第5話 任務開始
「ガハハハハ」
夜が更けるにつれ明るくなっていく酒場。
「それにしてもこの時間で乱闘が起こらないなんてここは平和だな。」
イチゴミルクを片手に思ったことをそのまま言った。
「そうなんだよ、にーちゃん、この街は犯罪発生率が国内で最小なんだ!街のみんな仲良しだぜ!」
酒がまわり、ガハハと笑いながら陽気に話す鍛冶屋の親父。酒は人をおしゃべりにしてしまうのか親父は続けて喋りだした。
「そりゃ昔はこの酒場でも乱闘とかもあったさ、だけどこの俺がぜーんぶ納めてやったんだ。この筋肉でな!!」
力こぶを作り、周囲に見せつけると「よ!鍛冶屋の親父!」「今日もイケてるぜ!」「あんたはこの街のヒーローだ!」と煽る声がたくさん飛び交う。鍛冶屋の親父はその声に応えるようにポージングを変えていった。
「ハァーあぁ・・・・そんな平和な街でもなぁ、最近は妙な噂が飛ぶようになっちまったんだ・・・。」
一人の男が下を見ながら言った。それは床ではなく、どこか遠くを見ているようなそんな目をしていた。
「ああ、あのことか・・・」
さっきまで盛り上がっていた男たちが急に座り、下を向いた。ポージングしていた鍛冶屋の親父もどうしようもないと言わんばかりの表情を浮かべ、ため息をついていた。
「なぁ、親父・・・なんとかならねーか?」
「俺にはどうしようもねーよ・・・。」
「この街で何か起こっているのか?」
「1ヶ月半ぐらい前かな、ある青年たちが住んでいる場所で魔力が売られているって言う噂が流れたんだ。俺も直接訪ねてみたが全くそんなことはないと言っていた。だけどどうしてかな、同じぐらいの時期から急に原因不明の昏睡状態になった国民が現れたんだ。1人や2人じゃない、毎日100人以上出ている。これは絶対あいつらが関係しているに違いない。」
人の魔力を他人へと譲渡することは禁止されている。そもそも魔力の譲渡なんて普通できない。だから魔力譲渡が禁止されていることを知っている人は少ない。この国の各地で昏睡状態になっている人が増えているが、それに関しては魔法軍に依頼は来ていないからカルサハの警察か何かが調べているはずだ。
「絶対あいつらが原因だ!親父!もう乗り込んでとっ捕まえちまおうぜ。」
男が酒を片手に大声をあげる。すると「そうだそうだ!」「この街を守るためだ!」「頼むよ親父!」とギャラリーが怒りに任せて声をあげた。
ドンッ!
鍛冶屋の親父は飲み干したジョッキをテーブルに勢いよく置いた。それと同時に怒り任せに声を上げていた連中が一気に鎮まった。
「俺だってなんとかしたいさ!だけど証拠も何もない。それに魔力の譲渡なんて俺たちがどうにかできる問題じゃない。ここはじっと我慢しねーとこっちが潰されちまうぞ!みんな本当にすまねぇ・・・俺だってこの街に嫌なイメージがつくのは嫌さ、だけど耐えてくれ、今はただこの妙な噂がなくなるまで耐えるしかないんだよ・・・。」
勢いよく言い出した親父は、だんだん目に涙を浮かべていた。酒を飲むと感情の起伏が激しくなるのかそれともこの街のために何も出来ないことが相当悔しいのか、セリフをいい終える頃にはテーブルに突っ伏して泣き崩れていた。
「その青年はどこに?」
隣にいた男に尋ねた。
「店の前の通りをずっといった先に小さな家がある。そこに住んでいるんだ。」
「へぇ、ありがとう。」
親父の突っ伏しているテーブルにこの国の金貨を1枚置いた。
「今日は俺の奢りだ。だから泣くなよ、親父。」
「いいのかよ・・・。」
ぐしゃぐしゃになった顔を上げ、震えた声で言った。
「じゃぁ、俺はここで。あ、俺の代金もその金貨に含まれているからよろしく〜」
店を出ると辺りはすっかり暗くなっていた。久しぶりにこんなになるまで騒いだな。とはいえ、酒は飲めないからイチゴミルクで、酔いなんて全くないけど。
「おい、あんたまさかあそこに行くんじゃ・・・・?」
青年の居場所を教えてくれた男が慌てた様子で出てきた。
「一歩間違えたらあんたが牢屋に入ることになるかもしれないんだぞ?よそ者のあんたが興味本位で手を出すもんじゃねぇ」
「いや、今日はもう疲れたから宿に戻って寝ようかなって。そんな怖いことできる度胸俺にはないからね。」
「そうか・・・ならよかった。ありがとな、今日の酒は格別だぜ!」
男は笑顔でガッツポーズを小さく取ると店に戻っていった。
「さて、仕事するか。」
ハットを深く被り直し、誰もいない真っ暗な通りを歩いた。
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