魔法世界再生記

如月 巧

第1話 クラスワン〜禁忌の子〜

 「やぁ、君がルフレッド・オールレくんだね?」


 扉が開き。暗い牢屋の外から話しかけてくる声が聞こえる。


 「俺は、君の管理を任されたメアル・クライス。さ、自己紹介も済んだしこんな不衛生なところから早く出よう。」


 黒いハットを被り、黒いトレンチコートで身を包んだ男がいた。中に入ってくるとすぐさま俺を拘束している魔法を解いてくれた。


 「立てる?」


 拷問用の椅子に座ったまま俺は首を横にふった。

 ここ2〜3日、まともな食事どころか、水すら飲めていない。それに毎日拷問を受けて心も体もボロボロだ。


 「はい、これ。飲めばたちまち元気になる魔法の薬」


 メアルさんは試験管に入った赤い水を渡した。昔だったらきっとメアルさんのいった『飲めばたちまち元気になる魔法の薬』というのは完全にアウトなフレーズだろう。だけどそんなことも考えずに俺は赤い水を飲み干した。喉の渇きに耐えられなかったからだ。

 その水を飲むと喉は潤い、腹は満たされ、体の傷は癒え、心の痛みもすっと消えていった。


 「立てるね?」


 差し伸べてくれたメアルさんの手をとって立ち上がる。


 「行こうか」

 「いくってどこに?」

 「とりあえずこの不衛生なところから出る!話はそれからだな。」

 「俺は・・・・出てもいいの?」

 「ついておいで。」


 光の侵入すら拒むこの部屋から俺は意外とすんなり抜け出せた。



□□□□□□□□□□□


 牢獄を出ると車に乗せられた。今時、車と言ったらタイヤなんてついていないで空を飛ぶものだ。地面なんて走らない。燃料も自分の魔力を供給して動く。だが、この車はタイヤが4つ付いていて、もう何年も修復されていないボロボロのコンクリートの上を走っていた。


 「この辺ドがついても足りないぐらいの田舎だから道がガッタガタなんだよね。」


 メアルさんはシフトレバーでギアを入れ替えながら道路の愚痴をいった。今時の車に乗っていればガタガタの道路なんて走る必要もないし、愚痴も言わなくて済んだだろうに・・・。


 「んじゃ本題に入ろうか。今世界は大変なことになっています。それはそれは大変なこと。どんなことかって?それは国がいっぱいなくなっています!」


 「どうやってこんなことを起こした?」「なぜこんなことをした?」そう聞かれては殴られ、同じことを聞かれては蹴られての毎日だったから国が滅んでいるなんてこと知りもしなかった。


 「ある国は一晩で海に沈み、ある国は急に人がいなくなった。そしてある国はそこからぽっかりとなくなっていた。これが同時に起きた。ちょー不可解じゃない?」


 メアルさんはまるで都市伝説が本当かどうか確かめようとしている学生みたいにワクワクした様子で話ている。


 「それで、その原因が君なんじゃないかって。」

 「どうして!?」

 「国が滅ぶ前日、魔法軍はあるポイントから膨大な魔力を感知した。感知した瞬間は異常とはみなされず放置されていたけど、次の日国が滅んだとなったら放置しておくわけにはいかない。そして色々と調べたらそのポイントに君がいた。だから君を拘束して無期懲役にした。」

 「え・・・」


 戸惑いを隠せなかった。牢屋にいた記憶はあるが牢屋に入る前、何をしていたのかの記憶は全くない。自分は誰と関わって生きて、どこに家があって、両親はどんな顔をしているのか、それすらもわからなかった。わかるのは自分の名前がルフレッド・オールレで、誰しもがもっているはずの適性魔法が俺にはないということだけ。そんな中、急に「君が国を滅した原因だ」と言われても飲み込めない。


 「ここからはまだ世間には公開されていない情報ね、政府は君の存在を『クラスワン〜禁忌の子〜』として認定した。簡単にいうと人類が絶滅の危機に晒されちゃうってことね。それで、この話をもっと簡単にすると君のおかげで人類絶滅するかもってことね。政府も軍も君をどう扱っていいかわからないから俺に管理しろって回ってきたわけ。」


 飲み込めないものがさらに飲み込めなくなった。


 「なんて言われてもよくわからないよなー。報告書によると記憶喪失かもしれないしな。詳しいことは家で聞くよ。とりあえず景色を見るなり寝るなり、リラックスしてて。」


 本当に俺が国を滅ぼしたのか、本当に俺が原因で人類が絶滅するのか、そして俺は何者なのか。気になることばかりで『リラックスしてて』なんて言われてもできない。これから俺はどうなるんだ・・・?



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