Ⅱ 属性と加護

「では、始めるとするかな。まず何について聞きたいのじゃ?」


 1階の応接室に連れて行かれた。今は僕への警戒心を解いているようだ。


「では、まず僕が何なのかについて聞かせてください」


「うむ、小僧、お前は簡単に言えば転生者じゃ。たまにおるのじゃよ、別世界からこちらの世界を訪ねる者が……で、大体はこちらに来た衝撃で死ぬ、稀に生き残るやつもいるが何らかの欠損が生まれる。お前のようにな」


 黒ずんだ瞳がじっとこっちを見つめている。あの老婆に僕はどの様に見えているのだろう。


「僕の記憶が無いのはそのせい?」


「おそらくな」


「究極的な質問なんだけど……これって元の世界に戻れるの?」


 これは僕が一番気になっていた質問だ。


「難しいじゃろうな。だが行けれんことはないんじゃ。まだこの世界について話してなかったな。お前らの世界とこっちの世界の大きな違いは魔法の有無じゃろうな」


「魔法?あのベットの下にあった魔方陣か?」


「気づいておったのか、なかなか鋭いやつじゃのぉ。そうじゃ、あれは基本的に誰でもできる無属性魔法じゃ。そうじゃ、ちょっと待っておれ」


 そう言ってこの部屋を出ていった。部屋を見回すと、とても奇妙な物ばかりだ。動物の剥製や何やら怪しい薬、本当にここは応接室か?

 ふと横を見ると金髪美少女が本を読んでいる。

 そういえば名前を聞いていなかったな。


「ねえ、名前なんて言うんだ?」


「シエナ・ベネットよ。シエナって呼んで」


 本に目を移したまま答える。僕には微塵も興味が無いらしい。

 なんの本を読んでいるのか聞こうとしたら、ドアが開いて老婆が戻ってきた。


「小僧、これに手を当てて見なさい」


 バレーボール並み。いや、一回り小さいぐらいのガラス玉のようなものを持ってきた。

 ん?バレーボール?なんか記憶が少しずつ戻ってきているようだ。


「これはなんですか?」


「お前の魔法属性を見てやろうと思ってな。いいから早くこの玉に触れろ」


「えー私も見たーい」


 そう言ってシエナは身を乗り出してくる。ここには興味を示すのか……

 僕は緊張しながらも玉に触れた。すると、透明だった玉がみるみるうちに白く濁って行く。


「これは……」


 老婆が関心したような声色で目を光らせている。

 え?どうなの?気になる気持ちを抑え、老婆の発言を待った。


「もう良いぞ。小僧の属性は無

じゃ」


(は?)


「無って魔法使えないんですか?」


「違うわい、無属性と言ってるのじゃ」


「無属性魔法って誰でも使えるんじゃ?」

 予想と違う返答に多少戸惑ってしまう。いや、本当にどういうこと?


「そうじゃ、無属性は誰でも使えるんじゃ。ちなみにシエナは風属性じゃが無属性も使える、つまりここで無属性が現れたということは、小僧、お前は無属性しか使えんということじゃ」


 めっちゃ弱いやん……僕が落ち込んでいると、横でシエナが笑っている。


「まあいいではないか、元の世界に戻るには無属性魔法が使えれば十分じゃからな」


「そうなんですか?」


「おお、もちろん。転移石と無属性魔法で十分じゃ」


 ならいいか……そういえばさっきからこの人たちの周りに漂っている湯気みたいなのは何なんだろう?


「あの、お二人がたから漂っている湯気みたいなのは何なんですか?」


 それを聞いた瞬間、老婆の顔が暗くなる。


「え?あのー」


 僕が戸惑っていると、シエナが口を開いた。


「それは加護よ。多分あなたに見えているのはこの世に漂う魔素。生命力がある程多く存在するわ。おそらくあなたの加護は魔素を吸収する加護」



 ふと、老婆の方を見ると、とても追い詰められたような顔をしている。そして、シエナも無理矢理明るく振る舞っているような感じがある。

 魔素……生命力……まさか魔素を吸い取る加護これって……


 人の生命力を吸い取るってこと?


 そんなまさか……横を見るとシエナが本を読んでいる。でもやけに目が泳いでいる。しかもさっきより、僕と間を取っている。

 寒気がした、もし僕が彼女に触れたら?間違っても触れてしまったら……彼女はどうなってしまうんだ?変な妄想が広がっていく。


「あの、この加護って具体的にどういう能力を使えるんですか?」


 彼女らは僕の問に答えようとしない。聞こえないふりをしている。


 僕は自分が怖くなり我慢できず、ここから抜け出した。後ろで僕を呼ぶ声が聞こえるが気にする余裕はなかった。


 廊下を抜け、外に出る。思ったとうり、ここは森で囲まれている。後ろを振り返ると思ったより大きく、内装に似合わない古臭い洋館があった。そして僕は全速力で森の中へ走った。空は真っ赤に染まっている。もう時期日が暮れるのだ。僕は誰もいない所に行きたかった。

  

 しばらく走って、恐る恐る後ろを振り向く、そこには僕が一番恐れていた光景が広がっていた。


 僕が通った所の雑草は枯れ果て、灰になっていた。


 自然と僕の目から涙が溢れ出た。僕は普通の人間では無かった……心臓の鼓動が早くなる。

 僕は「うわああああ」と叫んで、泣き崩れた。それに伴って、僕を中心に植物が勢いを増して朽ちていく。

 あの結界は僕を閉じ込めるために、僕を外界から遮断するための檻だったんだ。




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俺と僕のすれ違う世界の境界 裕雨 @yuu2022

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