第8話 もう一人の自分

 目が覚めると窓もなく、棚ばかりの部屋にいた。少し先に階段がある。あそこから出られるか。立とうと思っても椅子に固定されて立ち上がれない。起きてすぐ動けないって言うのはやっぱり相当なストレスだな。なんて牢屋にいた頃なら考えていただろうけど、今はそれどころじゃない。

 目の前に人の形をした影がぐったりとしている。その影にはいくつもの機械が繋がれていて、不気味に口角が上がった仮面をしていた。仮面に目はないがどこかこちらを見ているような気がした。

 逃げなきゃ!!逃げなきゃ来る!!

 

 ドク!ドク!ドク!ドク!


 自分の鼓動が聞こえるほど大きくなっている。

 その影が襲ってくるというわけじゃない。自分の中の何かが来る気がした。それが怖くて怖くてこの場から逃げ出したかった。

 もうすぐそこまで来ている!早く、早くこの部屋から出なきゃ!

 

 ドクンッ!!!


 今までより大きく鼓動が跳ねた時、俺の中の何かが出てきた。


 「やぁ、トリー。こんなところにいたんだね。」


 俺の口から発しられた言葉は俺の意識で言ったものじゃなかった。さっきまで逃げようとジタバタしていた手足が動かない。


 「さーて、これから魔力を吸い出すための装置をつけるんだけど、これ人間に使えるかわからないんだよね〜。」


 金髪の青年が部屋に入ってきた。

 まずい、頼む、逃げてくれ。今の俺は何をするかわからない。

 左目では青年を追っているが、右目では目の前の影をしっかりと見ていた。


 「起きろ、トリー。」


 右手首をくるっと回すと目の前の影がゆっくりと動き出した。トリーと言うのはこの影の名前だろうか。


 「え・・・?こいつ死んでいたんじゃ・・・?」


 影が立ち上がるのを見て金髪の青年が戸惑いを隠せずにいる。

 トリーは俺に何か話しかけているような気がするが、仮面の口は動いていないし、声も聞こえない。


 「君らしい理由だね。」


 金髪の青年に話すわけでもなく、喋り出す俺、やっぱりこの影が何か喋っていたのか。


 「お、おい・・・お前まさか・・・・。」

 「さぁ、トリー。これ外してくれ。」

 

 金髪を無視して影に話す。影はこちらに近づくと椅子に触れ、何かを唱えた。唱えた魔法も声は出ておらず、何も聞こえなかった。パラパラと剥がれるように崩れ、なくなった。


 「嘘だろ・・・!!」


 その様子を見ていた金髪はすぐ部屋を出て行った。


 「あー、それにしても拘束されるってストレスだな。」


 肩を回しながら立ち上がる俺。それに対して声のない言葉でトリーが答えている。


 「いいよいいよ、そこまで凝っているわけじゃないし。」

 「・・・・」

 「あー、実体化については魔力がまだ足りないんだ。魔力が回復すれば複写ではあるが実体化できるからもう少し待ってよ。」


 すると誰かが階段から降りてきた。


 「ルフ・・・・?」


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