第26話 物語の栞 8 - 3(ロートリンゲン編)

『ロートリンゲン家とその家臣たち』


□フランツ→フランツ・シュテファン・フォン・ロートリンゲン(18歳)1708年12月8日生まれ。


・金髪碧眼、若き軍神のような見映えする容姿。身長は185cm。


・マリア・テレジアの婚約者でロートリンゲン公国の次期当主。金羊毛騎士団Order of the Golden Fleece( ゴールデン・フリース騎士団)団長にして、オーストリア帝室財務府総長となる。マリア・テレジアに、ひと目惚れ。


・身内には「グルデン金貨を握りしめて生まれた」と言われる、神がかった金融関係の才能を持つ男で、趣味は「自然科学」軍事以外には、有能な人物。


・軍神のように映える美青年であるが、騎士や軍人、指揮官としてお粗末なのは、ウィーンでは弟以外は知らない。(と、思っているがマリア・テレジアにはもうバレている。)


・弟のつけたあだ名→『フランツ・シュテファン・・フォン・ロートリンゲン』『グルデン兄さん』


・マリア・テレジアがつけたあだ名→フランツ銀行、フランツ・ノイマン。


・ポテチ王子には、フルートさんとして覚えられている。ポテチにとって、心のお兄さまであるが、本人は知らない。


・宝物→マリア・テレジア、大理石でできたヘルメスの彫像、免罪符の束。


・語学力→イタリア語☆(話せない)、フランス語★★★★★(流暢)、ラテン語★(かじった程度)、ドイツ語★★(苦手&あやしい)から、ドイツ語が母国語のマリア・テレジアのために、恋の力でランクアップ⇑して、★★★★★(流暢)、スペイン語☆(話せない)


***


□カール公子/カール→カール・アレクサンダー・フォン・ロートリンゲン、(16歳)12月12日生まれ、フランツの弟。実は兄のフォローについてきた。マリアンナに片思いされているが、気づいているかどうか不明。極楽鳥の尻尾をもらい、お気に入りの三角帽トリコーンの飾りにしている。


***


□〈故人〉ロートリンゲン公カール→フランツの祖父。マリア・テレジアの祖父、レオポルト1世時代にトルコを相手に大活躍した英雄。カールおじいさま。


***


□ロートリンゲン公ヨーゼフ/レオポルト・ヨーゼフ→フランツとカールの父。


・カール6世の親友。歴戦の強者ながら、家庭では存在が疑われるほど影が薄い。フランツの軍事的才能に、かなり問題があるのは察している。


・ロートリンゲンのヴェルサイユと呼ばれるリュネヴィル城を建築した。


***


□エリザベート・シャルロット→フランツとカールの母。『太陽王le Roi Soleil』ルイ14世〈故人〉に溺愛され、それを当然と受け止めていた自尊心の高い姪。


・女装癖と派手な男好きだった父、有能だが、あまりにも私生活のだらしない兄とは不仲だった。夫を愛しているので、もうフランスに思い入れはない。


***


□テレーゼ→フランツの妹で、カールの姉。いまのところ、妹とカスタネットを鳴らしながら、踊り遊ぶのが趣味の気楽で楽しい生活のはず?


***


□シャルロッテ→フランツとカールの妹。現在は、姉と同じく、呑気に踊り遊んで、暮らしている。


***


□ストラソルド伯爵→フランツの陰気な侍従。実は有能。


***


□ルロンクール伯爵→フランツの連れてきた彼の有能な衣装係長グラン・メートル・ド・ガルデローブ


・実は、なんの責任もないのに、フランスで酷い目にあって、フランツの母を頼って、ロートリンゲンに再就職を果たしたので、フランスが大嫌い。


***


□〈故人〉レオポルト→フランツの兄、天然痘で死亡。


******


〈 小話:プリンツオイゲン一代記:3 〉


 若きオイゲンは、プリンツ・コンティこと、親友のアルマンと一緒に、ウィーン目指して出発し、いままで使ったこともなかった、乗合馬車を乗り継いで、ドイツ領内に入ると、ようやくフランクフルトへ到着していた。


「ここがフランクフルト……」

「おしりが痛いざんす……」

「乗合馬車だからね。えっと……フランクフルトは、金融の中心地として発展し、歴代の神聖ローマ皇帝の戴冠式が行われている“聖バルトロメウス大聖堂”は、見のがせないスポットです」

