第6話 魔力瓶

 「ここか。」


 言われた通りの場所にくると周りと比べて小さい家がひとつあった。ここに来る途中、酒場にルフを置いてきてしまったことを思い出したが、戻るのも面倒だし、帰る時に寄ることにした。


 コンコン。


 こんな夜に人の家を訪ねるなんて相当な変質者だよな、と思いながら扉が開くのを待つ。


 「どちら様ですか?」


 扉の向こうから男の声が聞こえる。開けてくれないって相当警戒されてるな。時間も時間だし、普通か。考えるの面倒だし、ここは簡単に客のふりしよ。


 「魔力を買えるって噂を聞いてきたんだが。」


 ガチャッ


 俺のセリフを聞くとすぐに扉があいた。中から23歳ぐらいの青年が扉に体を隠し、顔だけを出した。


 「今まで買った客じゃねぇな。」


 そりゃ、今まで買った客なんてほとんど昏睡状態だろ。リピーターが狙えるビジネスじゃないだろ。

 他人から魔力を受け取るとその量によって何かしらの支障が生まれる。それは一時的に魔法が使えなくなったり、高熱を出したり、症状は魔力の譲渡量や人によって様々だ。昏睡状態にさせるほどの魔力をこの青年が持っているとは思えないな。どんなタネになっているのか楽しみだ。


 「金は?」


 青年が俺をしたから上まで見て言った。どうやら身なりを疑われたらしい。このハットは相当高いものなのにそれがわからないとは・・・。若いからしょうがないか。


 「疑うな、ちゃんとある。」


 持っていた金貨を2〜3枚見せると青年はニヤッとして扉を大きく開き、俺を中に入れた。


 「ようこそ。」


 中は両開きのクローゼットが一つ。そして中央にテーブルと椅子が向かい合って一つずつ置いてある。後は外へと続く扉だけ。


 「今日は何本買いに?」


 椅子に座るとすぐに相手が商談を進めてくる。


 「その前に、どういうものなのか説明してくれないか?」

 「魔力瓶、俺たちはそう呼んでいる。中身は液体でそれを飲めばたちまち力が漲ってくるってわけ。1本で金貨5枚。モノは後日別の場所で渡す。」

 「なるほど、今サンプルか何かみることは出来ないのか?」

 「できないな。今は手元にな・・」


 バキンッ!


 地下室でもあるのだろうか、下から金属音がする。音だけでは金属が落ちたのか、金具が無理やり外されたのかわからないが、音の大きさからしてそれなりに大きな金属だろう。青年もその音に反応し、クローゼットの方を見た。


 「実は俺、魔法軍のものでして、この辺の魔力調査をしているんですよね。なんかこの土地で魔力の異常感知があったとかなんとかで。ねぇ、クローゼットの中。何かあるよね?見せてもらえませんか?」


 コートの第一ボタンを外し、内側にあるフクロウのマークを見せた。青年はきっとすごく動揺しているんだろうけど、なかなかその様子を顔に表さない。魔力の譲渡が禁止されていることを知ってやっているんだろ?もっと焦れよ。

 青年がフクロウのマークを確認し、一呼吸おいたぐらいにパキンという音が耳に届いた。さっきまでテーブルの対角にいた青年がすぐ目の前まで迫り、首元にナイフを突き立てた。そのナイフは根元から折れ、刃先は床にストンという音とともに突き刺さった。

 音速にギリギリ届くぐらいだろうか。ナイフ一本あれば大抵の人間は殺せるし、これぐらいの速さを持っているのならスピード勝負で負けることはないだろう。¥


 「なかなか早いね。油断しちゃってたな。」


 ナイフの柄の部分を持っている腕を掴み、拘束する。


 「スピードを強化する適性魔法だろ?なら力は訓練でも受けていない限り一般人並み、これで自慢のスピードは使えない。だろ?」


 青年はニヤッと不気味な笑みを浮かべるともう片方の手にバタフライナイフを握り、喉元を切り裂いた。が、俺の喉元が切れるわけがない。喉元を切ろうとしたナイフの刃は一本目同様大きく欠け、地面に転がった。


 「なんでナイフの方が負けるんだよ・・・・!!」

 「特異体質でね。君がどんなスピードを持っていようが俺には勝てない。さ、諦めて自首しろ。今なら俺に刃を向けたこと黙っといてやるから。」

 「くそ・・・!!」


 持ち前のスピードも手が抑えられていて活かせない、お得意のナイフ攻撃も肝心のナイフがないんじゃできるわけがない。青年は表情だけ反抗を示していたが、それ以外はどうすることもできずにいた。


 「あいつが・・・!!あいつが・・・動きました・・・。」


 クローゼットがドンと音を立てて大きく開いた。その中には青年と同じぐらいの歳の金髪の男がいた。



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