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「俺さ、カス高行こうって思ってんだよ」
カス高、そう略されて呼ばれるのは
茨北中学校の校区からは少し離れていて、成績も高めだ。
進学校とまではいかないまでも、有名大学への進学率はそこそこで市内では高レベルの高校と言える。
「は? 冗談だろ?」
「冗談じゃねぇよ。冗談に聞こえちまうだろうけどさ、俺はマジで言ってんの」
「成績的に無理だろ、今から勉強して間に合うわけないし」
「今から、だったらな。勉強は夏休みからみっちりやってんだよ、実は」
アツシのその言葉をタイチは素直に頷けるはずも無かった。
夏休みからこれまで一緒に遊ぶ事はあっても一緒に勉強をした事は無かったし、ましてやアツシが勉強をしてる素振りを見た事が無かった。
「悩んだんだよ、こう見えてもさ。復井高への話は昔からの約束だしさ、今さらカス高に行くなんて言えたもんじゃねぇなって」
「じゃあ、何で急にカス高に行こうなんて?」
「セツコがさ、カス高じゃないとダメなんだって。両親が強制的でさ、両親共にカス高出身らしいから。それで独りじゃ寂しいからって……」
「それで、わかった、って?」
「まぁ、ほら……俺、彼氏だし。夏ん時は付き合って間もなかったし、勢いで、つい」
突然のアツシの宣言はしかしタイチには実感として受け入れれるものではなかった。
今すぐにでも嘘だと言葉が続きそうな気がしている。
「あ、一応これでもな、二学期の中間テストは成績上がったんだぜ。試験に直接的には関係無いけど、勉強してるっていうか勉強できてるのをすげぇ実感してさ――」
アツシの言葉をタイチは上手く聞き取れなかった。
片耳から入ってもう片方へと素通りしていくように、アツシの言葉が頭に留まらない。
「もうさ……カス高は絶対なのか?」
わがままみたいな質問だった。
ずっと一緒の親友だと思っていたアツシと高校で分かれる事になる。
いつかは進路の違う事もあるだろうが、それはもう少し後の事だと思っていた。
タイチは大学に進学するつもりは無くて、アツシは大学に進学するつもりだ。
だから、その時が分かれの時なのだとずっと思っていた。
その決心はあった、しかし、まだその時では無いと思っていた。
だから、わがままみたいな質問をした。
アツシに揺らいで欲しかった。
「ああ。俺、カス高に行くよ。セツコとの約束なんだ」
長年の友人はタイチが何を言いたいかを理解して、キッパリとした口調でそう言った。
「……んだよ、そんな淋しそうな顔すんなよ。親友やめるわけじゃねぇんだし、高校違っても遊べるだろ?」
「それは、そうなんだけど……」
アツシの言葉にタイチは頷くものの、どこか淋しいものが拭えなかった。
高校に行っても続くと思っていたこうした会話があと半年もせずに終わってしまうのである。
「アツシはさ、淋しくないのかよ?」
「んー淋しいって言えばさ、俺とお前は高校行っても遊ぶ事はできるけど、流石にクラスメイト全員とはってわけにはいかないじゃん。そう考えると、あと半年ぐらいしか会わないヤツとかいるんだなぁとか思っちゃうよな」
「あ、それで張り切る気になったんだなお前」
アツシはタイチを指差し、正解、と言った。
クイズ番組の司会者みたいだ。
「正直仲のいいってわけじゃないヤツも結構いるけどさ。一年、いや、三年、ていうか小学生んときから一緒のヤツとかもいるか。そういう長年付き合いがあるんだなって思うと、最後ぐらい良い思い出作りたいなってさ」
アツシは少し照れ笑いをしながら話していた。
「んん。そういや、高塚は何処の高校行くんだ?」
咳払いを一つしてアツシは話を切り換えようとする。
強引にまったく違う話をしてもよかったが、近い話で矛先を変えようという考えに至った。
「え? いや、聞いてないけど」
「オイオイ、音響係で一緒にやってんだからそれぐらいの話はしろよ」
アツシに指摘されて、タイチは確かにと素直に頷いてしまった。
音響係の仕事で一緒にいる際に話す話題といえば、舞台の話か音響の話、もしくは共通する映画の話だ。
身の上の話は、お互いの家庭の事情程度しか話した事はない。
それも同級生として知っている範囲での話だ。
高塚クミは何処の高校に行くのだろうか?
確か高塚の成績は良い方なので、タイチ達とは違い復井高校には行かないかもしれない。
アツシ達と同じカス高だろうか?
それも違う気がする。
タイチは何となくだがクミには女子高が似合うのではないかと思った。
そうなると市内には
倍加の制服は可愛いと女子達に評判であるのは、男子であるタイチにも伝わっているほどだ。
その制服可愛さに進路を決める生徒もいるとか。
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