第一章 残酷と親切

Ⅰ 僕は誰?

 突然目を覚ます。しばらく天井を見上げたまま思考が停止していた。

 どうやら僕はベットの上に仰向けになって眠っていたようだ。誰かを永遠に追いかける夢を見ていた気がする。

 目だけを動かして辺りを見回す。

 寝室……なのか?ベット以外何もない。いや、窓が付いていて光が差し込んでいる。

 窓から見える風景から、ここは1階ではない。

 どうして僕はここにいる?記憶を辿って行くが、深く濃い霧に包まれ何も思い出せない。


 僕は誰なんだ?


 名前は……八雲?そして、僕は誰かを探している……

 とりあえずこの部屋を出て見ないことにはなにも始まらない。

 ベットを降りて3歩進むと何かに頭をぶつけた。正面が何もない。恐る恐る右手を前に付きだすと、透明な何かに触れている。ツルツルではない、ぬるぬるもしてない。殴っても、音が出ることも無いし、僕の手に痛みも走らない。衝撃をすべて吸収している。

 この見えない壁はベットを中心に正方形の形で広がっていた。どうやら僕をここに閉じ込めておきたいらしい。


 この奇妙な部屋に何かヒントがあるかもしれない。ベットの上に座ってもう1度辺りを見回す。座って正面に出入り口のドアがあり、左手の方に窓が付いている。何もおかしい所は無い……?いや、ベットの位置がおかしい。おそらくこの部屋は正方形の形をしており、その部屋の丁度真ん中にベットがある。そのベットを中心にこの壁が……このベットを真ん中に置いた理由は何だ?このベットがおそらく鍵だ。

 僕はベットを飛び降り、ベットの下を見る。


「これは……」


 自然と声が漏れてしまった。

 そこにあったのは魔法陣?だと思う。

 赤い色で薄っすら光っている円形の模様が浮かび上がっている。

 これが原因か……原因を知ってどうする?僕はもう1度ベットに座り考え込む。


「あ……」


 ベットを降り、床に触れる。


「木、木材……」


 僕は気付かされたように目を輝かせる。

 この魔法陣を創った奴はあまい。床には見えない壁が貼られていない。もしかしたらこの床を貫通させればここから出れる。

 僕はベットから飛び降りた位置エネルギーと、僕の筋力で床を思いっきり蹴った。足に痛みが生じる。

 だが、床は固く割れる気配がない。すると誰かの声が聞こえて来る。

 誰かがこっちに来る……どうしよう……

 迷いに迷った結果、最初の体制がいいだろうという事で、ベットの中に入った。


「ねえお祖母様、殺すのはやめましょう?」


 なんか物騒な話声が聞こえて来る。殺すのはやめましょう?なら食われるのか?

 ガチャっとドアを開ける音がした。僕は恐怖からギュッと目を瞑った。


「あれ?物音がしたから起きたと思ったのにー」


 近くで可愛らしい声がした。目を開けようと思ったが声が可愛いからと言って油断してはだめだ。

 すると、ベットの上に座り込んできた。

 ベットが沈む感じからそんなに大きくは無い……か?


「起きてるんでしょ?最初は布団そんなに被ってなかったよねぇ?」


 優しい声かけに心を取られそうになる。

 ん?あ、怯えていたせいで布団の中で丸まってしまっていた。

 バサッと布団をめくられる。僕は強く目を瞑り、体を縮める。


「何でそんなに怯えているの?」


 優しくて可愛い声に、僕は恐る恐る目を開ける。

 そこには金髪の髪を下ろした美少女があった。怯える僕を不思議そうに見下ろしている。アメジスト色の透き通った青い目に僕は引き込まれそうになった。


「君は……」


 勝手に思っている声が漏れてしまい、僕は慌てて口を塞ぐ。


「つい昨日会ったばっかじゃん!ほら、あんたが空から降ってきた時」


「え?」


「あんたもしかして何も覚えてないの?」


 僕は起き上がりながら答えた。


「そうだ、僕は自分が生まれた所も何もかも覚えてない!」


 彼女はとてもびっくりしている。

 

「じゃあ、あなた名前は?」


「八雲」


「変な名前ねぇ。」

 

 彼女は僕の顔を覗き込んで言った。


「それはそうじゃ。そやつは#転生者__・__#じゃからな。」


 急にしわがれた声が割って入って来た。びっくりしてドアの方を見ると


「魔女?」


 また声を漏らしてしまった。


「ひっひひひ、記憶も中途半端に無くなっておるのじゃな?そっちの世界にも魔女はおったのかな?」


「え?いやそれは……」


 魔女という言葉は勝手に口から出てきた単語だ。実際見たという記憶は無い。でも、確かにこの老婆に似合う。


「あの、僕は一体何なんでしょうか?」


 恐る恐る聞いてみる。すると、黒ずんだ老婆の瞳が光った。僕は鳥肌が立った。


「分かった。小僧のすべてと、この世界が何なのか、すべてを教えてやろう」

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