第10話 3体の影

 俺は今、俺が話しているのを第三者の視点から見つめている。何故こうやって俺を見ていられるのか、俺自身でも謎だった。


 「これで君たちは動けるようになった。さぁ、動いてご覧?」


 すると俺の周りの地面から2mほどの影が出てきた。その影はだんだんと人間の形になっていき、人型になると翼をはやし、顔には不気味なほど口角の上がった口が描かれていた。その時、俺がみているのは俺じゃなくて俺の形をした何かだと気づいた。

 

 「君たちにはこれから僕の復活のためにたくさんの魔力を集めてもらう。魔力の集め方は簡単。人から奪うんだ。一番簡単なのは殺すことだけど正直奪えれば方法なんてなんでもいいよ。」


 3体の影はうなずいた。


 「でも気をつけてね。今の君たちじゃまだ上位貴族にはギリギリ勝てるか勝てないか。それに人間は群を組むのが好きだからね。くれぐれも殺されないように最初は魔力の少ない人間から奪っていくんだよ。そうすればだんだん強くなって魔力も集めやすくなるさ」


 俺がそう言うと3体の影は翼をはばたかせ空へ飛んでいった。しかし、その中の1体だけ、うまく飛べずに落ちていった。その影の額には大きく「Ⅲ」と書かれてあった。


 「まったく、どんくさいな君は。ほら、僕の魔力をもう少しあげよう。これで飛べるだろ?」


 俺の手から影に向かって黒く光る何かが移った。それが影の中に入ると影はお辞儀をして飛び立った。


 「もうヘマするなよ、トリー。」



□□□□□□□□



 目を覚ますと木目の天井が目に入った。あたりを見渡すとどうやらメアルさんの家らしい。俺はソファの上で寝かされていた。メアルさんは外にいるのか目に見える範囲にはいない。

 

 「トリー・・・?」


 夢でも現実でも見た影。その額には大きく「Ⅲ」と書かれてあり、「トリー」と呼ばれていた。そして俺が、いや、俺と同じ容姿の誰かが「トリー」と呼んでいた。


 「復活・・・魔力・・・トリー・・・」

 「なんのこと?」

 「いや、昨日俺の体をのっとったやつのことです・・・っていたんですか!?」


 メアルさんはいつの間にか一人がけのソファに座り、ホットココアを飲んでいた。


 「いつ来たんですか?」

 「さっき。んで体をのっとったやつって?トリーって?」

 「えっと・・・・」


 俺はメアルさんに昨日、内側から来た何かに支配されたこと、支配されているときに仮面の影、トリーを動かしたこと、そして夢の中で俺を支配していた奴が影を生み出し、自分の復活のために魔力を集めさせていることを話した。


 「記憶なんじゃね?夢って言うより。」

 「うーん、どうなんでしょう・・・・。」


 そう言われるとそんなことがあったようななかったような。確信がないから明確に記憶とは言えない。


 「昨日乗っ取られていたときは意識あったんでしょ?」

 「ちゃんとありました。メアルさんに攻撃したことも、その攻撃が天命の加護ってやつのおかげで聞かないことも全部覚えています。」

 「だとしたら記憶にあってもおかしくないよな〜、それに夢って記憶から形成されるっていうし。」

 「確かに、だとしたら昨日見た夢は俺の記憶なんでしょうか?」

 「いや、知らねーけど。」


 急に他人事になったメアルさん。「記憶なんじゃないの?」って言ってきた以上「きっとそうだと思う」的な回答をくれるのが適切だと思うんだけど、これは俺のわがままだろうか。


 「メアルさんの天命の加護ってなんですか?」


 昨日、確かに俺を支配していたやつはメアルさんに向けて魔法を行使した。しかしメアルさんには効果がなかった。相手の状態を変える魔法は自分と相手との魔力さによって効果が大きく変わるが、どうもそれとは違うみたいだ。


 「とりあえず、外でるか、ルフ。」


 言われるがままメアルさんと外に出た。


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