12

「ちょっと、何の話?」

「映画の話だよ。二年前に夜中にやっててクラスのヤツも結構観てたけど、お前観てなかったの?」

「私、映画ってアクションしか観ないから」


 だろうな、と上牧は頷いた。

 アクション映画と断定してるが、宇野は多分テレビで放映した映画にさらに限定されるのだろう。

 今までに映画館でのデートは無かったし、映画の話もロクに合った事がない。

 宇野が好きなのは、ド派手な王道アクション。


「さっき音楽聴いて思い出したんだよ。そういやあの台本読んでどっかで見たことある話だと思ったんだよ」


 パラッと目を通しただけだったから気づかなかった、と上牧は続けた。


「最後は違うんだな。それもさっき気づいた」


 トラウマになりそうになったシーンが無くなっていた。

 あの長男が自殺をしたシーンが。

 静かに迎える、誰のためかもわからないあの死が無かった。


 

「上牧君が時と砂を知ってるのはよくわかったけど、だからこその何か意見は無いの?」


 クミがそう言ったので上牧は、うーん、と唸って頷いた。


「だからこそ、意見は無いかな。もう出来上がってんじゃん、口出すことはなんも無い」

「私はよくわかんないから意見なぁし」


 宇野が手を上げてそう言った。

 手を上げて言うことかよ、と上牧がその手を下げさせた。


「お世辞抜きでさ、よく合ってると思うよ。思い出したもんな、トラウマ映画」


 そう言って上牧は苦笑いをした。

 あのシーンが頭に過った。

 あまり思い出したくないシーンだった。

 今見直しても変わらずショッキングなはずだ。

 よくもまぁ文化祭であんなものをやろうと思ったもんだ、と上牧は思った。


「トラウマ映画か~、私も観ようかな、それ」

「無理無理、お前には合ってないよ」


 何よそれ、と宇野は上牧の肩を小突く。

 痛ぇな、と言いながら上牧は笑っていた。

 タイチはなんだか羨ましくなった。

 こういう感じが恋人なのかな。

 いつか、クミともこうやってふざけあえるのだろうか?


「それじゃ打ち合わせにならないよ」

「異論無しって事でいいだろ」


 上牧がそう答えると、クミは両手で机を叩いた。

 その音に周りの生徒が驚いて、視線を四人に集中させる。


「私はちゃんと四人で打ち合わせしたいの!」

「高塚、落ち着けって」


 タイチは慌てて、立ち上がろうとするクミの肩を抑える。

 先程の合同会議での興奮がまだ治まっていないのだろうか?


「ちゃんと皆で作ろうよ」

「だから、もう出来上がってんだから意見は無いって。俺たちは今ので賛成なんだよ。違う曲に変えるつもりも無いし、変えたいと思うもんも無い」


 そう静かに言って上牧は、何もねぇよと周りの生徒たちに手を振る。

 周りの生徒たちも自分の事に気を戻した。


「無理矢理意見を出しあって無理矢理まとめて出来たのが、皆で作る、じゃないだろ?」

「……カスミもそれでいいの?」


 クミに尋ねられて、宇野は慌てて頷いた。


「わ、私は、その……ワ、ワタルと同じ意見、です」

「ホントに?」


 クミが再度尋ねる。

 睨むように見るクミの目が怖くて、宇野は視線を逸らした。


「き、聴いてておかしいなって思ったとこは無かったよ。ほら、ドラマとかで聞く音楽だと思ったし」


 宇野がそう答えて、クミはため息をついた。


「そっか、ありがとう。じゃあ今出来てるので決まりだね」


 クミがそう言うと、タイミング良くチャイムが鳴った。

 全校生徒一斉下校の時間だ。


 じゃあ、と言ってクミは足早に帰っていった。


 どうも機嫌が良くないようだ。

 タイチは気になって直ぐ様後を追いかけようと立ち上がったが、上牧がタイチの手を掴んだ。


「何だよ?」

「高塚って、いつもあんなの?」

「あんなの、って?」


 タイチに聞かれて、上牧は首をかしげ、うーん、と唸った。

 何と言うべきか悩んでるようだ。


「俺って高塚に嫌われてる?」

「それは、違うと思うよ」


 タイチがそう答えて、上牧は掴んでいた手を離した。


「でもほら、俺って打ち合わせにも来ないし、さっきも怒鳴っただろ?」

「そういうんじゃないよ、高塚は」

「そういうんじゃない、って?」

「上牧の事とか好きとか嫌いとかじゃなくて、高塚は皆で作り上げたいだけなんだよ」


 タイチがそう言うと、上牧は、そっか、と頷いた。


「この文化祭が中学最後の行事だから」

「最後、か。そう言えばそうだな」


 周りの生徒達が次々と帰宅していく。

 この光景も後半年もすれば見れなくなる。

 皆がそれぞれ違う高校に行って離れ離れになるのだろう。

 タイチも、上牧も、宇野も、そしてクミも。

 黙り込んだ上牧を一瞥し、タイチは再びクミを追いかけようと出入り口に向かって歩き出した。

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