第13話 ゴールデン・フリース騎士団 1
「兄さん、二週間にしよう! せめて二週間!」
「一週間もあればできる! ここは無能しかいないのか?! それに大公女殿下に、お会いできないのは嫌だ!(さっきの男も気になるし!)」
「……えっと、わたくし、毎日、応援にきますよ!」
「では二週間で……」
正体を知っていたカールをのぞき、まるで天使が悪魔になったような、人の変わったフランツに、恐れおののいていた周囲の人々は、大公女殿下の言葉に、深く感謝してから、突貫工事もいいところの、地味で映えない作業に突入してゆく。
「すごい……」
『フランツ・シュテファン・
ひらりと飛んできた一枚の用紙に目を通し、全部あっている! そんな風に驚いたマリア・テレジアは、ここにいても手伝えることは、あまりなさそうだと思い、「がんばってね!」小さな声でそう声援を送ってから、そういえば、エステルハージ侯爵を、かなり待たせていたことを思い出した。
彼女は護衛騎士をふたり残すことにして、「部屋に自分の許可のない者をいれないように」そう命じ、侍従にも、食事の差し入れを、忘れずにとどけるように命じる。
それから目の前の光景に、絶対に羽ペンでは追いつかないと思い、先に作っていてよかったと、侍女のひとりに先に部屋に帰らせ、試作品の『つけペン』を、すぐに筆写係たちに持ってこさせてから、急いで部屋に帰ろうとした時、はっとひらめく。
「邪魔をしてごめんなさい! フランツ! 金羊毛騎士団(Order of the Golden Fleece/ゴールデン・フリース騎士団)のお部屋を、帰りに見学してもかまわないかしら?」
「……金羊毛……ああ、別になんてことのない、ただの小部屋ですよ?」
見学するほどのものでない。そう言うフランツに、「お父さまが見せてくださらなかったの」そんな風に可愛らしくねだってみると、可愛さ半分、忙しさ半分で、フランツは自分が皇帝から預かり、決して手放さないように言われていた、大切な部屋の鍵を、マリア・テレジアは、皇帝の後継者だし、かまわないだろうと気軽に手渡す。
彼女が喜びのあまり、自分に抱きついてから姿を消したので、いいことがあったな、そう思って、しばらくぼーっとしていたが、彼は再び書類の山に向かい、ものすごいスピードで、目を通しはじめた。
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