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 その後、クミと里丘の抗議により脚本に変更は無いことになった。

 青いウィンドブレイカーと赤いジャージ姿の二人が並んで、脚本係の生徒達に抗議してる後ろ姿はなかなか怖いモノがあった。

 クミは本当に怒っていたようで、事細かに脚本に対して抗議していた。

 タイチと二人で日頃愚痴を言っていた部分も含め出したので、タイチは慌てて止めに入った。

 クミの意見を聞けば脚本は初めから書き直す事に為りかねない。

 クミの怒り様に一緒に抗議していたはずの里丘も呆気にとられていて、脚本係の生徒は泣きそうになっていた。

 安井以外の男子生徒、女子生徒共にだ。

 その安井は、ざまあみろと言わんばかりに他の脚本係を見て笑っていたが、クミのあまりの怒り様に途中で笑うのを止めた。

 賢明な判断だとタイチは安井を見て思った。


「ちょ、落ち着けって高塚」

「射場君も何か言ってよ!」


 何かと言われても、それを言えば火に油を注ぐ様なモノ。

 クミを加熱させても仕方ない。

 タイチは何も良い言葉が浮かばなかったので、クミの腕を強引に引っ張り席に戻した。

 クミは何も言えなくなって黙って椅子に座った。


 

「あ~、危ない危ない。危うくまた改変されるとこだった」


 三階にある演劇部部室から一階の三年四組の教室に帰る途中、クミはまだ熱が冷めやらぬ様でぼやき続けていた。


「ホント、危なかったな」


 タイチも横でそう続いた。


「女装は無いよね」

「アレは無いな」


 タイチは間髪入れずに相槌を入れる。

 クミの怒りはまだまだ沸騰中で、あーだこーだと文句は止まらなかった。

 タイチはそれにしっかりと相槌を打ちつつ、クミを落ち着かせようとしていた。

 二人の後ろには、宇野と上牧がついてきていた。

 一学期までバスケ部に所属していたというだけあってがっしりした体つきで長身の上牧。

 それに寄り添う様に歩く茶色いセミロングを揺らす宇野。

 久しぶりに4人揃ったのだから少しでも打ち合わせをしたい、とクミが言ったのだがきっと今はそれどころではないなと、タイチは思う。


「なんか、ビックリしたな」

「何が?」


 上牧が小声で話してきたので、宇野も小声で返した。

 どうせ普通に話しても前の二人は、まだ先程の脚本の話で騒いでるので聞こえないだろうにと宇野は思った。


「高塚ってああいうタイプだっけ?」

「ああいうタイプ?」

「さっきみたいなの。ああやってハッキリ文句言って暴れるヤツだっけ?」


 暴れるなんて大袈裟な言い方をするんだな、と宇野は少し可笑しかった。

 それじゃあ、番長みたいだ。

 番長って言葉も古いか、と宇野は自分の考え方も可笑しくなった。


「クミは結構ハッキリ言っちゃう娘だよ、知らなかった?」


 ハッキリ言い過ぎるせいで、うまくいかない間柄の女子もいるみたいだ。

 誰とでもうまくやっていける女子生徒なんて見たことないけど。


「いや、全然」


 上牧はそう返事をして、前を行くクミを見た。

 まだ何かタイチにぼやいてる様だ。


「私は射場の方が意外だったけど」

「意外って?」

「ほら、射場って女子と喋るの苦手そうでしょ」


 上牧は視線をタイチに向ける。

 確かに言われれば、タイチが女子とあんなに喋っているのを見たのは初めてな気がする。

 そうだな、と上牧は頷き、でしょ、と宇野も頷いた。


「ちょっと二人共何してんの? 今日はちゃんと打ち合わせするんだから、急いでよ」


 いつの間にか、前を行くクミとタイチの二人と大分距離が開いていた。

 クミが振り返り、上牧と宇野を手招きする。

 合同会議があったから、全校生徒下校時間まであまり時間が無かった。

 上牧と宇野はニヤケながら歩を早めた。

 二人がいない間にタイチとクミは、なかなか面白い関係になってるんじゃないか。

 そう思うとなんだか楽しくなってきていた。


「打ち合わせって言ったって、もう何も意見ないよ俺ら」


 上牧は、椅子に座るなりそう言った。

 教室の机を四つ向かい合わせて並べた。

 そうそう、と隣に座る宇野が頷く。


「何も意見無いって、一つも意見出してないじゃないか」


 タイチがそう言って隣に座るクミが頷いた。


「あ~、やる気が無くて言ってんじゃなくて。まぁここまで協力しなかったのは悪かったけど」


 上牧は鼻頭を人差し指で掻いた。

 ばつが悪い時によくする癖だ。

 宇野と喧嘩になった時もよく鼻頭を掻いていた。


「もうさ、決まってんじゃん。アレって、映画の音楽だろ? えっとなんだっけ? 砂と、時?」

「時と砂、だよ。よく知ってんな?」


 時と砂はかなり古い映画だ。

 クミが話に出した時も、舞台の脚本が時と砂に似ていたのに気づいた時もタイチは驚いたものだ。


「知ってるよ。二年前かな、そんぐらいに夜中にやってたんだよ。俺そん時、トラウマになるかと思ったもん」


 上牧の言葉にタイチとクミは可笑しくなって少し笑った。

 なんだよ、と言う上牧に何でも無いと、タイチは返した。

 トラウマになる、確かに言われればそれぐらいショッキングな映画だ。

 言われなければそう思わなかった。

 それが何だか可笑しかった。

 理由はハッキリとしないが可笑しかった。

 クミも笑っているのできっと同じ考えなんだろう。

 タイチはそう思うと嬉しかった。

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