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「実を言うとさ、ホントは応援頼まなきゃいけない程切羽詰まってないんだよな」
ほんの少し笑い調子にアツシは言った。
アツシの横には女子生徒が居たが今度は小声ではなく、その女子生徒も四組の大道具担当らしく内情を知ってるのか小さく頷いていた。
「どういうことだよ?」
タイチはその二人の態度がよく理解できなくて、騒がしくなった周りを見回してからアツシを軽く睨みつけ小声で問いた。
「いやいや、睨むなよ。先生が、総持先生が頼んできたんだよ。暇になりそうな奴集めて作業してくれ、ってさ」
「先生が? 何で?」
「文化祭まであと一週間だろ? 一週間しか無いんじゃなくて、一週間もある。これまでやる気出して取り組んできてた奴らもさ、準備が終わって後空白じゃ、本番前にだれちゃうかもしれないだろ?」
そう言われてみれば、とタイチは思った。
あの日以来、前向きに取り組んでいる上牧に比べてその付き添いでいる宇野はここのところやる気を損なっている。
宇野の友達関係はこぞって帰宅組だから尚更なのかもしれない。
準備段階で燃え尽きる、という事なのかもしれない。
燃え尽きる、というほど宇野が音響作業に協力していた様には思えないけれど。
「まぁそんなわけで、作業がまだあるウチが引き受けたわけ。暇人を作らない様にと、せっかく出来上がった各コミュニティを無くさない様に、だっけか」
総持に頼まれた際に言われた言葉をアツシは思い出しながら口にする。
せっかく出来上がったコミュニティというのは、各係で仕事する事により今まで交流を持たなかった他クラスの生徒との繋がりだけでなく、同じクラスの生徒ともという意味もある。
一年間同じクラス、いや三年間同じクラスになっていてもなかなか話のしない生徒というのはいる。
同性でも起こり、異性であれば尚更である。
行事ごとというのは何故だかそういう壁みたいのを自然と取っ払ってくれる事がある。
しかしそこで出来上がったコミュニティは、一時的な貧弱なコミュニティで僅かな間隔を空けようものならすぐに消滅してしまう。
それが強固なものになるように出来るだけ長く共同作業させておいた方がいい。
「それに余裕ができたらこっちも助かるしな。細部にまだこだわれる時間ができる」
アツシの言葉を聞いていた隣の女子生徒が小さく首を横に振っていた。
決してタイチにもアツシにも顔を向けずに本人としては誰にも見られずに、やはり小さく、舌を出した。
タイチはその動きをはっきり見てしまい、名も知らぬその女子生徒に何故かドキッとしてしまった。
「アツシ、何でそこまで気合い入ってるんだよ? 確か文化祭準備が始まる前まで面倒くさいとか言ってたじゃないか?」
準備が始まる前、それぞれの生徒の係が決まった頃のアツシは文化祭を面倒事だと嫌がっていた。
係の仕事などせずにすぐに下校して遊ぼうとタイチを誘ってきていたぐらいだ。
タイチがクミと同じ係だと知ってからは、自分をからかう為に文化祭の話をしているものだとタイチは思っていた。
文化祭準備が始まった当初もアツシにやる気があるようには感じなかった。
彼女の林セツコと上手くいっていない事を愚痴ってはタイチを遊びに誘っていた。
しかし、いつしかタイチとアツシの下校時間が合わなくなっていた。
タイチはそれは音響係に力を入れてるあまりに、アツシが愛想を尽かして一人で先に帰ってるものだと思っていた。
でも、本当は違った。
「……ま、俺もさ、文化祭が最後の行事だって事の意味に気づいたっていうのかな。ちょっとマジになってやってみようかなって気になってさ」
恥ずかしそうに、でも何処か寂しそうな表情を浮かべてアツシは答えた。
先程までタイチとアツシの会話に聞き耳をたてていた女子生徒はいつの間にか他の女子生徒と話し出していた。
アツシの言葉にいちいち反応を示していた割には深入りする気がないのか、そもそも興味なんて少ししか無かったのか。
女子生徒の後頭部しか見えなくなったので、そういった心境というものは掴めない。
「なぁ、タイチ……」
アツシから視線を外し女子生徒の事を気にしていたタイチは、名前を呼ばれて少しばかり驚いてしまった。
間抜けな声で返事をしてしまい、すぐに声の調子を正してもう一度返事をし直す。
アツシはタイチのその様には気づいていない様で、少しだけ暗い表情をしていた。
「何だよ、どうしたんだよ?」
「……あのさ、高校何処に決めた?」
「え、
文化祭が終わり、二学期の期末テストを迎えそれを過ぎれば冬休み、年を越して一息経たずに受験が待っている。
タイチの受験する予定の高校は、復井高校だ。
家から近く、自転車で十分程度でたどり着く。
アツシとのかねてからの約束で、茨北中学校の生徒の大半が受験するだろう高校だ。
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