンか。なぜ地球のネタが?

とりあえずMoney Cardを開く。無一文は詰みの可能性があるからだ。

Money Card

共有カード:はい(ID 9284 8173 0184 1058 8365 1037 3910 9569)

オーナー:上里 要一

カードランク:オリハルコン

残高(硬貨換算):99オリハルコン貨 00ミスリル貨 000白金貨 00大金貨 00金貨 00小金貨 00銀貨 0小銀貨 0銅貨 000小銅貨

残高:99,00,000,00,00,00,00,0,0,000 m

ポイント:9999,9999,9999 p


利用履歴

神の祝福 +9999,9999,9999ポイント

神の祝福 +99オリハルコン貨

……IDながいな。

現実逃避したい。いや逃避してる

異世界でウハウハハーレムを楽しめる主人公が羨ましい。

何で金持ちになってんだ。

「おはよう。起きていたのね。」

「あぁ。おはよう」

(何か。うん)

現実逃避している途中に別の現実をみて、さらに逃避行をしたくなるぐらいには精神的ダメージを受けていた。

「何をそんなに悩んでいるのかしら?」

「別に悩んでなんか――」

「貴方が勇者だって事?」

「っ!」

油断していたら、耳の近くで囁かれ、思わずバックステップで距離を取る。

しかしながら、魔術師相手に距離を取るのは悪手であるというお約束を咄嗟に思い出せず、距離を取ってしまったので、こちらは何もできなくなってしまった。

すかさず詠唱を始める彼女。背中を向けて逃げるわけにもいかず、ジグザグ歩行もリアルには一切役に立つまい。絶体絶命。

「ゆ いまけぬぬおあいえちひす うちひき えあもすけえ けひきおあいえ(Spellcasting Bind Target Endcast)」

詠唱が終わると同時に蔦が僕の手足を拘束する。

逃げられない。

「どうする気だ?」

彼女は黒い笑顔と共に近寄ってきて「この国には、ある一定以上の階級の者は、ファーストキスの相手と婚約するっていうルールがあるのよね」と。

「僕には本命の相手が――」

……本命の相手がいるにも関わらず問答無用で奪われた。初めては星蘭とが……まてよ。キスはともかく、DTであれば良いのか。

「よろしくね」

「気楽だな。名前も知らない相手と婚約しておいて」

「そうね。すっかり忘れていたわ」

彼女はそう言うと、丁寧にカーテシーをしながら

「私はエンジェフォーム王国第一王女、『クリスタル=ローズ=エンジェフォーム』といいます」

「王女がなぜ街の外に居る?それも護衛無しで」

「たまに抜け出すのよ。王宮ってとっても暇なの」

なにこの不良王女。やばくね?

「貴方は?」

「僕は上里 要一です。一応勇者らしいです」

「本命の相手というのが?」

「清川 星蘭。アンスールいわく賢者だそうで」

「分かったわ。(やっぱりあなたなのね)」

最後彼女が小声で何か言っていた気がするが、聞き取る事はできなかった。

本当にこれで良かったのだろうか?

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