マル◯の女

暗井 明之晋

マル◯の女

 "冬のイチゴ大収穫祭"

 私はメニューを見ながら、窓の外に目をやった。外は相当寒いだろう。というのも、何せここらでは珍しく雪が積もっているのだ。心なしか車の通りもいくらか少ない。

 そんな様を見ている私はといえば、仕事合間の休憩としてファミレスに来ている。

 ファミレスというと私自身、変な思い出がある。

 

 免許を取りたての頃。近くまで友達とドライブをしながら話していると、急に友達が

「お前って幽霊見える?」

と聞いてきた。私は

「唐突だな。いやしっかりは。」

というと目を輝かせ

「じゃあさ、俺の知り合いに会わない?幽霊が見えるらしいんだよ。」

私は正直微妙だった。そんなことを言う奴にはそれまででたくさん会ってきていて、本当に見えてる奴や、見えていたとてまともな奴はいなかったからだ。しかし会ってみたい。と言う気になる言葉をこの友達は言ってきた。

「いやていうのも、その人特殊な条件でしか幽霊が見えないらしいんだよ。」

こう言ったのだ。

 なぜかその時、自分の中でどこか信憑性が増した気がしたのか、結局私は会うことにした。

 後日、待ち合わせの駐車場にて待っていると

「あなたが黒澤さんね。」

と後ろから話しかけられた。

 女性だ。歳は少し上だが綺麗そうな声だ。そう期待しながら振り返ると、そこには黒髪のショートヘア。細くしなやかな体を黒い衣服で包んだ女がいた。女の顔にはサングラスをしていて、年齢や顔の感じは分からない。映画のマルサの女のようだった。

 何か良い女といった感じがしているし、それでいて何か怪しい感じも醸し出されている。

 私が呆気に取られているとマルサは

「ここで話すのもアレだからどこか移動しましょうか。」

と言ってきた。

 そういう意味がなくとも、どこか淫美な香りが言葉に含まれていて、さらに何かを期待している自分がいる。

 マルサを私の車に乗せ、走りながら車の中で彼女の今に至るまでを話してもらえた、ある程度聞いたところで私は本題を聞く

「霊って見えるんですか?」

「はい、見えますよ。」

あまりにも即答で、はっきりした答えのため嘘では無さそうと思った。だが

「今は見えないですね。」

と続けた。つまりとある状況ということだろう。

 私はますます気になる。とある状況。それとは一体。口走ろうとするとマルサは

「でもここだとその、よくないからどこか話せるところがいいから。そこで話しましょう。」

と提案してきた。

 私は近くのファミレスに寄ることにした。

 ファミレスの店内は空いており、どこでも座ることができた。彼女の希望で喫煙席に座り。ワクワクしながら話を待った。

 彼女はタバコに火をつけ、二口ほど吸うと話始めてくれた。


"昔から霊というか、白いモヤが見えたのよ。そして白いモヤが見えると、とあることが必ず起きたの。それは事故。車はもちろん。台風とかの自然災害。殺人なんかの人災。とにかくいろんな事故がそのモヤにかかってる人に降りかかって、その人は運がよくても重傷を負うことになってたわ。

 でも小さい頃の私は、白モヤと事故が繋がってるなんて半信半疑だった。けれどある事故がきっかけで私の中で確信に変わったの。

 母方の実家に帰省した際なんだけどね。電車を乗り継いで実家に向かったのよ。何回かしらね。まぁそんなことはいいか。とりあえず電車に乗っていたの。電車に乗ると度々違う電車とすれ違うでしょ。外を見るしか特にすることがなかったから見ていると、向こうから電車が来るのが分かる。まぁ来たところでなんとも無かったのだけど。ある1本の電車が来た。それをひと目見た時何となく嫌だったから見ないようにしたの。でもどうしても気になってしまってパッと見たのよ。すぐに通り過ぎるはずなのにすごく長く感じたわ。だって車内に白モヤが充満してるんだもの。物凄い速さだし、途中だからあれだけど。全車両にかかってたんじゃないかしら。

 私凄いの見ちゃったー。ってゾワゾワしながら、目的の実家に着いてゆっくりしていると、テレビ。テレビつけてってそこのお姉さんが言うの。着けるとグシャグシャの建物が映ってたわ。そして横倒しの電車もヘビみたいになって映ってるのよ。その電車がさっきすれ違った白モヤの電車だったの。

 凄く私怖くなっちゃって、その場で泣いたのよ。それ以来、私は自分の霊を見る力を信じてるし。事故を起こす霊を信じてるのよ。"


 話し終わるとタバコの火を押し潰しながらマルサは続ける

「だから状況やら、特殊な条件でしか見えないのよ。」

僕は少し納得がいって黙っていると

「さっき車の中で良くないって言ったのも。じつはまぁ、そう言うことなのよ。」

言わんとしてることは分かった。

 あまり自分にこういった場面が来るとは想像していなかったから、何も返せずにいると

「でも大丈夫。」

そう言うとマルサは胸元から、節分の炒り豆三粒が入ったパケをだしてこう言った。

「これ買って、毎週末にある所に来れば大丈夫。安全だから。必ず大丈夫だから。」

と口早に言って名刺を渡してきた。

 どうもマルチの女だったようだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

マル◯の女 暗井 明之晋 @Beyond

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る