第2話 白い楔

 「ついたよ。」


 目を覚ますと辺りは薄暗く、夜になろうとしていた。結局あの後、自分がどういう人物なのか気になったが、目を閉じるとすぐに眠りに落ちてしまった。

 タイヤのついた車は小屋まで俺とメアルさんを運んでくれた。メアルさんに案内され、小屋に入る。入ってすぐの部屋に二人がけのソファと一人用のソファそしてテーブルがある。奥の方にはキッチン、そして部屋から二階に向かって階段がある。魔法を使うのが当たり前のこの世界では家の二階に行くのにもワープを使う。階段がある家なんて珍しいどころじゃない。絶滅危惧種だ。


 「こっちこっち」


 キッチンからメアルさんの声がする。向かうとメアルさんは冷蔵庫の扉を開けたまま俺を待っていてくれたみたいで、俺の姿を確認すると冷蔵庫の中に入っていった。


 「え・・・?」


 普通冷蔵庫の中には入らない。冷蔵庫には成人男性が入れる広さなんてない。だけどメアルさんは冷蔵庫の中に入って行ってしまった。開いたままの扉を覗くと冷蔵庫の中には食べ物を保存するための空間がなく、ただ白い光を放っていた。


 「早く入ってきてー」


 白い光の中からメアルさんの声が聞こえる。恐る恐る中に入ると冷蔵庫の中だからといい特別寒さを感じるわけでもなく、狭いわけでもない。白く広い空間が広がっていてそこには6つの穴と1本の柱が立っているだけだった。


 「話の続きをしようか」


 柱のそばでメアルさんが言った。


 「君は適性魔法がないって聞いているんだけど、基礎魔法は使えるんだね?」

 「出力は小さいですけど、一応」


 この世界では基礎魔法と適性魔法がある。基礎魔法は誰しもが使える魔法、明かりを灯したり、声を大きくしたり、物をちょっとだけ軽くしたり、生活に便利なものばかりだ。そして適性魔法はこの世界の全員が持っている魔法。雷を操ったり、身体を強化したり、個人によって何が使えるかが変わってくる。俺はこの適性魔法がない。


 「君は『禁忌:人間の蘇生』を犯したって聞いたけどそれは本当?」

 「いいえ、記憶にないです。人を生き返らせたことどころか牢屋に入る前の記憶すらないです。」

 「そっかぁ、記憶にないかー。じゃぁ、聞きようがないな・・・。」

 

 メアルさんは「はぁ」とため息をついた。


 「一応説明するけど、この柱、正確には楔なんだけど、この楔は人間が禁忌を犯すと壊れる。もともと7本あったんだけど6本は壊されたんだよね。んでこの楔が壊れると人間に罰が下る。それは禁忌を犯した人のみに下るんじゃなくて、全人類に下る。」

 「その6本目は俺が壊したんですか・・・?」

 「いや、6本目は450年ぐらい前に壊されたらしい。だからここ最近この1本だけで持ち堪えている。」


 つまり、これが本当のことなら、俺は禁忌を犯していない。だとしたらなぜ俺が無期懲役・・・?


 「余談だけど最後の1本が壊されたら人類に罰が下るどころじゃなく、人類が滅ぶ何かが起こる。だとしても君が禁忌を犯していないのに国が滅んでいるのが引っかかるんだよな。戦争が起こったなんて聞いてないしな〜。」


 余談にしては世界規模の内容だった。メアルさんは腕を組みながらゆっくりと歩きながら考えるそぶりを見せた


 「他に誰かが禁忌を犯したか、それとも別の何かが起こっているか。どのみち君を監視しろって言われているから監視はするけど、俺の本職は世界の異変を止めることだからね。いろいろなことをしなきゃいけないけど、君はどうしたい?」

 「ど、どうしたいって・・・?」

 「無罪を証明する〜とか、世界を救いたい〜とかそういうのよ。」

 「俺は・・・・自分の記憶を取り戻したい。それ以外のことはそれから考える。」


 本当に俺が世界を壊したのか、まだ曖昧な情報ばかりだ。世界を壊したのならそれなりの罰を受けなきゃならないし、壊していないのなら無罪を主張しなきゃいけない。


 「オッケー。とりあえずは一緒に行動するってことで!」


 どうしてそうなった?と聞きたいが、他に何をしていいかもわからないから、とりあえずこの人についていくことにした。

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