新約・正しき路に光は現る
秋雪 こおり
Prologue 誤解のその果てに
「あの女は誰?」
僕の彼女、星蘭が問い詰める。
当時の状況を<眼を綴じて>思い出す。
§回想
今日の9時
先輩から電話が掛かってきた。
「一人暮らしマスターの要一君。君に頼みがあるのだが、フェイバリットに来てくれないか?」
僕は即座にOKして、ISNアプリのNAVIDATEを起動してフェイバリットを検索する。
そしてその場所に向かって歩き出した。
フェイバリットに到着したのは、
「頼みってのは、テレビをどうするかの相談なんだけど。」
「先輩。その用件にわざわざ呼び出す必要ありますか?」
「…無いな。」
「だから言ったじゃない。電話で聞くだけで良いって。」
僕と妻に挟み撃ちにされる先輩だった。
「はぁ。ここに来た以上、しっかりと奢っていただきますよ。」
「了解だ。」
「放送協会が無くなったからですよね?」
「ああ。3月の地震も民放は全然知らせてくれなかったからな。」
「それもそうですけど。観たい番組が無いのであれば、中古で売るべきでしょう。地デジ対応のテレビなら、B-CASカードは返却するか、破棄してください。中古に出してはいけません。破棄するには、B-CASカードの金色の端子面を鋏とかで切ってください。返却するなら、B-CAS社に問い合わせてください。専用の封筒が送られてきます。」
「了解。頼りになるな。上限2万で好きなものを頼め。少しオーバーは構わん。」
その後は、いろいろと注文し、いろいろと話していた。
途中で先輩がトイレに行ってしまい、その間ずっと過去の話をさせられた。
クラスメートの一人が「人妻最高!」とか言っていたが、到底理解できそうにない。
しばらく話して、結局解散したのは、15時頃だった。
§現実
今のことを要約して、説明する。
「あれは先輩に呼び出され…」
…痛い?
痛い!?刺された?
説明中に目を閉じなればよかった。
目を開くと、予想通り彼女が包丁を刺していた。
意識が遠のいていくのを感じながら、「来世こそは、一緒に」と諦めとともに、そう言った。
そして、その世界では二度と目覚めることはなかった。
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