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違う高校に進学する。
そのわかりきっていた事を改めて考えると、やけに胸を締めつける。
アツシの言うように、別々の高校に進学しようともアツシとの関係は変わらないだろう。
そして、クラスメイトとの関係がそこで途切れてしまうこともあるのだろう。
だったら、同じように高塚クミとの関係も途切れてしまうのではないかとタイチは不安になった。
ここ最近せっかく築きあげた関係性は、だけどもいとも簡単に崩れる気配を見せている。
アツシがまだ何かを話しているが、タイチの頭の中にはそれが入ってこなかった。
タイチの頭の中は、今抱いている不安を解消する方法を探すので一杯一杯だ。
とりあえずまずは、クミの進学先を聞かなければならない。
進学先を聞いて、それから――。
「それから、どうしたらいいんだろ?」
タイチの疑問はつい口から漏れていた。
「告白すりゃいいんじゃねぇの?」
タイチが呆けた顔で話を聞いていないのに気づいていたアツシは、タイチの呟きに茶々をいれてやることにした。
案の定、タイチは頬を紅潮させて慌てふためいていた。
翌日の放課後、タイチは音響係の仕事に合流することにした。
アツシの方の仕事は実のところ急を要していない事を知ったので、他の生徒達に任せることにした。
アツシもその方が良いと言っていた。
昨日の話があったからだろう。
そういうところに気を遣うのはアツシの好きそうなところだ。
つまり、タイチは別に音響係の仕事をしようと思ったわけではなくて、高塚クミと話せる時間が欲しかっただけだ。
少し邪な理由に後ろめたさはあるものの、音響係の仕事という理由でもなければまだクミに話しかける勇気をタイチは持ててはいなかった。
それでも、その後ろめたさを振り切るぐらいに、聞きたい事がある。
クミの進路の事だ。
授業終わりのチャイムがなって、タイチは音響係の集まる四組へと向かおうと席を立った。
「射場ぁ、今日は音響係行くの?」
声をかけられて振り向けば、そこには宇野カスミが立っていた。
不意に声をかけられたのでタイチは吃りながら返事をして頷いた。
少しキツめの目つきをしている宇野が、さらに険しくタイチを睨んでいる。
「な、何? 俺、何かしたっけ?」
「は? 何、びびってんの?」
質問に質問で返されたら話は進まないし、何にびびってるのかと問われても宇野の目つきとは素直に答えれず、タイチは押し黙るしか無かった。
宇野はため息混じりに頭を横に振ると、少しだけ言いにくそうに言葉を切り出した。
「あ、あのさ、今日射場が参加するんだったら、私とワタル抜けてもいいかな?」
拝む様に手を合わせて宇野は頭を下げている。
信仰なんかに疎そうな宇野がやると何だか安っぽさが増してみえる。
「うーん、まぁいいんじゃないかな。もう特に決める事とか無いわけだし」
タイチは額に手を当て目を瞑ったりと、一応の悩むフリをしてみた。
タイチとしては、クミと二人きりになれるのであれば好都合である。
下手に宇野と上牧がいるよりも、二人きりの方がすんなりと会話ができるからだ。
別に嘘をついてるわけでもないので、悪い気もしなかった。
実際のところ、音響係としてやれる仕事は本番当日を残すのみであった。
「ほんと? よかったぁ。アレがあったからさ、最近ワタルってば音響係にばっかりだからさ」
アレ、というのはクミが怒ったあの日の打ち合わせの事だろう。
確かにあの日以来、上牧は皆勤で打ち合わせに出席している。
熱心に舞台の音楽について自分の意見を言い、上牧の意見により決まりかけていた案が多少変更したりした。
「ワタルはさ、クミの事を昔好きだったんだよねぇ。もちろん今は私だけどさ。そういうのって、男って忘れられないって言うじゃん」
「忘れられない、って? 別に付き合ってたわけじゃないんだし……」
唐突に聞かされた上牧の気持ちに、タイチは動揺を隠せずにいた。
付き合ってたわけではない、と言ってみたものの上牧の様なモテる男子生徒がクミの事を好きだったというだけで、タイチの心は不安になる。
「男ってカッコつけたがるでしょ。そういうのマジ嫌なんだけどさ。彼女の前で元片思いにカッコつけるか?、って話だし。でもほら、正直私はワタルを憎めないし。そうなってくるとさ、ほら……」
まくし立てる様に言い放ちつつ宇野は言葉の続きを濁した。
しかし、濁された言葉の続きをタイチは予想し、理解できた。
ただ理解したのは言葉であり、その感情は到底納得はできなかった。
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