第11話 青いレモン
私は、新しいプロジェクトに選抜された。今度は、ホテルのエントランス部分を作成するグループに入った。重要任務だ。私は、飛び上がって喜びたかった。
今度のプロジェクトでも、やはり私は、手が回っていない仕事目が行ってしまう。でも、今回からは、目についた、そのような仕事は会議で報告するようにした。もう、自分で処理することはやめた。
幸子さんと茂さんの再会は、無事果たせた。どんな話をしたかは、私は知らない。その時、私たちは、再会を確認し、その場を去った。そのあと、幸子さんは、私とあっちゃんに、老舗のテーラーで、スーツを仕立ててくれた。いくらかかったのだろうか。
今は、和子さんと一緒に、茂さんの工房で、陶芸を習っている。その様子を涼子さんに聞いたら、「楽しそうよ!」と教えてくれた。また、茂さんも、幸子さんに茶道を習っている。同じ家にいながら、未だすれ違ったことはないのだが。
私は、時間を見て、カウンセリングに通った。医者ではなので、診断書とかは出ない。ただ、話を聞いてもらうだけだが、自分を見つめ直す、いい機会になる。
セラピストは、私の気を使いすぎる原因は、好きな人に嫌われたくないという思いが強かったからだろうと見解してくれた。特に、幼少の頃は、大人の保護なしでは生きていけない。そのため、必要以上に気を使ってしまう性格が強くなったのだろうと言ってくれた。
ただ、その性格に気づかず、このまま続けていると、どこかに歪みが出て、疲労感が強くなったり、神経質な部分が強調されてしまって生活に支障が出る可能性があったと言われた。
また、セラピストは「他人は知っているが、自分は知らない性質」という「盲点の窓」があると教えてくれた。これは、「ジョハリの窓」という。
私の気を遣いすぎる性格は、自分が気づいていない性格だった。いや、気づいていたかもしれないが、気づいていないふりをしていたのかもしれない。
この「ジョハリの窓」は、人間関係を円滑にするためにも使える心理学なので、興味があれば調べてみるようにともアドバイスをくれた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「おはよう、涼子さん。」
「あら?彩乃、会社は?」
「今日、代休。日曜日に出勤したから。」
「そう、何か食べる?」
「いらない、お昼、雅也とランチだから、もうすぐ行かなきゃ。」
「あら?今までは、彼氏に自分のために有給取らせるとか絶対嫌っていっていたのに、取らせちゃったのね」
「うん、忙しく会えなかったし、たまにはいいかなってね」
「それもいいわね。しかし、みんな忙しいのね。さっき、和子さんと幸子さんも陶芸教室に出かけていったわ。」
「ふーん、楽しくやっているんだ」
「そうよ、『おっさな馴染みの思いでわぁ~』ってやつよ」と涼子さんが、歌を歌った。
「何その歌、そんな歌あるの?」
「あらぁ〜、昭和の名曲よ。『幼なじみ』て。永六輔の作詞。『幼なじみの思い出は、青いレモンの味がする、閉じるまぶたのその裏に、幼い姿の君と僕ぅ』」と涼子さんが歌いながら、キッチンに立った。
「『青いレモン』?昭和はレモンが好きなのね」
「うん?何それ」
「なんでもない」そういって、私は、涼子さんが、ハーブティーを入れてくれた。
レモングラスとローズマリーの香りが、私を優しく包んでくれる。
昭和のレモン 入江さな @novelsana
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