「通称、カイザードームKaiserdom(皇帝の大聖堂)カッコいいざんす! 急いでいるけれど、少しくらい寄ってみる? 塔に登ると市街地を見渡せて、マイン川も一望できるって!」

deとは違って、きれいな川だから、さぞかし美しい景色だろうね」


 ふたりは、「グランドツアー、フランクフルト編」の小冊子を見ていた。そして、少し浮かれてしまい、大聖堂へ立ち寄った。しかしながら、それが、親友たちに訪れた、運命の分かれ道だったのである。


「プランセス!(※プリンツ、プリンスの意味) プランセス・コンティざますね! どうか、どうか、お待ちくださいませ!」

「え……?」


 大聖堂の塔で、フランクフルトの景色を満喫し、今夜の宿へ戻ろうか、そんな話をしていたふたりに向かって、大勢の騎士を引き連れた、いかにもフランスの貴族、そんな男が焦った顔で、馬から飛び降り、目の前まで走ってきたのである。


 彼は、アルマンの出奔を知った、太陽王ルイ14世le Roi Soleilに、「ありとあらゆる手段を取って、ただし、傷ひとつつけずに、必ずやプランセスを、パリまで連れ帰るように!」そう、厳命されていたのである。


 見た目の悪い、「不細工オイゲン」は、どうでもよかったが、見栄え重視のルイ14世は、ことのほかアルマンを可愛がっていたのである。


 そんなアルマンが、不俱戴天の敵であるオーストリアに仕官するなど、考えただけで、倒れそうな出来事であった。


太陽王ルイ14世le Roi Soleilは、ご心痛のあまり、食事も喉を通らず、日夜、あなたさまのご無事を、神に祈り続ける毎日で……」


『泣き落としのメフシィ』


 そう呼ばれているメフシィ伯爵の、三日三晩の説得にも、アルマンは応じなかったが、困り切ったメフシィ伯爵は、粗末な宿屋へ、一応ついでに監禁していたオイゲンのことを思い出し、「このままでは、彼を、パリに護送せざるおえず、そうなれば、必ずやルイ14世は、オイゲンを処刑台に……」そんなことを言い出したので、もとはと言えば、この旅は自分が言い出したのに……。


 そう責任を感じ、オイゲンの身を案じたアルマンは、彼の釈放を条件に、フランスへと戻ることにしたのである。


「アルマン――!!」

「オイゲン、僕のことは心配するな! それよりも、きっと生き延びて、出世していてくれ! いつか偉くなった君と再会を果たしたら、祝杯をあげるざんすよ――! これ、ちょっとだけど! 餞別!」

「アルマン――!」


 そして、アルマンこと、プリンツ・コンティは、フランスへ戻り、アルマンと、いつか再会すると誓いながら、彼からの餞別を手にしたオイゲンの旅は、なお続いたのである。


【時代はマリア・テレジアが六歳の頃に戻る】


 前回のお話の翌日。


「えっ!? プリンツ・コンティ、パリに帰っちゃたの!?」

「なにぶん、フランスの公子でしたからねぇ……当時は大変な騒ぎになったようで……」

「再会できた?」

「なんと、ハンガリーで、無事に再会しましたよ! エステルハージ侯爵が、話を聞いて、小さな再会の祝宴の席まで用意してくれて……」

「よかったわね!」

「…………」

「???」


 確かに、プリンツ・コンティこと、ルイ・アルマンは、1683年、ルイ14世の反対を押し切って、ハンガリーへ駆けつけ、第二次ウィーン包囲のオスマントルコへの反攻で、オイゲン公と再会を果たし、共に、オスマントルコ帝国軍を打ち破るのに共闘した。


 しかしながら、しかしながら、それから数年後、アルマンは、天然痘で急死していたのである。

 彼の親しい人の不幸には、アルマンに限らず、常に天然痘の暗い陰がつきまとっていた。『死の舞踏』死神は身分を選ばず、ありとあらゆる人々を、あの世に連れ去って行くのである。


「……今日はここまで、また明日にいたしましょう。課題が終わっていたら、続きも話して差し上げますよ」

「またまた、いいところで終わるのね……」


 オイゲン公は、そう言ってから、窓からロープを伝って姿を消していた。

 甥の命が、マリア・テレジアによって、天然痘から、危うく救われる未来は、さすがの彼にも知りえなかったけれど。


 余談ではあるが、「ロマネコンティのは、プリンツ・コンティこと、ルイ・アルマン、彼の一族の由来である。


 その日、自分の宮殿に帰ったオイゲン公は、『ラ・ロマネ・コンティ』を飲みながら、静かに暗い窓の外を眺め、亡き親友のことを、久しぶりに、パリでの少年時代を、思い出していた。

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