第13話 ゴールデン・フリース騎士団 1

「兄さん、二週間にしよう! せめて二週間!」

「一週間もあればできる! ここは無能しかいないのか?! それに大公女殿下に、お会いできないのは嫌だ!(さっきの男も気になるし!)」

「……えっと、わたくし、毎日、応援にきますよ!」

「では二週間で……」


 正体を知っていたカールをのぞき、まるで天使が悪魔になったような、人の変わったフランツに、恐れおののいていた周囲の人々は、大公女殿下の言葉に、深く感謝してから、突貫工事もいいところの、地味で映えない作業に突入してゆく。


「すごい……」


『フランツ・シュテファン・・フォン・ロートリンゲン』は、優れた経営や投資のセンスを持ち合わせていた上に、マリア・テレジア(改)が、そのあまりの計算速度の早さに驚き、思わず「フランツはノイマンだった?!」などと、20世紀に生まれ、コンピューターと計算勝負をして、軽々と勝利した驚異の数学者『ジョン・フォン・ノイマン』を思い出したほどの、ものすごいスピードで、次々と悪事の洗い出し、もとい、ハプスブルク家の財政の再集計をはじめていた。


 ひらりと飛んできた一枚の用紙に目を通し、全部あっている! そんな風に驚いたマリア・テレジアは、ここにいても手伝えることは、あまりなさそうだと思い、「がんばってね!」小さな声でそう声援を送ってから、そういえば、エステルハージ侯爵を、かなり待たせていたことを思い出した。


 彼女は護衛騎士をふたり残すことにして、「部屋に自分の許可のない者をいれないように」そう命じ、侍従にも、食事の差し入れを、忘れずにとどけるように命じる。


 それから目の前の光景に、絶対に羽ペンでは追いつかないと思い、先に作っていてよかったと、侍女のひとりに先に部屋に帰らせ、試作品の『つけペン』を、すぐに筆写係たちに持ってこさせてから、急いで部屋に帰ろうとした時、はっとひらめく。


「邪魔をしてごめんなさい! フランツ! 金羊毛騎士団(Order of the Golden Fleece/ゴールデン・フリース騎士団)のお部屋を、帰りに見学してもかまわないかしら?」

「……金羊毛……ああ、別になんてことのない、ただの小部屋ですよ?」


 見学するほどのものでない。そう言うフランツに、「お父さまが見せてくださらなかったの」そんな風に可愛らしくねだってみると、可愛さ半分、忙しさ半分で、フランツは自分が皇帝から預かり、決して手放さないように言われていた、大切な部屋の鍵を、マリア・テレジアは、皇帝の後継者だし、かまわないだろうと気軽に手渡す。


 彼女が喜びのあまり、自分に抱きついてから姿を消したので、いいことがあったな、そう思って、しばらくぼーっとしていたが、彼は再び書類の山に向かい、ものすごいスピードで、目を通しはじめた。

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