俺と僕のすれ違う世界の境界

裕雨

プロローグ

転生先は遥上空

 俺は強く風を切る音に目が覚めた。

 そこにはとても綺麗な世界が広がっていた。白くふかふかした雲の絨毯じゅうたんの上に広がる世界。辺りを見回しても何もない、強いて言うなら白く光る太陽が1つだけある。

 俺は叫んだ。


「かのーん!」


 俺の友達の女の子の名前だ。だが届くはずも無い。

 そうしているうちにも高速で落下し雲を抜けて、この世界が見えた。俺の住んでいた街と違う、緑あふれる綺麗な世界だ。



 気がつくと俺は地面を背に仰向けになっている。太陽で熱せられた熱が背中を温める。

 起き上がろうと力を入れるが体が動かない。仕方無く首だけ動かして辺りを見回す。緑溢れる世界を期待したが、その逆だった。俺の見渡す限り周りの植物は朽ち果てている。よく見れば、俺の周辺は植物すらない、まるで地獄。あ、そうか……俺は地獄に落ちたのか……そう思った。

 するとどこからか、女の子の声がする。どうやらこちらに近づいてきているようだ。


「おば……はや……きて」


 かすかに聞こえて来る声。でも、俺はもう気が遠くなり、体が動かない……意識を失おうとした時、耳元で叫ばれた。


「大丈夫かあ!?」


 ゆっくり目を開ける。そこには中学生程の可愛らしい女の子が僕の隣にちょこんと座って、顔を覗き込んでいた。あまりにも美しいものだから、一瞬夢かと思ってしまった。


「ゆ……め?」


すると彼女はぷくーっと顔を膨らませ少し怒ったように言った。


「夢じゃねーぞ!気をしっかりもてー!」


 可愛いとしか言えない仕草に言葉が出ない。俺は力を振り絞って彼女の頭に手を乗せてこう言った。


「死ぬ前にこんなかわいい子に会えて良かった」


 彼女は顔を赤らめて、どうしたら良いのか反応に困っている。これもまたかわいい……


「と、とりあえずまだ死ぬな!お祖母様が助けに来てくれている」


 少しずつ気が遠くなっていく……彼女の頭の上に乗せていた手に力が無くなり、地面に手を着いていた彼女の手に着地する。俺は彼女の手を握って最後にこう言った。


「か、かのんを探してくれ……」


 それだけ言って俺は目を閉じた。

 こうして俺は永遠の眠りについた。



 高校生活がスタートして最初の冬に、俺は友達とスキーにでかけていた。名前は夏音かのん、幼なじみの女の子だった。とてもかわいくて、俺の周りの男子はいつも羨ましそうにしていた。ただ、相手は俺の事を恋愛対象として見ているようではなかったので、俺は恋愛感情を抱かないように心を抑えていた。

 極寒の中俺たちは寒さを忘れてスキーを楽しんだ。体は冷えていたが心の中はほかほかだった。

 そして事件は起こった……スキーを終えてバスで帰っている途中、バスがスリップしてガードレールを突き破り、山の斜面を転がり落ちたのだ。その時から記憶はない、気づいたら雲の上だったのだ。

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